慶應の小論文とは、いったいどういう問題なのでしょうか。ここでは代表的な学部として、経済学部、法学部、文学部、総合政策学部(SFC)、情報環境学部(SFC)の小論文問題がどのような問題なのか一瞥してみましょう。いずれの問題にも、やや長い課題文を読む必要がありますが、ここでは省きます。(商学部は慶應の小論文の問題としては本格的なものとはいえず、ここでは取り上げませんでした)。
経済学部 (2016年)
Aマイケル・サンデル(注、ハーバード大学の著名な政治哲学者で、彼の『正義論』は日本でもベストセラーになった。また、 NHK の「白熱教室」という番組では、日本人学生も含めて公開授業を何度もした。1953-)の『公共哲学』からその課題文を読み、「共和主義的政治理論の自由」とは何か、「リベラルの自由」の概念と対比しながら、300字以内で説明する。
B 地球温暖化防止対策のような、次世代のために現在の我々がコストを払うことは、我々の自由と矛盾しないかどうか、課題文を参考にしつつ意見を300字以内で論述する。
法学部(2016年)
(1)非常に影響力のあった歴史学者トインビー(1889-1975)の思想を解説した文章を読み、彼の思想とその根拠について400字以内でまとめる。
(2)トインビーによると、西洋文明の圧倒的優位という時代が終わり,それに代わる世界文明の時代が「来ようとしている」。これについて世界の現状に具体的に触れつつ、自分の見解を述べるという課題。(1000字以内程度か)
文学部(2016年)
現代日本の批評家である四方田犬彦のエッセイを読んで次の問に答える。四方田のエッセイは、実存主義者との論争でも著名で、一時代を築いたフランスの構造主義人類学者レヴィー=ストロース(1908-2009)の議論と、我が国の漫画家つげ義春(1937-) の漫画に言及したものである。
(1)その内容を300-360字で要約する。
(2)人間にとって「名付ける」とはどういうことなのか、課題文をふまえて320-400字で自分の考えを述べる。
総合政策学部 (SFC) (2016年)
所得や社会階層の「格差」について、「国際比較」「職業の世代間移動」「高齢化」という 3つの視 点による社会学的経済学的文章を読んで次の問いに答える。
(1) 2つの視点を選択し、それぞれ200字以内で要約する。
(2) (1)で要約した 2つの文章が、同じ視点 からの分析にもかかわらず違う結論になるか を300字以内で説明する。
(3) 2020 年の日本の「格差」について、調査・分 析の方法も述べつつ予想する問題。600字以内。
環境情報学部 (SFC) (2016年)
他の学部と比べると明らかに軽いノリを意識した問題で、学問的というよりはビジネスのプレゼンテーション的な問題設定である。ただし小論文の問題として易しいというわけでは決してない。
自分の身近なモノ(道具、例としてスマートフォン)やコト(サービス、例としてLineやTwitter)が、どのように登場してきたのか、そしてそれが、人間の意識や行動にどのような変化を与えていたのかを考える問題。A~ G までの資料を読んで次の問に答える。
資料は次の通り。 A は西岸良平の漫画「テレビが我家にやってきた!」 Bランガム「人は料理で進化した」C 関根 「ユニバーサルデザインの力」D西垣通「スローネット」Eグリーンズ編「ソーシャルデザイン」F横井「ゲームの神様」Gちきりん「社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう」
問1 それぞれの資料について一行で簡潔に答える。
問2自分の身近にあるモノやコトを一つ選び、それが、人の意識にどのような影響を与えたのか解答用紙の四つの枠を用い、採点者に説得的に述べる問題。
問3 問2で選んだモノやコトが、未来にどのように発展・進化を遂げていくか考え得る問題。880字以内。
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皆さん、慶應大学の小論文は如何でしたか? 慶應大学の受験生はこんなに面白い問題をやるのかと、興味を持たれた方もいるでしょう。あるいは、「げ、難しそう・・・出来るかな~」と不安に思われた方もいるでしょう。
親御さんも含めて、やり甲斐のある試験問題だなとか、この本すぐにでも読んでみたい ! といったような意欲が湧くようであれば、慶應大学とは相性がよいのです。ちょっと大変そうだなと思ったら、あまり向いていないのかもしれませんね。思うに、慶應大学にそんなに縛られる必要も必然性もないんじゃないかな~。他にもいろいろといい大学ありますよ!
受験生が小論文で高得点を取るためには、予備校等で様々な受験テクニック(=微調整)を身につけておいた方が良いのはもちろんです。しかし、小手先のテクニックで慶應大学の小論文をパスできるというものではないでしょう。慶應大学を受験する資格がある人ならば特別な対策を施さなくてもラクラクにパスできる、それが慶應の小論文なのですから。日頃から新聞・雑誌・新書本を楽しみながら読んだり、ニュースや教養的TV番組を見たりしながら、日常的に自分の思考を磨き続けてきた人ならばそれほど苦労なく書けてしまう試験だということなのですね。
最後に付け加えておきますと、受験資格のある受験生の争いの中で、慶應大学の文系諸学部(法学部、文学部、経済学部、SFCなど)に合格するには、最終的に英語力が決め手のようです。これは受験界では半ば常識となっています。