日本人(高校生)が自由英作文を書くときに、もっとも注意しなくてはならないことの一つは、一つひとつの文と文との間で、話題が唐突に「飛躍」していないかどうかである。
難しいのは、書いている本人(日本語話者)がそのことに気がつきにくいことだ。いや、むしろ、指導者に指摘されても、ミスを認めようとしない傾向にあることだ。今書いている話題に密接に関連しているのだから、断じて「飛躍」などは存在しないのだと言い張るかもしれないのである。要するに、納得できないようだ。
しかし、読み手側からすれば、やっぱり「飛躍」があって、すぐには頭に入りにくい文なのである。(もちろん読み難い英文は、東大や慶應(経済学部)などの超一流大学の入試などでは評価が低くなるはずだ)。そこで、英作文の指導者は、書き手に対して不適切であると指摘し、読み易くするように助言することが期待されているだろう。
だが、ここで大きな問題が生じている。英作文の指導者がどんなに熱を込めて生徒に説明しても、非常に多くの場合、生徒たちはそれを理解しようとしない。「飛躍」などは存在しない、「先生の言っていることは意味不明だ」と思うのだ。そして、「書き直し」を命じられても、生徒たちは無視するか、全く同じミスで散りばめられた英文を再提出してしまう。
どのように提示したら、自由英作文の学習者たちは理解してくれるだろうか。英語の講師としては、度々考えざるを得ない実に重いテーマだ。どんなに頑張っても上智大学か早稲田の教育学部がせいぜいの生徒を、慶應の経済学部や早稲田の政経学部に合格させてしまうくらいの、非常にシンドイ仕事が求められているのである。
今回は、まずはどこが間違っているのか、つまり、どこに「飛躍」があるのかを指摘する。ついで、書き手側から予期される反応(不満、反論)を述べ、それに対して我々(英作文指導者側)はどのように反論すべきかを論じていきたい。つまり、「飛躍」と言う論点を使って、文章の読みにくさを説明してみたい。最後には、「飛躍」のない代替の文を提示してみよう。
ところで、今回最初に取り上げる自由英作文の英文だが、「生徒」の書いた英文ではない。実は、誰もがよく知っている某名門通信添削会社の模範解答(?)かもしれないのである。自由英作文の添削者や出題者すらも、まともな英文が書けないのかと思うと陰鬱な気持ちになるが、単語と単語、文と文とを正しくつなげことが、いかに難しいのかを示しているようである。
問題
「学校で学ぶ科目の中で、あなたが特に重要だと思うものを一つ挙げ、その理由を50語〜70語の英語で述べよ」
(解答例)
“I consider science a very important subject. Technology has been, and will continue to be, a source of national strength for Japan, and I think it is important for us students to study science and support our country. Moreover, science will surely play an important role in solving the problems which face the world today” .
問題は、最初の二つの文に集中している。そこで、番号等をつけて、再度文を掲載しよう。
どのような科目が重要かと問われ、まず最初に①(第一文)で、理科(science)が大事だ宣言する。これは良い出だしだ。当然、②(第二の文)では、その理由を述べることが期待される。
②の文を読むと、たしかに理由らしきものが書かれている。「理科(science)」という教科が大事なのは、「技術(technology)」が国力充実のために重要だからだというのである。ユニークさはないが分かりやすい理由であるように見える。しかし、「飛躍」の有無の観点からすると、この英文ではダメなのである。どこが間違っているのか。
①の文では「理科(science)」がテーマだったのに、②の文では、冒頭からいきなり「科学技術(technology)」という言葉が登場しているのだ。これがこの文の致命的な「飛躍」である。読み手は、話題がいきなり転換していることに戸惑うはずだ。読み難い文なのだ。
(なお余談であるが、②の文の後半の緑のアンダーラインの部分は、①とほとんど重複した内容で、不要であろう。要するに、単なる字数稼ぎでしかなく、残念な文である)。
だがこれに対して、この文の書き手は不満を持つであろう。「理科(science)」が重要な科目であると述べた上で、「科学技術(technology)」が大事だからだと返答しても、全く違和感はないはずだ」と反論するに違いない。たしかに「理科(science)」と「科学技術(technology)」は非常に密接な言葉であり、言いたいことは分からぬでもない。だが、「理科(science)」と「科学技術(technology)」は、やはり異なる別の言葉であって、言葉の言い換えだとは認め難い。
とすれば、前の文で「理科(science)」が大事だと述べているのに、次の文でいきなり最初から「科学技術(technology)」で文を始めるのは、やはり「飛躍」と言える。
では「飛躍」を解消するには、どうしたら良いのか。つまり、「科学技術(technology)」という言葉を使いたいが、飛躍しないようにするにはどうしたら良いのか。そのためには、「理科」と言う言葉から文を始め、「科学技術」という言葉が導かれるようにしたい。そして、この時に、「理科」と「科学技術」の関係を具体的に明らかにしてもらいたいのだ。
なお総合系の英語の参考書では、旧情報をまず文の前半で提示し、文の後半部で新情報を追加していきなさい、英語にはそういう情報構造のルールがありますよと説明してきた。我々もその情報系の言葉を使えば、
science ==>technology
「旧情報」 「新情報」
の順番で並べなさい、いきなり「新情報」を提示してはいけない、いうことになる。
さて、二つの単語を単に旧情報から新情報へと順番に並べれば良いというものではない。「理科」と「科学技術」が具体的にどのような関係なのかを考えなくてはならないからだ。実はこれが案外厄介なのだが、例えば次のように考えてみよう。(A)(B)(C)と考えてみた。
(A)理科の実用的応用が科学技術である。
The application of scientific knowledge for practical purposes, especially industries is called technology
(B)理科教育によって科学技術発展の社会的基盤が形成される。
Science education has made the social basis for the technological advancements of the nation.
(C)理科教育によって技術者が養成されてきた。
Science education has produced engineers.
以上のような英文を補えば、理科の話が唐突に技術の話題に「飛躍」してしまうという問題を避けることができるだろう。繰り返すが、「飛躍」を避けることにより、自然で読みやすい英文になると強調しておこう。
(A)(B)(C)からそれぞれ英文を作ってみると、次のようになった。
(A)I think of science as one of the most important of all the subjects because the application of scientific knowledge for practical purposes and various industries, what is also called technology, has made our nation modern and advanced one.
(B)I think science one of the most important subjects of all. That is because the (science )education has been the social and popular basis for the technological advancements of the nation, without which modern Japanese cannot enjoy affluent and wealthy lifestyles that we have now.
(C)I consider science to be one of the most important subjects we learn at school. That is because science education has produced, and will continue to produce a lot of skilled and competent scientists, engineers, and science teachers and professors, who have made very great contributions to the welfare and prosperity of modern Japan.
高校生の書く英文では、英文の「飛躍」は非常に多く、かつ教えようとしてもなかなか理解してくれないのが実情である。ところが、今回は大学受験生の通信添削指導会社の作る模範解答に致命的な「飛躍」を見つけてしまい、大変嘆かわしい気持ちの中におります。我が国でしっかりとした英作文指導の仕組みは出来ないものなのでしょうか。
飛躍については、もういくつかブログを書いていく予定です。