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塾ブログ 林間教育通信

2022/05/29

英作文の学習ルート(3)自由英作文(その3)英検と慶應(経済)の間、当塾の英作文添削事例から

英作文の学習ルート(3)自由英作文(その3)英検準一と慶應(経)の間にある高い壁、当塾の自由英作文の添削事例から

 

はじめに

 

前回のブログ(英作文の学習ルート(3)自由英作文(その2)ー中学教科書に学ぶ英文ライティング)は如何だったでしょうか。正直申し上げて、あまり読んでくださった方は多くはないでしょう。しかしもし読んでいただいた方がいらっしゃいましたら、もしかしたら私と同じように、大学受験生の自由英作文を添削していたりしている人かもしれないですね。そしてそういう人の間にも、「そういうこと、なかなか高校生は分かってもらえないんだよね」と相槌を打ってくださる方もいるでしょうが、ちょっとピンとこないなあという感想をお持ちの方もいるだろうと思います。

 

さて今回は、前回のテーマを継承しながら、当塾の自由英作文添削事例を提示してみることにします。つまり、日本人高校生が英語を書こうとするとき、センテンスの並べ方において、どのように並べてしまうのかを確認をしていきます。そして、センテンスとセンテンスがスムーズにつながっておらず、飛躍や脱線があるとき、どのように直していったらよいのかを考えてみたいのです。

 なお今回の記事の副題として「英検準一級と慶應大学経済学部の間にある高い壁」とつけました。というのは、今回のテーマである「英文の適切な並べ方」ですが、英検準一級の自由英作文の採点基準ではそれが強く求められていないように見えるのに対し、慶應大学経済学部の入試自由英作文の採点基準ではそれが求められていると推定できるからです

大学入試難易度的に言い換えれば、早慶の文系上位学部と上智・MARCH(英検準一級等で入試に代えられる大学群)との間には、英作文・英語ライティングの採点基準が相当異なっており、いわば一つの乗り越えがたい壁のようなものがあるという思いがあるのです。

 では、さっそく自由英作文の設問と、生徒の英文例を取り扱っていくことにします。

 

ある自由英作文とその添削例

 (設問)次のテーマで100-150語程度のエッセーを英語で書きなさい。

 

 What is the most important skill a person should learn in order to lead a happy and meaningful life in the world today? 

 

Choose one skill and give reasons to support your choice. (2019年度、明治学院大学経済学部(経営A)

 

長谷川

 高校生の英作文例

I think thinking by ourselves is the most important skill.

 

These days, many people use the Internet or SNS. Of course, they are useful tools, but there is a lot of incorrect information. If we cannot think by ourselves, we will take false messages true ones and be deceived by information on the Internet. That’s why we have to think by ourselves and tell false ones from truth.

 

 Also, we use AI more frequently today than past.  Some people think many jobs that people do now will be taken by.  AI.  In order not to be dominated by AI and coexist with it, the ability of thinking by ourselves is needed for us.  (113 words)

 

 

英検(準一級)的採点と慶應的採点

 この生徒の英文にいったい何点あげられるでしょうか。さしずめ英検(と明治学院大学)の採点方式ならば、一部の文法・語法ミスを減点するだけで100点満点で95点前後の高得点を期待できるはずです。

 

他方、慶應大学(経済学部)の採点ならば、おそらくは採点に値しない不合格答案と評価されるでしょう。あるいはせいぜい30点くらいでしょうか。

 

 

端的に言って、

(1)不適切な論理展開をしており、まともな英文とは言えない。

(2)説得力が乏しい

(3)設問に答える意欲に欠けている

 

と指摘できます。 

 

まずは、英検的採点方式から見てみましょう。下の英文テキストを見てください。

赤の箇所は修正(変更または追加)を要する減点箇所です。

青の部分は、修正した方が良いが減点まではされないと思われる箇所です。

 

 

①I think thinking by ourselves is the most important skill.

 

②These days, many people use the Internet

 or SNS(=>social media).

 

③Of course, they are useful tools(=>media)

but there is a lot of incorrect information.

 

④If we cannot think by ourselves,

we will take false messages (+as) true ones

and be deceived by (+the false) information

 on the Internet.

 

⑤That’s why we have to think by ourselves

and tell false ones from truth (+true ones).

 

⑥Also, we use AI more frequently today

than past=>before).

 

⑦Some people think many jobs that

people do=>havenow

will be taken (+away) by AI. 

 

⑧In order not to be dominated by AI

and coexist with it,

the ability of thinking by ourselves

is needed for us

(=>We need the ability of thinking by ourselves).

 

 

 慶應的添削・採点

 

 他方(私の想定する)慶應大学基準であれば、

いくつかの致命的ミスを指摘せざるを得ません。

それは文法や語法の誤りではなく、

センテンスの展開やつながりに関わる問題です。

 

少々分かりにくいので、テキストは冒頭を①

として番号をつけ、

①②③、④⑤、⑥⑦⑧と分割して説明します。

 

 

①②③

 ① I think thinking by ourselves

(=>critical thinking skills; media(information) literacy)

is the most important skill.

 

②These days, many people use the Internet

or SNS(=> social media).

 

③Of course, they are useful tools(=>media), 

but there is a lot of incorrect information.

 

 

 「今日の世界において、有意義で幸福な人生をおくるために、最も習得すべき技術は何か」という設問に対して、①ではthinking by ourselves「自分で考える技術」が大事だと、主張を最初から提示しています。これは良い書き出しです。(ただし「自分で考える技術」は適切な言葉ではない。しかしこのことについては後でとりあげる)。

 

さて、短い意見文で主張を打ち出したら、すぐその後で、主張の理由を述べなくてはなりません。ところが、背景説明から始めてしまいました。本人としては、①(主張)に対し、[②③④]という一連のセンテンスの塊で理由を提示しているつもりなのでしょう。しかし英文には、数学の計算式のように①+[②③④]といった、[ ]はありません。ですから読者は、①→②→③→④と普通に読み進めます。

 

①を読んだ読み手は「自分で考える力」がどうして重要なのかなと?と思いながら、その答えを求めて②を読み進めているはずです。ところが、主題文の話題(=「自分で考える力」は大事だ)が消えていまい、いきなり話題がインターネットに変わっているのです。③も同様にインターネットです。読み手は自分が露頭に迷ったことを知り、唖然とします。要するに、①→②③において大きな「飛躍」があるわけです。もちろん、この英文に対する評価は著しく低くなるでしょう

 

 

センテンスとセンテンスに大きな飛躍が生じてしまうのは何故か。

 

一言でいえば、理由を提示するときに、<背景説明→理由(主張)>という順番でセンテンスを並べようと執着してしまうからです。もっと言えば、背景説明さえすれば、読み手は理由をなんとなく分かってくれるだろうと甘い考えを抱いているからです

 

また、端的な理由を抽出するのが苦手だからでもあります。(端的な理由を提示できさえすれば、センテンスとセンテンスは自然な流れとしてつなげることが出来たのですが。。。)

 

内容面についてはこれまでとして、英語表現の適切性をチェックしてみます。②のSNSはほとんど和製英語ですからSocial Mediaにすると良いです。③ではインターネッをtoolsと言い換えていますが、違和感があります。media にするのはどうでしょうか。(しかし、toolsでもたぶん減点まではされない)。

 

④⑤

If we cannot think by ourselves,

we will take false messages (+as) true ones

and be deceived by (+the false) information

on the Internet.

 

⑤That’s why we have to think by ourselves

and tell false ones from truth (+true ones).

 

 

ついで④⑤に行きます。どうやら②③の背景説明(ネット世界は嘘ばっかり)から、結論(「自分で考える力」があるとネット世界の嘘を見破ることが出来る)に到達したようです。これはダメな文章の展開です。最初に主張(自分で考える力は大事な技術だ)があるのですから、それをサポートする(=理由を述べる)必要があったのに、背景説明から新たに結論を導き出しているからです。簡単にまとめると次のようになります。

 

この英文の論理展開

  主張=>[背景説明=>結論]

 

求められている論理展開

 [主張=>その理由の説明=>その背景説明]

 

 

なぜこんなことになったのか。その大きな理由の一つは、書き手は漠然と結論にたどり着いただけで、その理由を自覚的に抽出できなかったからです。つまり、「自分で考える力があれば、嘘を見破ることが出来るからだ」と自覚的に提示できなかったからです。先取りすれば⑥⑦⑧にも同じ問題が見られます。ここでも、やはり理由を明示的に述べられません。本当であれば、「自分で考える力があれば、失業やリストラされないからだ」と書くべきでしたが、その一文を書けませんでした。

 

なお問題はこれだけではありません。④と⑤の2つのセンテンスがほとんど内容で重複している点です。受験生がやりがちなミスですが、気をつけましょう。大きく減点されないでしょうが、得点にはつながりません。

 

 文法・語法面については、英文に付け加えた赤字を見てください。

 

⑥⑦⑧

Also, we use AI more frequently today

than past=>before).

 

Some people think

many jobs that people do(=>havenow

will be taken (+away) by AI. 

 

⑧In order not to be dominated by AI

and coexist with it(削除する),

 

the ability of thinking by ourselves

is needed for us

(=>We need the ability of thinking by ourselves).

 

 

⑥はAlsoから出発しましたので、「自分で考える技術」が必要である2つめの理由をここで書くべきなのですが、前回と同様に背景説明に終始しています。これも相当マズイ配列です。当然のことながら、①の英文とのつながり見えず、飛躍しています。そして⑧まで読み進めると、どうやら「自分で考える力」があると、AI化が進んでも失業しなくて済むかのように書かれています。理由としてはやや曖昧な書き方です。

 

なお⑧の英文は、In order not to be dominated by AI と始まったのですから、主節の主語が人間ではないとマズイでしょう。したがって、“the ability of thinking by ourselves is needed for us” は能動態にして、“We need the ability of thinking by ourselves”とするのが良いでしょう。その他の英語表現のミスは、赤字で説明しておきましたので省略します。 

 

さて元の英文ですが、どうしたらもっと適切な英文になるでしょうか。ポイントとなるのは、次の事項です。

 

 

☆センテンスとセンテンスの飛躍をなくすこと。

☆主張のすぐ後に理由を明示的に書くこと。

☆背景事情は後から追加すること

 

 

修正案

 (主張)自分で考える力が大事だ

→(理由その1)自分で考える力があれば、嘘情報に騙されなくなるからだ

→(背景説明)ネット世界やSNSには嘘情報がはびこっている。

 

 →(理由その2)自分で考える力があれば、失業しなくなるからだ。

→(背景説明)AIの支配する時代では多くの人が失業してしまう

 

修正英文例

I think thinking by ourselves is the most important

skill in the world today. 

 

First, the ability enables you to see

through lies and fakes. In fact, there are a lot of

fake news and malicious websites on the Internet. 

 

 Second, if you can think by yourself,

you will not lose your job even when computers

and AI take many people’s jobs away.

 

Thinking by ourselves is the very best skill

every one of us should learn, indeed.

 

 

以上の修正案ですが、英文としては、オリジナルよりもかなり読みやすくなっています。しかし残念ながら、まだまだ問題点があるのです。

 

 

まず自分で考える力」”thinking by ourselves”という概念が、抽象的無内容な言葉だからです。小学生の躾にはよく使われる言葉なのかもしれませんが、どんな能力なのか具体的なイメージを思い浮かべるのはほとんど不可能です。ましてやフェイクニュースやら詐欺商法を撃退したり、失業を免れる力があるのだと言われても、困惑してしまいますね。

 

 

要するに、もう少し具体的な意味を持ち得る、有意義な抽象概念を提起すべきだったのです。たとえば、ネット情報に適切に対処できる能力であれば、critical thinking skills (批判的思考能力)やmedia literacy;information literacy(メディア・リテラシー、情報リテラシー)が良さそうです。こういう抽象概念であれば、これに対応する具体例をたくさん挙げることも出来たはずでした。(ただし、これでは失業に対処できる能力ではありません)

 

 

 問題はさらにもう一つあります。最初の設問をよく読んで下さい。「今日の世界で幸福で有意義な人生を送るために必要な技能」を書かなくてはいけないのです。元の英文だろうと修正案だろうと、幸福で有意義な人生のために必要な能力かと言えば、ちょっとばかりズレていますね。少なくともこの英文には、人生について言及は全くありません。つまり、設問にしっかりと答える文章になっていないのです。これは致命的なミスだといえます。

 

 

主な問題点を再度述べておけば、次のようになります。
設問に適切に応えていない。(①と全体)

センテンスとセンテンスの間の飛躍。(①→②、①→⑥)

文頭の主張をサポートする構成になっていない。(全体)

主張の理由がやや曖昧で、主張の直後にない。(⑤、⑧)

センテンスとセンテンスが重複している(④と⑤)

 

 

今回は以上です。次回は自由英作文を書く際の高校生の抱える問題点についての考察を書く予定です。

 

 

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