昔からよく議論されている話題ですが、
残念ながら、間違った推論が幅を効かせてきました。
- 日本人は文法ばかりやっているから話せないのだ。
- 子供の頃から英語を勉強していないからだ。
- 大学入試問題が奇問難問ばかりで、実用英語でないからだ。
- 英検のような実用英語を重視していないからだ。
- ALTの外人講師を十分に活用しないからだ。
私はアメリカの大学で、外国語を「話せる」ようになる講座を受講しましたので、
これは、間違った考え方の代表例ですね。逆です。むしろ、文法力が不足しているから話せないのです。
もう少し詳しく説明します。
(その前に最初に申し上げておきたいことがあります。日本人は英語学習で文法ばかりやっているというイメージは、残念ながら中高年オヤジ的旧式英語教育観に過ぎません。良くも悪くも、かなり多くの中学高校の授業では、英文法はほとんど取り上げられていないからです。多くの(中)高校は英文法の問題集を生徒に丸投げするだけで、実際に英文法を教えているのは、実は塾や予備校なのです。ですから、もし文法中心の教育に不審があるのでしたら、寧ろ学校に英語教育を委ねるべきだと忠告しておきます。)
文法を学ばないで外国語を話そうと思ったら、同じ決まり文句をいつも繰り返し発すしか出来なくなってしまいます。”To go, please” ” I’d like coffee”だけの言語生活。。。
あるいは、単語を出鱈目に並べなければなりません。もちろん、そういったことも外国語のコミュニケーションでは、ちょっと便利な技能なのかもしれませんが、英語でそれだけでは残念ですね。
我々に必要なのは、決まり文句を100個覚えることではなく、どんな英文でもその場で作りだせる能力です。そのためには文法力がどうしても必要になるのです。
英文法というと、英文法の4択の問題集を思い浮かべる人がいるかも知れません。『Next Stage』『Up Grade』のような英文法の網羅系問題集がその典型例です。たしかに、この手の4択問題集を繰り返し読んだとしても、英語を話す能力にはつながりません。そもそもあまりにも複雑すぎます。また、所詮は4つの選択肢を選べば良い問題集にすぎないからです。
英語を話したい人がマスターすべきは、大学入試等で求められる難解な文法事項ではなく、もっと基礎的な英文法です。つまり中学英文法ですね。
中学英文法くらいならば、ある程度分かるという人もいるでしょう。あるいは、そんなものは1か月くらいで簡単にマスターできるよと考えている人もいるでしょう。しかし、本当に皆さん中学英文法をマスターしているでしょうか?
一流高校の生徒さんであっても、中学英文法をマスターしていると言える人は非常に少ないのが現実です。記号選択問題で正答が分かる、いちおう日本語に訳せるくらいでは、中学英文法をマスターしたとは言えないのです。少なくとも英語を話すために求められているのは、下の写真のような教科書の基本例文をよく覚え、和文英訳的に英文を自在に作り出す能力なのです。つまり、最低限、<話し・書くための中学英文法>が求められています。
当塾の経験から言えば、教科書レベルの和文英訳が即座に出来るようにをマスターするためには、短くても3-5か月、長いと2-3年かかります。決して短くはありませんが、やる価値の非常に高い、和文英訳でもあり例文暗唱だとも言えます。
一方、従来の普通の英語学習では、どういうルートで文法力を伸ばしていったでしょうか。多くの場合、中学英文法を完全にマスターしていないのにも関わらず、難解な英文法(高校英文法・受験英文法)に突入していました。このように文法を勉強したのでは、話したり書いたりすることは出来ません。しかしながら、文法力が不要だという訳では決してないのです。
念のために付け加えておけば、文科省が進めているような中途半端な小学校英語は、
大学入試英語が奇問難問の時代は終わりました。
大学入試に全責任を負わす考え方は、やや不当だといえます。
英検の四技能(話す、書く、読む、聴く)重視には確かに良い面もあります。しかし、英検準一級に合格して上智・MARCHに進学した者に対して、「英語を話せる人」という認定をできるかというと、非常に厳しいと言わざるを得ません。さらに、英検は総じてどの級も、2020年以降大いに易化してしまったことを忘れてはいけません。
英検を評価しすぎてはいけません。
Yes です。
なにしろアメリカの大学では、
簡単に言えば、次のようなプログラムです。
<少人数教室(10人未満)>
<週五回(2年目は週3回)+復習>
<ネイティヴ講師>
<希望者のみ受講>
また、「集中言語プログラム」も極めて有益です。(私自身は、
<少人数教室(10人未満)>
<1日3時間・週5回・8週間 +復習>
<ネイティヴ講師>
<希望者のみ受講>
このような理想的コースがあれば、
余談となりますが、ひとつだけ興味深いことを書いておきます。上記のアメリカの大学の語学教育では、
今回はこれまでと致します。次回は、もっと現実的な英語を話すための教育プログラム案について説明します。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シリウス英語個別指導塾 by 東大式個別ゼミ
中高一貫校専門 大学受験英語塾 英検
相模大野・中央林間・横浜・藤沢・町田
住所:神奈川県相模原市南区東林間4丁目13-3
TEL:042-749-2404
https://todaishiki-english.com/
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以前、受験生に対して安易に大矢復『大学入試英作文ハイパートレーニング 自由英作文編』(以下、『ハイパー自由英作文』略します)を薦めてはいけない。もし相手が誰であろうとお構いなしに、『ハイパー自由英作文』をやりなさいと薦めてしまう人がいたら、学習アドバイザーとしては失格だと書きました。
『ハイパー自由英作文』をやれば良いじゃないですかと気軽にアドバイスしてしまう人は、基本的に独りよがりで、個々の受験生が抱える問題を理解出来ていないようですね。
ちなみに『ハイパー自由英作文』をやるべき受験生は、首都圏であれば、東大・一橋・東外大・慶應(経済・医) ・早稲田(政経・法)志望者のみです。他の国公立大学志望者や、英検準1級やTEAPの受検者であれば、取り組む必要はありません。
さて、以上の見解については、ある程度以上の自信があるものの、自説を確かめるために、youtube上で [大矢、自由英作文]と検索してみました。すると一番上位に上がっていたのが、大学生(?)の人気Youtuberさんの英作文講座でした。
その人は実は、自由英作文をするのに「模範英文の暗唱は必ずしも必要ではない」という、ちょっと不適切なアドバイスをした人でしたので、私の仮説は間違っていなかったようです。(正しいアドバイスは、「難解な和文英訳の例文を暗唱する必要はないが、中学レベルの基本英文はある程度以上絶対に覚えなさい」です。そうしないと、英文を書けるようにはならないからです)。
さて、そうは言うものの、彼の英作文講座をちょっと見ていました。すると、明らかに間違った英語のレクチャーを始めたので、ちょっとビックリしてしまいました。
下の写真を見てください。
「きのうは雨でした」をそのまま日本語に直訳し、“Yesterday was rainy”. としてはいけません。と発言したのです。
” Yesterday was rainy.” は、「高3でも書くヤバい文章」だということになっています。また、「だいたい”Yesterday was” なんて表現、気持ち悪いね」とまで言い出す始末です。しかし、” Yesterday was rainy.”は、頻繁に使われる訳ではありませんが、決して間違った英語とは言えません。
「昨日は雨だった」の英語表現には、実に様々な表現があり、yesterdayやthe rainを主語にしても良いのです。下の文は全部正しい英文です。
- It was rainy yesterday.
- It rained yesterday.
- We had rain yesterday.
- Yesterday was rainy.
- The rain fell yesterday.
間違ったことを平気でドヤ顔で明言してしまうのは、教える側の人間としては本当に恥ずかしいことです。プロ講師とはとても呼べませんね。しかし、ここでこのyoutuberさんの失態をとりあげたのは、彼個人の問題点をあげつらいたいのではなく、英作文の指導や添削の現場において、とてもプロ講師(プロ添削者)とは言えない人たちが、同じような問題を起こしているだろうと推測できるからです。
まず、プロ講師と言えない英語教師が添削したり採点したりするとき、模範解答と異なるというだけで、その解答を簡単に❌にしてしまう事例が多いことが予想されます。
現に模試の採点なども、かなりいい加減なものが多いようです。
私も、本当は間違っていないのに×にされている英作文の答案をいくつも見たことがあります。例えば、as if S + V (現在形)で❌にされていました。
(as if S +V の場合は、Vを過去形(仮定法)にする場合が多いが、現在形(直説法)でも良いのです。辞書を見ればちゃんと書いてあります)。
次に、プロ講師でない英語講師は、生徒や受験生としての学習方法と、教師としての学び方は、少々異なっていることを理解していないのではないでしょうか。
受験生は多くの場合、一冊の参考書を徹底的にマスターすればそれでOKです。「昨日は雨だった」ならば、”It rained yesterday.” “It was rainy yesterday”. “We had rain yesterday.“ の三つぐらいを知っていれば、十分でしょう。
しかしプロ講師としては、三つの表現しか知らないのでは困ります。もちろんプロ講師だとしても、あらゆる表現に精通している訳ではありませんから、正しいか否かよく判らない英文にたびたび出くわすでしょう。だがそんな時には、徹底的に調べなくてはなりません。
しかしこのYouTuberさんは、「”Yesterday was rainy”は気持ち悪いね、間違いだね 」と決めつけてしまった。自分が知らない表現は間違いと即決してしまった。プロ講師としてはあり得ない事でした。
数学で言えば、「別解」で解いた答案を❌にしてしまうような愚行でしょう。
英語の場合は、別解として正しいのか否か、判定するのが難しい場合があります。しかし、現代の辞書やインターネットではかなりのことまで調べることができます。最大限の努力を払って、調べるべきでしょう。
例)”Today is raining.” は間違いか否か。
ーーー間違いとは断言はできないが、複数の辞典に一切それに似た表現はない。またインターネットで調べる限り、その表現を用いる人はほとんどいない事がわかる。だから使うべきではない、と判断できます。
最後に付け加えておきたいのは、英作文を教える者は、いつも辞書をフル活用しなくてはいけないということです。また、忙しい高校生・受験生も、たまには重要語について、辞書を精読してもらいたいと思います。
今回の場合であれば、辞書でyesterday (名詞)を調べてみれば、yesterday が主語で、wasが動詞の例文を、いくつも簡単に見つけることが出来たはずでした。例えば、
“Yesterday was my birthday.”
“Yesterday was Sunday.”
“Yesterday was my first wedding anniversary.”
“Yesterday was our day; Taro passed the bar examination.”
このくらい調べれば、” Yesterday was rainy.” は、ほぼ正しい表現だと推測出来たはずです。プロ講師の自覚がない人は、辞書を引く習慣がないのでしょうね。とても残念なことです。
ところで、エースクラウン英和辞典という高校初級用の辞書があります。この辞書でwant を調べると,
You (might) want to …
するほうがいいでしょう。
というのが出ています。こういう表現はご存知でしたか?実は『プログレス21』のBook 2 にも出てくる大事な表現なんですよ。(こういう表現を知らないと英会話をしているとき、相手の話が全然理解できない場合があります)。
今回はここまでとします。
最近、小学生のお子さんを英検準一級に合格させたいという問い合わせを受けることが時々あります。たしかに英検準一級に合格することは、小学生や中学生のお子さんにとっては、かなりの勲章です。しかし当塾としては、早くから英検準一級を目指すことについては、あまり推奨している訳ではありません。
一つの理由は、英検準一級で取り扱われる英語、とくに英語長文は、高校生以上のためのトピックが中心であり、ほとんどの小学生のお子さんには理解しにくいものだからです。そういう大人向きの英文を、小学生に無理やり読ませることに何かメリットがあるのか疑問だからです。(但し、かなり早熟かつ優秀で文章の意味が理解できているようなお子さんならどんどんチャレンジしてよいとは思います。)
もちろん、英検準一級や英検一級に合格する小学生が毎年出てくるのは、事実です。そして、そういうお子さんたちに倣って、合格を勝ち取ろうとする人がいるのでしょう。しかし、合格したお子さんたちのほとんどは、英文の内容を理解して合格したのではなく、よく理解できなかったが、記号選択問題で答えを「当てる」コツを身に着けたにすぎないのではないでしょうか。私達が危惧するのは、意味が分からなくても記号選択で正答を「当てれ」ば良い、答えさえ合えばよいのだ、という大きな誤解を子どもたちに植え付けてしまうことです。そのような勉強法を最初から癖にしてしまうと、中高生になってから伸び悩む可能性大です。
英語学習というのは、かなりの長期戦です。英検準一級や英検一級なども、その一里塚に過ぎません。これからも英語学習は何十年も続くのです。だとしたら、内容を本当に分かり、英語の面白さを楽しむ勉強法をお子さんにしてもらいたいのです。そのためには、その年齢に相応しい英文を読ませたり、視聴させたりするのが、教育上非常に大事なことです。
もう一つの理由は、英検準一級よりももっと良い目標があると考えるからです。すでに別のブログでもある程度説明しましたが、英検準一級は易化し、今では上智・MARCHに楽して進学できる方法論になりました。また英検のリーディングは記号選択式問題のみ、ライティングはアルバイト採点者による激甘採点で構成が酷くても高得点が可能です。そのような簡易テストも使い道はあるでしょうが、目標とするにはちょっと残念です。
望ましいのは、大学教授のようなしっかりとしたプロが採点するテストで、適度な難易度の英文を読ませ、それを本当に理解したか否かを問うようなリーディング・テスト、また語彙・文法力だけでなく論理力・構成力と教養力を問うライティングのテストです。そのようなテストで合格点を取ることを目標にする方が良いのではないでしょうか。
理想的な英語の試験の一つとして、今回のブログのタイトルにも掲げましたが、慶應大学の経済学部、文学部、医学部の入試問題があります。いずれも、自分が専攻したい分野に関連のある、だがあまりに専門的すぎるわけではない長い長い英語長文を読むことになります。本人の知性と教養力が問われる英文を読むのだということです。
そして経済学部の入試問題では、その長文の内容を咀嚼したことを前提に、自分の立場を明確にする小エッセイのライティングが求められます。たとえば、「日本政府はもっと多くの観光客を呼び込むべきか」「日本政府は顔認証の技術を規制スべきか否か」といった問に対して、文献を引用しながら英語で答えなければなりません。つまり、慶應大学の経済学部に合格するためには、日本社会に関する見識を持っていないとダメですよ、小手先のクイズ・テクニックは通用しませんよと入試問題が語っているのです。
結論的に私が述べたいのは、小学生のうちに英検準一級に合格することなどよりも、高校生になって慶應の経済学部等の入試英語問題に対応できるように、もっと長期計画で、英語と「英語以外の勉強も」がんばって欲しいということなのです。
いや、どうしても今現在の目標が欲しいのだという人もいるかもしれません。その場合は仕方ない、ここでちょっと参考になる目標を二つそっと教えましょう。一つは慶應湘南藤沢中等部の英語の問題を解けるようにがんばってみることです。英検準一級とは異なって、リーディング(物語文と説明文、700~800ワード)とライティング(20分程度で書ける作文)の話題は小学生向きのモノです。なお帰国生が受験生の主体のようですから、時間制限は非常に厳しいようです。日本育ちのお子さんの場合は、時間制限を設けないで取り組むのが良いでしょう。もう一つは…やはりここで書くのはやめておきましょう(笑)機会がありましたら、またの機会に致します。
最後にもう一言。当塾では中学受験において、英語受験を奨励していません。特別な環境や資質に恵まれた者でない場合は、英語学習はほどほどで良いと考えています。
英作文の学習ルート(3)自由英作文(その3)英検準一と慶應(経)の間にある高い壁、当塾の自由英作文の添削事例から
前回のブログ(英作文の学習ルート(3)自由英作文(その2)ー中学教科書に学ぶ英文ライティング)は如何だったでしょうか。正直申し上げて、あまり読んでくださった方は多くはないでしょう。しかしもし読んでいただいた方がいらっしゃいましたら、もしかしたら私と同じように、大学受験生の自由英作文を添削していたりしている人かもしれないですね。そしてそういう人の間にも、「そういうこと、なかなか高校生は分かってもらえないんだよね」と相槌を打ってくださる方もいるでしょうが、ちょっとピンとこないなあという感想をお持ちの方もいるだろうと思います。
さて今回は、前回のテーマを継承しながら、当塾の自由英作文添削事例を提示してみることにします。つまり、日本人高校生が英語を書こうとするとき、センテンスの並べ方において、どのように並べてしまうのかを確認をしていきます。そして、センテンスとセンテンスがスムーズにつながっておらず、飛躍や脱線があるとき、どのように直していったらよいのかを考えてみたいのです。
なお今回の記事の副題として「英検準一級と慶應大学経済学部の間にある高い壁」とつけました。というのは、今回のテーマである「英文の適切な並べ方」ですが、英検準一級の自由英作文の採点基準ではそれが強く求められていないように見えるのに対し、慶應大学経済学部の入試自由英作文の採点基準ではそれが求められていると推定できるからです。
大学入試難易度的に言い換えれば、早慶の文系上位学部と上智・MARCH(英検準一級等で入試に代えられる大学群)との間には、英作文・英語ライティングの採点基準が相当異なっており、いわば一つの乗り越えがたい壁のようなものがあるという思いがあるのです。
では、さっそく自由英作文の設問と、生徒の英文例を取り扱っていくことにします。
(設問)次のテーマで100-150語程度のエッセーを英語で書きなさい。
What is the most important skill a person should learn in order to lead a happy and meaningful life in the world today?
Choose one skill and give reasons to support your choice. (2019年度、明治学院大学経済学部(経営A))
高校生の英作文例
I think thinking by ourselves is the most important skill.
These days, many people use the Internet or SNS. Of course, they are useful tools, but there is a lot of incorrect information. If we cannot think by ourselves, we will take false messages true ones and be deceived by information on the Internet. That’s why we have to think by ourselves and tell false ones from truth.
Also, we use AI more frequently today than past. Some people think many jobs that people do now will be taken by. AI. In order not to be dominated by AI and coexist with it, the ability of thinking by ourselves is needed for us. (113 words)
この生徒の英文にいったい何点あげられるでしょうか。さしずめ英検(と明治学院大学)の採点方式ならば、一部の文法・語法ミスを減点するだけで100点満点で95点前後の高得点を期待できるはずです。
他方、慶應大学(経済学部)の採点ならば、おそらくは採点に値しない不合格答案と評価されるでしょう。あるいはせいぜい30点くらいでしょうか。
端的に言って、
(1)不適切な論理展開をしており、まともな英文とは言えない。
(2)説得力が乏しい
(3)設問に答える意欲に欠けている
と指摘できます。
まずは、英検的採点方式から見てみましょう。下の英文テキストを見てください。
赤の箇所は修正(変更または追加)を要する減点箇所です。
青の部分は、修正した方が良いが減点まではされないと思われる箇所です。
①I think thinking by ourselves is the most important skill.
②These days, many people use the Internet
or SNS(=>social media).
③Of course, they are useful tools(=>media),
but there is a lot of incorrect information.
④If we cannot think by ourselves,
we will take false messages (+as) true ones
and be deceived by (+the false) information
on the Internet.
⑤That’s why we have to think by ourselves
and tell false ones from truth (+true ones).
⑥Also, we use AI more frequently today
than past(=>before).
⑦Some people think many jobs that
people do(=>have)now
will be taken (+away) by AI.
⑧In order not to be dominated by AI
and coexist with it,
the ability of thinking by ourselves
is needed for us
(=>We need the ability of thinking by ourselves).
慶應的添削・採点
他方(私の想定する)慶應大学基準であれば、
いくつかの致命的ミスを指摘せざるを得ません。
それは文法や語法の誤りではなく、
センテンスの展開やつながりに関わる問題です。
少々分かりにくいので、テキストは冒頭を①
として番号をつけ、
①②③、④⑤、⑥⑦⑧と分割して説明します。
① I think thinking by ourselves
(=>critical thinking skills; media(information) literacy)
is the most important skill.
②These days, many people use the Internet
or SNS(=> social media).
③Of course, they are useful tools(=>media),
but there is a lot of incorrect information.
「今日の世界において、有意義で幸福な人生をおくるために、最も習得すべき技術は何か」という設問に対して、①ではthinking by ourselves「自分で考える技術」が大事だと、主張を最初から提示しています。これは良い書き出しです。(ただし「自分で考える技術」は適切な言葉ではない。しかしこのことについては後でとりあげる)。
さて、短い意見文で主張を打ち出したら、すぐその後で、主張の理由を述べなくてはなりません。ところが、背景説明から始めてしまいました。本人としては、①(主張)に対し、[②③④]という一連のセンテンスの塊で理由を提示しているつもりなのでしょう。しかし英文には、数学の計算式のように①+[②③④]といった、[ ]はありません。ですから読者は、①→②→③→④と普通に読み進めます。
①を読んだ読み手は「自分で考える力」がどうして重要なのかなと?と思いながら、その答えを求めて②を読み進めているはずです。ところが、主題文の話題(=「自分で考える力」は大事だ)が消えていまい、いきなり話題がインターネットに変わっているのです。③も同様にインターネットです。読み手は自分が露頭に迷ったことを知り、唖然とします。要するに、①→②③において大きな「飛躍」があるわけです。もちろん、この英文に対する評価は著しく低くなるでしょう。
センテンスとセンテンスに大きな飛躍が生じてしまうのは何故か。
一言でいえば、理由を提示するときに、<背景説明→理由(主張)>という順番でセンテンスを並べようと執着してしまうからです。もっと言えば、背景説明さえすれば、読み手は理由をなんとなく分かってくれるだろうと甘い考えを抱いているからです。
また、端的な理由を抽出するのが苦手だからでもあります。(端的な理由を提示できさえすれば、センテンスとセンテンスは自然な流れとしてつなげることが出来たのですが。。。)
内容面についてはこれまでとして、英語表現の適切性をチェックしてみます。②のSNSはほとんど和製英語ですからSocial Mediaにすると良いです。③ではインターネッをtoolsと言い換えていますが、違和感があります。media にするのはどうでしょうか。(しかし、toolsでもたぶん減点まではされない)。
④If we cannot think by ourselves,
we will take false messages (+as) true ones
and be deceived by (+the false) information
on the Internet.
⑤That’s why we have to think by ourselves
and tell false ones from truth (+true ones).
ついで④⑤に行きます。どうやら②③の背景説明(ネット世界は嘘ばっかり)から、結論(「自分で考える力」があるとネット世界の嘘を見破ることが出来る)に到達したようです。これはダメな文章の展開です。最初に主張(自分で考える力は大事な技術だ)があるのですから、それをサポートする(=理由を述べる)必要があったのに、背景説明から新たに結論を導き出しているからです。簡単にまとめると次のようになります。
この英文の論理展開
主張=>[背景説明=>結論]
求められている論理展開
[主張=>その理由の説明=>その背景説明]
なぜこんなことになったのか。その大きな理由の一つは、書き手は漠然と結論にたどり着いただけで、その理由を自覚的に抽出できなかったからです。つまり、「自分で考える力があれば、嘘を見破ることが出来るからだ」と自覚的に提示できなかったからです。先取りすれば⑥⑦⑧にも同じ問題が見られます。ここでも、やはり理由を明示的に述べられません。本当であれば、「自分で考える力があれば、失業やリストラされないからだ」と書くべきでしたが、その一文を書けませんでした。
なお問題はこれだけではありません。④と⑤の2つのセンテンスがほとんど内容で重複している点です。受験生がやりがちなミスですが、気をつけましょう。大きく減点されないでしょうが、得点にはつながりません。
文法・語法面については、英文に付け加えた赤字を見てください。
⑥Also, we use AI more frequently today
than past(=>before).
⑦Some people think
many jobs that people do(=>have)now
will be taken (+away) by AI.
⑧In order not to be dominated by AI
and coexist with it(削除する),
the ability of thinking by ourselves
is needed for us
(=>We need the ability of thinking by ourselves).
⑥はAlsoから出発しましたので、「自分で考える技術」が必要である2つめの理由をここで書くべきなのですが、前回と同様に背景説明に終始しています。これも相当マズイ配列です。当然のことながら、①の英文とのつながり見えず、飛躍しています。そして⑧まで読み進めると、どうやら「自分で考える力」があると、AI化が進んでも失業しなくて済むかのように書かれています。理由としてはやや曖昧な書き方です。
なお⑧の英文は、In order not to be dominated by AI と始まったのですから、主節の主語が人間ではないとマズイでしょう。したがって、“the ability of thinking by ourselves is needed for us” は能動態にして、“We need the ability of thinking by ourselves”とするのが良いでしょう。その他の英語表現のミスは、赤字で説明しておきましたので省略します。
さて元の英文ですが、どうしたらもっと適切な英文になるでしょうか。ポイントとなるのは、次の事項です。
☆センテンスとセンテンスの飛躍をなくすこと。
☆主張のすぐ後に理由を明示的に書くこと。
☆背景事情は後から追加すること
修正案
(主張)自分で考える力が大事だ
→(理由その1)自分で考える力があれば、嘘情報に騙されなくなるからだ
→(背景説明)ネット世界やSNSには嘘情報がはびこっている。
→(理由その2)自分で考える力があれば、失業しなくなるからだ。
→(背景説明)AIの支配する時代では多くの人が失業してしまう
I think thinking by ourselves is the most important
skill in the world today.
First, the ability enables you to see
through lies and fakes. In fact, there are a lot of
fake news and malicious websites on the Internet.
Second, if you can think by yourself,
you will not lose your job even when computers
and AI take many people’s jobs away.
Thinking by ourselves is the very best skill
every one of us should learn, indeed.
以上の修正案ですが、英文としては、オリジナルよりもかなり読みやすくなっています。しかし残念ながら、まだまだ問題点があるのです。
まず「自分で考える力」”thinking by ourselves”という概念が、抽象的無内容な言葉だからです。小学生の躾にはよく使われる言葉なのかもしれませんが、どんな能力なのか具体的なイメージを思い浮かべるのはほとんど不可能です。ましてやフェイクニュースやら詐欺商法を撃退したり、失業を免れる力があるのだと言われても、困惑してしまいますね。
要するに、もう少し具体的な意味を持ち得る、有意義な抽象概念を提起すべきだったのです。たとえば、ネット情報に適切に対処できる能力であれば、critical thinking skills (批判的思考能力)やmedia literacy;information literacy(メディア・リテラシー、情報リテラシー)が良さそうです。こういう抽象概念であれば、これに対応する具体例をたくさん挙げることも出来たはずでした。(ただし、これでは失業に対処できる能力ではありません)。
問題はさらにもう一つあります。最初の設問をよく読んで下さい。「今日の世界で幸福で有意義な人生を送るために必要な技能」を書かなくてはいけないのです。元の英文だろうと修正案だろうと、幸福で有意義な人生のために必要な能力かと言えば、ちょっとばかりズレていますね。少なくともこの英文には、人生について言及は全くありません。つまり、設問にしっかりと答える文章になっていないのです。これは致命的なミスだといえます。
主な問題点を再度述べておけば、次のようになります。
☆設問に適切に応えていない。(①と全体)
☆センテンスとセンテンスの間の飛躍。(①→②、①→⑥)
☆文頭の主張をサポートする構成になっていない。(全体)
☆主張の理由がやや曖昧で、主張の直後にない。(⑤、⑧)
☆センテンスとセンテンスが重複している(④と⑤)
今回は以上です。次回は自由英作文を書く際の高校生の抱える問題点についての考察を書く予定です。
英検準一級で求められるライティング
英検準一級のライティング部門は自由英作文ですが、難しい技巧は必要ありません。旧検定教科書(=2020年以前の教科書。現行教科書よりかなり易しい)の中学2年生レベルをしっかりと書けるならば、90%以上の高得点をとれるはずです。
なぜそんなことが可能なのか。実は英検の自由英作文(English Composition)では、いつも同じ形式の英文を書くことだけが求められるからです。まずはある命題が提示されますから、それに対して YesかNoかの立場をはっきり提示し、ついでその理由を挙げる、そしてもう少し具体的に肉付けする。そういう英文さえ書ければ良いのです。
たとえば、2021年度第3回の英検準一級の試験では、
“Should people use goods that are made from animals?”
(人間は動物から作られた製品を使うのを止めるべきか)
という命題が提示されました。これに対して受検者がYesの立場を取るならば、まずその旨を明示します。ついで設問のヒントにある“Animal rights””endangered species”([動物の権利]「絶滅危惧種」)という観点を用いて、Yesの理由を説明し、まとめます。あるいはNoの立場を取るならば、同様にまずは自分の立場を最初に明らかにし、ついで“Product quality”, “Tradition“ (「製品の質」「伝統」)といったポイントを利用して自分の意見の正当性を論じ、まとめることになります。
以上のような意見文の形式を学ぶのに、中学2年生用の旧検定教科書『New Horizon2』(2017年)は非常に有益です。写真は、この教科書の終わりの方にある”Let’s Read 3: Cooking with the Sun”の119頁です。これを詳しく解説していきましょう。
写真の英文を取り出し、最初から番号を打つと以下のようになります。
① A solar cooker is helpful to people in developing countries.
(太陽光調理器は開発途上国の人々にとって役に立つものである)
②Why? (なぜか)。
③ First, making a solar cooker does not cost much. ④ You can make one with only cardboard and aluminum foil.
⑤ Second, people in developing countries can get cleaner water by boiling it with a solar cooker. ⑥Drinking water from rivers and lakes is one of the biggest causes of disease.
⑦ Third, a solar cooker is safe because it does not make smoke. ⑧More than one third of the people in the world burn firewood indoors to cook. ⑨A lot of children die from its smoke.
①②でまず問題提起し(太陽光調理器は開発途上国でなぜ役立つのか)、太陽光調理器の利点として3点を挙げる形式で文を展開しています。それぞれFirst (③④)、Second(⑤⑥)、Third(⑦⑧⑨)という単語を、それぞれ文頭に置いています。
まずは③④のパラグラフから見てみましょう。文頭でFirst(一番目に)と記してありますが、これは第一の理由を述べることを予告します。そしてその後すぐに、 making a solar cooker does not cost much(制作費用が高くない)と理由を提示しています。このとき重要なのは、Firstと書いた後で④→③の順番で並べてはいけないということです。Why(何故か?)という問いに対してFirstと書いたからには、何が何でも端的に一番目の理由を書くのが英語の約束事だからです。
ついで⑤⑥のパラグラフを見てみます。⑤ではSecond(二番目に)と文を始め、“get cleaner water”(よりきれいな水を得る事が出来る)と、「なぜ?」の理由が端的に示されます。そして、その後の”by boiling it with a solar cooker”を読むと、「あ、そうか、太陽光調理器で生水を煮沸消毒できるからなんだね」と理解できます。さらに⑥では、開発途上国の飲料水事情にはかなり多くの悩みがあること、つまり上水道が整備されておらず、水質汚染のために病気になることが多いらしいこと、したがって「きれいな水」を入手する手段が痛切に求められているのだという背景が説明されています。
以下、同じように説明を続ける事が出来るわけです。ところで私の説明について、どのような感想を持ちますでしょうか。おそらく多くの方は、英文はとてもシンプルなのに、日本語の説明がぐちゃぐちゃして、ちょっと読むのが面倒くさいな~と思われたのではないでしょうか(笑)。しかしそれには実は理由があります。こういうシンプルな英文ではありますが、大半の日本人高校生にとって、このような英文を書くことは非常に困難だからです。難しいのは一つひとつ英語の表現を文法的・語法的に正確にすることより、英文を正しい順番で並べることなのです。もう少し説明しましょう。
ここで日本人の高校生に、「太陽熱調理器の有用性の理由」を説明する英文を書いてくださいという課題を出したとします。私たちの経験から多くの高校生は、以下のように発想します。
開発途上国というのは、日本とは異なって上水道が整備されていないらしい。井戸水とか場合によっては雨水や川の水を使うらしい。だから水が汚いので、赤ちゃんとかが毎年沢山死んだり、病気になる人が多いらしい。しかし、そういった水も、煮沸消毒すればきれいな飲水になるらしい。だから、太陽光調理器があれば、電気やガスがない場所であっても、汚い川の水をきれいに出来るので、とても便利なのだ。
大筋として正しい議論ですね。上記の議論の流れは次のようになります。
開発途上国の水事情(A)→水の煮沸消毒の必要性(B)→太陽光調理器の利点(C)
多くの日本人高校生は、(A)→(B)→(C)という思考の順番をそのまま英文に反映させようとします。(しかし、これでは絶対に論理的で筋の通った文にはなりません。
試しに上記の思考の順番で英文を書いてみましょう。(多くの高校生がたどるよくない英文例です。)
A solar cooker is helpful to people in developing countries.
(太陽光調理器は開発途上国の人々にとって役に立つものである)
Why? (なぜか)。
First, I hear that many people in developing countries have to drink water from lakes and rivers. It is so dirty that many babies die and many people get sick every year . That is why boiling water is very important.
(高校生が書きがちな英文例。)
この英文では、「開発途上国で太陽光調理器が役立つのは何故か?」の理由を述べる時に、「最初の理由は」という意味で First と始めています。ここまではOKです。問題は、その直後に(A)である「開発途上国の水事情が良くない」と書いてしまっています。これでは、文と文との間に決定的な脱線と飛躍が起きてしまいます。つまり、「太陽光調理器の利点をこれから語りますよ、第一の理由は○○○」と語り出したにもかかわらず、太陽光調理器の利点ではなくて開発途上国の諸事情=背景を語ってしまうことになるからです。
First(第一に)とか、because (○○○だから)と書き始めたら、何が何でもまずは理由を書かなければらないのです。この場合では、太陽光調理器の利点を語らなければならないのです。
『New Horiozn2』に戻れば、Firstと書き始めたら、④→③と書いてはいけない。つまり、「(④)太陽光調理器はダンボール紙とアルミホイルで作れます。(③)だから費用があまりかかりません」という順番で英文をかいてはいけないのです。同様に、⑥→⑤と書いてもいけない。つまり、「(⑥)途上国の病気の原因は、川や湖の水を飲むことから生じている。(⑤)だから、そういう生水を太陽光調理器を用いて煮沸消毒し、きれいな水を飲めるようにすることは、とても大事なことなのだ」としてもいけません。
具体的にはどういう風に書けばよいのか。たとえ、(途上国の水事情)(A)→(煮沸消毒の必要性)(B)→(電気ガスなしに加熱できる太陽光調理器)(C)という順番で思考したとしても、それを英文で書いて表現するときには、(A)→(B)→(C)を、(C)→(B)→(A)と並び替えなければなりません。それは(C)こそが理由の部分であり、また太陽光調理器の話題を継承しているからです。
とはいっても、多くの高校生は、日本語に典型的な議論の進め方(A→B→C)から自由になるのはかなり困難です。ほとんどの場合、どうしても背景事情から説明したくなり、結果的に文章が飛躍してしまうのです。そして、becauseのような言葉の意味だとか、文と文との間に自然な流れといったことを意識化するのが苦手です。以上のような問題点を克服するためにも、是非とも中学2年生の英語の教科書をよく味わって、読み直してもらいたいのです。なお、このテーマ(日本語的な議論のススメ方から自由になる)については、添削事例を通じてさらに紹介・説明していく予定があります。