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2023/05/16

対話型AIとの対話:英文添削をしてもらおう

対話型人工知能(Conversational Artificial Intelligence)は、英文ライティングの添削には最高だ。

 

嘘も平気ででっちあげる人工知能(AI)

 

以前(2023年4月4日)GeePeeTeeについてのブログを書いてから、chatGPT、BARD(Google)、Bing(マイクロソフト)等の様々な対話型人工知能(AI)を試してみた。噂通りで、確かにスゴイ!

 

今までの常識を完全に覆すツールですね。例えば、舞台や単語などの諸設定を決め、これで物語を作ってくれと命令すると、瞬時に文章を作る。単語数や難易度を変えてくれとか、正誤問題を作ってくれと命令しても良い。

 

しかし、すでに頻繁に伝えられているように、とんでもない噓つき野郎でもあると実感した。ネットで調べればすぐ分かるレベルの情報でさえ、全然確かめたりせずに、いい加減な話をでっち上げる。架空の人物、決して存在しないバス路線、間違った年号などなど。

 

英語の文献では、対話型AIの発する嘘を、confabulation (=(精神病者の)作り話)だとか、hallucination(幻覚症状)とか呼ぶようだ。

 

例えば、プロ棋士で一番負け数が多い人は誰かと、iPhoneのGeePeeTeeに質問したところ(プロ棋士で負け数がずば抜けて多いのは、加藤一二三であることは、よく知られています)。

 

神田辰之助九段です。

 

と返事が返ってきました。

 

そんな名前の棋士は全く聞いたことが無かったので、架空の人物を創造してしまったのであろうと考え、いったい神田九段とは何者かと尋ねました。すると、

 

1956年生まれの棋士で、身長は170cm、血液型はAB型。得意戦法は三間飛車だが、大胆な手で敗因になってしまうことが多い。引退後は後進の指導にあたる。

 

と作り話を展開してきた。

 

なお念の為にウィキペディアで調べてみると、1957年生まれの神田辰之助は存在しないが、同姓同名の神田九段が第二次対戦前(1893ー1943年)に活躍していたと言うことがわかった。もちろん、負け数日本一の記録を樹立したわけではない。勝手に名前だけを借用したのだ。

 

対話型AIは、アメリカの司法試験に合格できる能力があるとも言われるが、いい加減に話をでっちあげてしまう場合も多いということなのだ。(とくに日本語で質問をすると、データ入力が英語と比べて少ないので、いい加減なことをさらに頻発しがちである)。

 

我々人類を騙してやろうと企んでいる訳ではないようだが、自分の作る文章について、その情報が正しいか、説得力があるか、論理的かといったポイントには、ほとんど無関心だ。だから悪気なく適当な嘘もでっち上げてしまう。

 

その理由は、対話型AIは、言語データベースに基づく文章生成装置なので、重要なのは言語表現としての「もっともらしさ」だかららしい。言い換えれば、表面的に道理にかなっているように見えさえすれば、それで良い。それが彼らの知能の正体だ。

 

 

AI言語教師と対話しながら

 

そんないい加減な詐欺師のようなAIなんか、全く無意味じゃないかと思う人も沢山いるだろうが、そんなことはない。文章の「内容」の吟味についてはまるでいい加減なのは確かだが、文章の「形式」については、優れた能力があるはずだからだ。

 

つまり、理科や社会は全然ダメな英語や国語の先生のような存在なのだ。あるいは、百科事典的機能はいい加減だが、言語辞典(類語・反対語辞典、表現辞典、コロケーション辞典、表現言語など)の機能は満載と言ったらよいだろうか。そんなAIは、言語の教師として最高ではないのか。

 

このブログは英語塾のブログであるので、我々の興味は次の点にある。英語学習のためには、どのように対話型AIの力を最大限に活用出来るだろうか。

 

オンライン上でしばしば見かけるのは、対話型AI能を使って問題文(英語長文と正誤問題など)や暗記用単語リストを作ってもらうというものだ。そういう使い方はお勧めできない。なにしろ、問題集や単語本などは、すでに山ほどあるからだ。市販の教材優れた教材教材に任せれば良い。

 

同様に、模範回答を作ってもらうとか、宿題代行をしてもうらなどの使い方も感心できない。

 

対話型AIが優れているのは、まさにその「対話型」に意義がある。つまり、個々の学習者に寄り添ってくれるのだ。解答例をいきなり提示する能力だけではなく、一人ひとりの学習者が書いた文について、ある程度以上は元の文を尊重し、その改善案を提示してくれるのは、なんとも有り難いではないか。

 

英語を学習しようと思うならば、まずは自分で英語を書いてみること、そしてそれを対話型AIに添削してもらう。そしてもしその添削やアドバイスが適切だと判断できれば、それを取り入れ、自分の文章を書き改めたり、付け加えたりするそしてさらに、書き改めた文章を再度AIにチェックし添削してもらうのだ。つまり、AIと対話を深めていくように、自分の書いた英文を何度も繰り返し修正して練り上げるのである。それが一番勉強になるのです。

 

 

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AIの提案や指摘がどうしても納得できない時にはどうするか。(2023年5月20日補筆)

 

さて、ここで大事なことを付け加える。AIの提案は必ずしも適切であるとは限らない。(具体的事例については、近いうちにいくつかブログで提示しておきたい)。もしその提案が不適切であるときは、どうしたらよいのか。その時は躊躇なく、別解を求めてみたり、別の対話型人工知能に同じ質問を投げかけてみよう

 

あるいは、AIに不明点について質問をしたり、異議申し立てしてみるのも悪くない。(AI側が、自分の主張を強引に押し通そうとする場合もあれば、即座に謝罪することもある)。こちら側が積極的にレスポンスすれば、納得できる回答を引き出せる可能性があります。

 

いずれにせよ、黙ってAIの提案を受け入れるような姿勢だけは、絶対に避けなければいけない。AIの提言をいつも真に受けるような愚か者になってはならないのです。

 

ちなみに、『英語教育』という雑誌に書かれてあった大学教授の模範英文(和文英訳)についてAIに評価を任せたところ、CEFRでB1レベル(英検2級程度)という評価でした。[抗議しても変わらず]。また、英語の哲学図鑑の和辻哲郎の解説記事(英文)を評価させたら、B2レベル(英検準一級レベル)と出ました。[抗議したらC1レベル、つまり英検1級くらいに昇格しました。教養のあるネイティヴが英検1級レベルのはずがありません(苦笑)]。

 

どちらも、率直に言ってナンセンスです。日本人大学教授やネイティヴの哲学系ライターの英文が、僕の生徒よりも低レベルのはずがないのです。おそらく、現行のAIでは英文のレベルの評価は非常に難しいのでしょう。

 

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あるいは、自由英作文の課題で、何を書けば良いのか途方に暮れている時に、いくつかアイデアを出してもらう。例えば、「あなたの行きたい海外の都市を挙げ、その理由を説明しなさい」という問題が出され、困ってしまったとしよう。このとき、例えば、「タイ国のアユタヤ市に旅行する理由をリストにして教えて」(Make a list of the reasons why people go to Ayutthaya.)と質問してみたら良い。そして、そのリストを参照しながら、自分なりの英文を書いてみるのである。

 

実際に、AIに英文の添削をやらせてみると、実に素晴らしい働きを示すことが多い。なにしろ、いつでもほんの一瞬のうちに、添削や推敲に応じてくれるのだ。日本の英語学習者の多くは、ライティング(やスピーキング)となると、独学を強いられているだろうから、かつてない福音だ。なにしろ、自分が書いた英文をしっかりと添削してもらえるなんて、ほとんどの日本の英語学習者には、期待できない状況だったのだから

 

具体事例に入る前に、長所と短所を最後に列挙してみる。

 

 

英文添削者としての対話型AI、その長所と短所

 

長所

 

  • そもそも学習者が書いた英文を全部読んでくれ、添削までしてくれる。
  • 文法ミスの指摘、語彙・表現の修正提案が出来る。
  • 追加事項や補足の提案が出来る。
  • 文章の出来を評価をしてくれる。

 

 

短所

 

  • ある程度以上の英語力がないと、使いこなすのは難しい。 
  • 気まぐれで応じてくれない時がある。(BARDの場合)
  • 動詞の動作主体が何か、代名詞が何を指しているか等については、読み間違えることが時々ある。
  • 文章の論理的不整合を指摘できない。また、文と文とのつながりの良さ(悪さ)や「飛躍」「びっくり!」の有無をよく理解しているとは限らないように見える。(e.g. not の記入忘れなどの致命的なミスであっても、chatGPTやBARDは指摘してくれない。また、日本人に多い過ちだが、センテンスとセンテンスの間に意味的な「飛躍」があり、読み手がビックリしてしまうような悪文であっても、その点を指摘できないようだ)
  • 英文の評価をさせると、一度しか同じ単語を使っていないのに、同一単語を2回繰り返して使ったから減点だ等の不適切なコメントをすることが多い。また、著しい低評価をする傾向がある。
  • 語義の差異などを質問すると、訳の分からない、あるいは、理解の困難な説明をすることがある。(私の語学不足で理解できないのか、それとも良い加減な議論をでっち上げているのか?)

 

 

 

こう書いてみると、AIによる文章添削や採点は、結局のところ、かなりポンコツで、とうてい英語学習者が利用するに値しないのではないかと思われてしまいそうだ。しかし、そんなことを書きたいのでは断じてない。まるで逆だ。

 

多くの場合、充実した指摘、提案をしてくれるからである。ただ忘れてはならないのは、AIを使う学習者側がしっかりとした判断力を持って、AIのメッセージを取捨選択しなければらないということだけである。(だから英検一級程度くらいの英語力は求められるだろう)。

 

例えば、英語教師と対話型AI(chatGPT、BARD、BING、Perplexityなど)とがタッグを組んで、高校生や英検受験生の英文ライティングの添削指導をするならば、英文ライティングの指導は、格段に迅速で能率的になるはずだ。あるいは、英語教師が英語を研鑽したり、英検一級やTOEFLのライティングの独習する時などにも、大いに役立つだろう。

 

 

今回はこれまでとする。次回は、対話的人工知能の英文添削力について、具体的に書く。

 

 

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2023/04/04

対話型人工AI(”GeePeeTee”)は英作文指導・英語ライティング学習に使えるのか?

最近、世間を大いに賑わせているお手軽な対話型AIですが、日本人の英語学習や指導、とりわけ英作文(英文ライティング)に有効に活用出来るでしょうか?英語学習者であり、英語講師である私には大いに気になるところです。皆さんも、とても興味がありますよね。

 

私も早速使ってみました、と言いたいところなのですが、2023年4月3日現在、すっかり例の対話型AI”ChatGPT”については出遅れてしまいました。今さら試すのは、ちょっと癪です。ところが2023年の3月末に、iPhone向けの対話型AIのアプリとして、“GeePeeTee”が新しく発表されたと伝えられました。そこで今度こそは乗り遅れないようにと、早速インストールし、その実力をチェックしてみた次第です。

 

という訳で、GeePeeTee先生の英語指導力の現状を紹介いたします。

 

1)GeePeeTeeの英文添削力

 

2002年の大阪大学の入試問題では、次のような和文を英訳せよという問題が出されました。

 

私たちは、ことばを使っていると、ことばというものが色々な意味で「力」を持っているということを経験すると思います。人を喜ばせたり、悲しませたり、人の心を動かして何かをさせるーーことばには、このような力があります

 

私は下記のように英訳してみました。

 

Using language, you have experienced how powerful language is in various kinds of way; it is language that makes people happy or sad or moves them to do something. They are the power of language.

 

そして、GeePeeTeeに添削をお願いしました。すると次のようなアドバイスが返ってきたのです。

There are no objectively incorrect statements in the passage, but there are couple of suggestions that could be made for improvement.

 

 要するに、文法的ミスはないが、さらに改善出来ますよと云うのです。

 

Here’s a corrected version of the passage:

“You have likely experienced the power of language in various ways. Language has the ability to make people happy or sad, and it has the power to motivate people to take action. These are just some examples of how powerful language can be.” (アンダーラインを私による)

 

どうでしょうか。確かに良い英文になったようです。

 

分詞構文などを使わず、「経験すると思います」を”have likely experienced”と修正してくれました。(ただし、GeePeeTeeに和文は読ませていません)。

 

また、”the power of language”という表現を用い、the powerを”the ability to V” と承けました。簡潔で良い表現です。

 

そして、最大の改善ポイントは、”moves them to do something”という直訳的英語を”motivate people to take action”にしたところです。

 

最後の締めくくりの”just some examples”は、和文にはない英文ですが、適切なセンテンスでしょう。

 

GeePeeTeeの英作文指導(添削)について、私はかなり気に入りました。

 

 

2)GeePeeTee先生の和文英訳力をみてみる

 

これも2002年の大阪大学の和文英訳問題です。(一部削除してあります)。

写真を撮るときは、ただカメラに向かうのではなく、あなたの好きな人の顔を思い浮かべて、話しかけるような気持ちになると良い」

 

今回は、GeePeeTee先生に直接和文を読ませ、それを英訳してくれるように要請しました。すると、次のように即座に返答してきました。

 

 

Here’s the translated sentence in English: “When taking a photo, it’s good to not just face the camera, but also imagine the face of someone you love and speak to the camera as if you’re having a conversation with them.”

 

かなり素晴らしい解答のように思えます。しかし、“When taking a photo“ という英訳は間違いです。というのは、ここで「写真を撮るとき」というのは、文意からすると、自分の写真を撮ること、つまり誰かに撮ってもらったり、セルフタイマーを使って自分の姿を撮影することを意味しているからです。そのことは文脈からは明らかです。

 

ところが、”taking a photo” と英訳してしまうと、「私が何らかのオブジェの写真を撮ろうとするとき」という意味になってしまいます。人工知能が犯しがちな誤訳だと想像できます。
話は続きます。対話型AIですので、こちらがミスを指摘すると、GeePeeTeeは修正に応じたり、謝罪してくれるのです。

 

I apologize for my mistake. Thank you for bringing it to my attention

 

と謝罪の返答がありました。さらにこちらが説明すると、

 

ありがとうございます。その場合、 正しい英訳は、「When taking a selfie」です。おっしゃるとおり、「写真を撮るときは」は自分の顔写真を撮るという意味合いがあります。

 

と返答してきました。

 

3

2

 

煩雑になるので、それ以上の修正は求めませんでした。しかし、「写真を撮る」が何故この場合には自分の顔写真を撮るという意味になるのか、そこまではGeePeeTeeは分からなかったようです。

 

また、自分の顔写真を撮るのだとしても、「taking a selfie」はちょっと不適切でしょう。これだと、2010年代以降ののスマホによる「自撮り」写真になってしまいますから。この和文はおそらくは第三者に撮影してもらう時を想定しているはずです。やはり”taking”(撮る) ではなく、”taken”(撮られる)を使い、”When you have your picture taken” としてもらいたかったところです。

 

 

仮の結論

いかがでしょうか。完璧とは言えないにせよ、Gee Pee Teeには相当の英語力が備わっていることが分かりますね。ある程度以上、たとえば英検準一級以上の英語力のある高校生でしたら、英作文の勉強の相棒にふさわしいようにさえ思えます。いや、それ以上に、英語の先生にとって、頼りになる相談相手と言って過言ではないでしょう。ただし、やはり普通の日本の中高生には、まだ使いこなせないかな

 

世間では、対話型人工AIがあれば、英語の先生は不要だという意見まで出ているようですが、それは過大評価でしょうね。

 

今回は、取り急ぎ上記の報告まで。

 

(2023年4月5日修正)

 

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2023/03/20

一番お勧めの英語の辞典(物書堂のススメ)

春がやってきました。その度に英語学習者に告知したいことがあります。それは、一番使い勝手の良い英語の辞典を、最もリーズナブルな価格で入手する時が来ましたよと言うお知らせです。

 

英語学習者、あるいは英語を日頃使っている人の大半が、最も使いやすいと思っている辞書は何でしょうか。すでに答えは出ています。

 

紙の辞典や、いわゆる電子辞書ではありません。ズバリ、iPhone用のアプリで、物書堂から出ている英語辞典と広く合意ができています。

 

そして、物書堂のセール価格は、毎年4月に実施されるようです。iPhoneを持っている人ならば、ぜひともこの機会に購入しましょう。(追加のお知らせ。2023年の春の「物書堂 新学期・新生活応援セール」は4月3日(月)から4月24日(月)(←クリックしてください) となりました)。

 

ほとんどの英語学習者の場合、物書堂のアプリの中でまずは一番リーズナブルな価格の『ウィズダム英和・和英辞典』から始めると良いでしょう。(2023年3月20日記す)

 

 

 

 

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2022/08/23

英作文で「飛躍」をなくす、あるいは旧情報から新情報へ

日本人(高校生)が自由英作文を書くときに、もっとも注意しなくてはならないことの一つは、一つひとつの文と文との間で、話題が唐突に「飛躍」していないかどうかである。

 

難しいのは、書いている本人(日本語話者)がそのことに気がつきにくいことだ。いや、むしろ、指導者に指摘されても、ミスを認めようとしない傾向にあることだ。今書いている話題に密接に関連しているのだから、断じて「飛躍」などは存在しないのだと言い張るかもしれないのである。要するに、納得できないようだ。

 

しかし、読み手側からすれば、やっぱり「飛躍」があって、すぐには頭に入りにくい文なのである。(もちろん読み難い英文は、東大や慶應(経済学部)などの超一流大学の入試などでは評価が低くなるはずだ)。そこで、英作文の指導者は、書き手に対して不適切であると指摘し、読み易くするように助言することが期待されているだろう。

 

だが、ここで大きな問題が生じている。英作文の指導者がどんなに熱を込めて生徒に説明しても、非常に多くの場合、生徒たちはそれを理解しようとしない。「飛躍」などは存在しない、「先生の言っていることは意味不明だ」と思うのだ。そして、「書き直し」を命じられても、生徒たちは無視するか、全く同じミスで散りばめられた英文を再提出してしまう。

 

どのように提示したら、自由英作文の学習者たちは理解してくれるだろうか。英語の講師としては、度々考えざるを得ない実に重いテーマだ。どんなに頑張っても上智大学か早稲田の教育学部がせいぜいの生徒を、慶應の経済学部や早稲田の政経学部に合格させてしまうくらいの、非常にシンドイ仕事が求められているのである。

 

今回は、まずはどこが間違っているのか、つまり、どこに「飛躍」があるのかを指摘する。ついで、書き手側から予期される反応(不満、反論)を述べ、それに対して我々(英作文指導者側)はどのように反論すべきかを論じていきたい。つまり、「飛躍」と言う論点を使って、文章の読みにくさを説明してみたい。最後には、「飛躍」のない代替の文を提示してみよう。

 

ところで、今回最初に取り上げる自由英作文の英文だが、「生徒」の書いた英文ではない。実は、誰もがよく知っている某名門通信添削会社の模範解答(?)かもしれないのである。自由英作文の添削者や出題者すらも、まともな英文が書けないのかと思うと陰鬱な気持ちになるが、単語と単語、文と文とを正しくつなげことが、いかに難しいのかを示しているようである。

 

 

 

問題

「学校で学ぶ科目の中で、あなたが特に重要だと思うものを一つ挙げ、その理由を50語〜70語の英語で述べよ」

 

(解答例)

“I consider science a very important subject. Technology has been, and will continue to be, a source of national strength for Japan, and I think it is important for us students to study science and support our country. Moreover, science will surely play an important role in solving the problems which face the world today” .

 

 

問題は、最初の二つの文に集中している。そこで、番号等をつけて、再度文を掲載しよう。

hiyaku

 

どのような科目が重要かと問われ、まず最初に①(第一文)で、理科(science)が大事だ宣言する。これは良い出だしだ。当然、②(第二の文)では、その理由を述べることが期待される。

 

②の文を読むと、たしかに理由らしきものが書かれている。「理科(science)」という教科が大事なのは、「技術(technology)」が国力充実のために重要だからだというのである。ユニークさはないが分かりやすい理由であるように見える。しかし、「飛躍」の有無の観点からすると、この英文ではダメなのである。どこが間違っているのか。

 

①の文では「理科(science)」がテーマだったのに、②の文では、冒頭からいきなり「科学技術(technology)」という言葉が登場しているのだ。これがこの文の致命的な「飛躍」である。読み手は、話題がいきなり転換していることに戸惑うはずだ。読み難い文なのだ。

(なお余談であるが、②の文の後半の緑のアンダーラインの部分は、①とほとんど重複した内容で、不要であろう。要するに、単なる字数稼ぎでしかなく、残念な文である)。

 

だがこれに対して、この文の書き手は不満を持つであろう。「理科(science)」が重要な科目であると述べた上で、「科学技術(technology)」が大事だからだと返答しても、全く違和感はないはずだ」と反論するに違いない。たしかに「理科(science)」と「科学技術(technology)」は非常に密接な言葉であり、言いたいことは分からぬでもない。だが、「理科(science)」と「科学技術(technology)」は、やはり異なる別の言葉であって、言葉の言い換えだとは認め難い。

 

 

とすれば、前の文で「理科(science)」が大事だと述べているのに、次の文でいきなり最初から「科学技術(technology)」で文を始めるのは、やはり「飛躍」と言える。

 

では「飛躍」を解消するには、どうしたら良いのか。つまり、「科学技術(technology)」という言葉を使いたいが、飛躍しないようにするにはどうしたら良いのか。そのためには、「理科」と言う言葉から文を始め、「科学技術」という言葉が導かれるようにしたい。そして、この時に、「理科」と「科学技術」の関係を具体的に明らかにしてもらいたいのだ。

 

なお総合系の英語の参考書では、旧情報をまず文の前半で提示し、文の後半部で新情報を追加していきなさい、英語にはそういう情報構造のルールがありますよと説明してきた。我々もその情報系の言葉を使えば、

 

science ==>technology

「旧情報」  「新情報」

 

 

の順番で並べなさい、いきなり「新情報」を提示してはいけない、いうことになる。

 

さて、二つの単語を単に旧情報から新情報へと順番に並べれば良いというものではない。「理科」と「科学技術」が具体的にどのような関係なのかを考えなくてはならないからだ。実はこれが案外厄介なのだが、例えば次のように考えてみよう。(A)(B)(C)と考えてみた。

 

 

(A)理科の実用的応用が科学技術である

The application of scientific knowledge for practical purposes, especially industries is called technology

   

(B)理科教育によって科学技術発展の社会的基盤が形成される

Science education has made the social basis for the technological advancements of the nation.

 

(C)理科教育によって技術者が養成されてきた

Science education has produced engineers.

 

以上のような英文を補えば、理科の話が唐突に技術の話題に「飛躍」してしまうという問題を避けることができるだろう。繰り返すが、「飛躍」を避けることにより、自然で読みやすい英文になると強調しておこう。

 

(A)(B)(C)からそれぞれ英文を作ってみると、次のようになった。

 

(A)I think of science as one of the most important of all the subjects because the application of scientific knowledge for practical purposes and various industries, what is also called technology, has made our nation modern and advanced one.

 

(B)I think science one of the most important subjects of all. That is because the (science )education has been the social and popular basis for the technological advancements of the nation, without which modern Japanese cannot enjoy affluent and wealthy lifestyles that we have now.

 

(C)I consider science to be one of the most important subjects we learn at school. That is because science education has produced, and will continue to produce a lot of skilled and competent scientists, engineers, and science teachers and professors, who have made very great contributions to the welfare and prosperity of modern Japan.

 

 

結びとして

 

高校生の書く英文では、英文の「飛躍」は非常に多く、かつ教えようとしてもなかなか理解してくれないのが実情である。ところが、今回は大学受験生の通信添削指導会社の作る模範解答に致命的な「飛躍」を見つけてしまい、大変嘆かわしい気持ちの中におります。我が国でしっかりとした英作文指導の仕組みは出来ないものなのでしょうか。

 

飛躍については、もういくつかブログを書いていく予定です。

 

 

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2022/06/19

Yesterday was rainy. に❌をつける英作文講師?

Yesterday was rainy. に❌をつけてしまう英作文講師?

 

以前、受験生に対して安易に大矢復『大学入試英作文ハイパートレーニング 自由英作文編』(以下、『ハイパー自由英作文』略します)を薦めてはいけない。もし相手が誰であろうとお構いなしに、『ハイパー自由英作文』をやりなさいと薦めてしまう人がいたら、学習アドバイザーとしては失格だと書きました。

 

『ハイパー自由英作文』をやれば良いじゃないですかと気軽にアドバイスしてしまう人は、基本的に独りよがりで、個々の受験生が抱える問題を理解出来ていないようですね。

 

ちなみに『ハイパー自由英作文』をやるべき受験生は、首都圏であれば、東大・一橋・東外大・慶應(経済・医) ・早稲田(政経・法)志望者のみです。他の国公立大学志望者や、英検準1級やTEAPの受検者であれば、取り組む必要はありません。

 

 

さて、以上の見解については、ある程度以上の自信があるものの、自説を確かめるために、youtube上で [大矢、自由英作文]と検索してみました。すると一番上位に上がっていたのが、大学生(?)の人気Youtuberさんの英作文講座でした。

 

その人は実は、自由英作文をするのに「模範英文の暗唱は必ずしも必要ではない」という、ちょっと不適切なアドバイスをした人でしたので、私の仮説は間違っていなかったようです。(正しいアドバイスは、「難解な和文英訳の例文を暗唱する必要はないが、中学レベルの基本英文はある程度以上絶対に覚えなさい」です。そうしないと、英文を書けるようにはならないからです)。
さて、そうは言うものの、彼の英作文講座をちょっと見ていました。すると、明らかに間違った英語のレクチャーを始めたので、ちょっとビックリしてしまいました。
下の写真を見てください。

 

Yesterday修正版
「きのうは雨でした」をそのまま日本語に直訳し、“Yesterday was rainy”. としてはいけません。と発言したのです。

 

” Yesterday was rainy.” は、「高3でも書くヤバい文章」だということになっています。また、「だいたい”Yesterday was” なんて表現、気持ち悪いね」とまで言い出す始末です。しかし、” Yesterday was rainy.”は、頻繁に使われる訳ではありませんが、決して間違った英語とは言えません。

 

 

「昨日は雨だった」の英語表現には、実に様々な表現があり、yesterdayやthe rainを主語にしても良いのです。下の文は全部正しい英文です。

 

 

  • It was rainy yesterday.
  • It rained yesterday.
  • We had rain yesterday.
  • Yesterday was rainy.
  • The rain fell yesterday.

 

間違ったことを平気でドヤ顔で明言してしまうのは、教える側の人間としては本当に恥ずかしいことです。プロ講師とはとても呼べませんね。しかし、ここでこのyoutuberさんの失態をとりあげたのは、彼個人の問題点をあげつらいたいのではなく、英作文の指導や添削の現場において、とてもプロ講師(プロ添削者)とは言えない人たちが、同じような問題を起こしているだろうと推測できるからです。
まず、プロ講師と言えない英語教師が添削したり採点したりするとき、模範解答と異なるというだけで、その解答を簡単に❌にしてしまう事例が多いことが予想されます。

 

現に模試の採点なども、かなりいい加減なものが多いようです。

 

 

私も、本当は間違っていないのに×にされている英作文の答案をいくつも見たことがあります。例えば、as if S + V (現在形)で❌にされていました。

(as if S +V の場合は、Vを過去形(仮定法)にする場合が多いが、現在形(直説法)でも良いのです。辞書を見ればちゃんと書いてあります)。

 
次に、プロ講師でない英語講師は、生徒や受験生としての学習方法と、教師としての学び方は、少々異なっていることを理解していないのではないでしょうか。

 

 

受験生は多くの場合、一冊の参考書を徹底的にマスターすればそれでOKです。「昨日は雨だった」ならば、”It rained yesterday.” “It was rainy yesterday”. “We had rain yesterday.“ の三つぐらいを知っていれば、十分でしょう。

 

 

しかしプロ講師としては、三つの表現しか知らないのでは困ります。もちろんプロ講師だとしても、あらゆる表現に精通している訳ではありませんから、正しいか否かよく判らない英文にたびたび出くわすでしょう。だがそんな時には、徹底的に調べなくてはなりません。

 

しかしこのYouTuberさんは、「”Yesterday was rainy”は気持ち悪いね、間違いだね 」と決めつけてしまった。自分が知らない表現は間違いと即決してしまった。プロ講師としてはあり得ない事でした。

 

数学で言えば、「別解」で解いた答案を❌にしてしまうような愚行でしょう。

 
英語の場合は、別解として正しいのか否か、判定するのが難しい場合があります。しかし、現代の辞書やインターネットではかなりのことまで調べることができます。最大限の努力を払って、調べるべきでしょう。

 

例)”Today is raining.” は間違いか否か。

ーーー間違いとは断言はできないが、複数の辞典に一切それに似た表現はない。またインターネットで調べる限り、その表現を用いる人はほとんどいない事がわかる。だから使うべきではない、と判断できます。

 

 

プロ英語講師はもちろんだが、高校生もたまには辞書をよく読んでみよう

 

最後に付け加えておきたいのは、英作文を教える者は、いつも辞書をフル活用しなくてはいけないということです。また、忙しい高校生・受験生も、たまには重要語について、辞書を精読してもらいたいと思います。
今回の場合であれば、辞書でyesterday (名詞)を調べてみれば、yesterday が主語で、wasが動詞の例文を、いくつも簡単に見つけることが出来たはずでした。例えば、

 

 

“Yesterday was my birthday.”

 

“Yesterday was Sunday.”
“Yesterday was my first wedding anniversary.”
“Yesterday was our day; Taro passed the bar examination.”

 

このくらい調べれば、” Yesterday was rainy.” は、ほぼ正しい表現だと推測出来たはずです。プロ講師の自覚がない人は、辞書を引く習慣がないのでしょうね。とても残念なことです。

 
ところで、エースクラウン英和辞典という高校初級用の辞書があります。この辞書でwant を調べると,

 

You (might) want to …
するほうがいいでしょう。

 

というのが出ています。こういう表現はご存知でしたか?実は『プログレス21』のBook 2 にも出てくる大事な表現なんですよ。(こういう表現を知らないと英会話をしているとき、相手の話が全然理解できない場合があります)。

 

 

今回はここまでとします。

 

 

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