
生成AI(ChatGPT, Claude, Geminiなど)に英文法に関する問題を質問した人は、すでにたくさんいると思います。しかし生成AIというのは、英文法だろうと文語文法(古典語の文法)だろうと、文法に関して言えば、出鱈目な解説をやらかします。だから初学者の場合、英文法の家庭教師の代わりに生成AI(ChatGPT, Claude, Geminiなど)を使ってはいけません。
実際、ある東大生はフランス語文法についてChatGPTに質問をし、その回答を鵜呑みにしたために、酷い目にあってしまいました。「生成AI(ChatGPT, Claude, Geminiなど)に英文法の質問をするな」が大原則なのです。
しかし、使い方によっては、ある生成AIだけは役に立つ場合もあるようです。今回は、そのやり方について解説しようと思います。
例えば、次の英文の解読に苦労しているとしましょう。
What does it matter [how old I am]?
? 主語 動詞 ?
この文章では、itが主語でmatterが動詞だということは容易に理解できます。しかし、What と how old I am の役割や品詞となると、戸惑う人も多いでしょう。とくにやっかいなのは、先頭にあるWhatです。
常識的に考えると、whatは疑問代名詞または関係代名詞でしょう。それならば、目的語(O)なのか、補語(C)なのか、あるいは真主語(S)なのか、分からないという訳です。しかし、動詞のmatter は、日本の英和辞典では自動詞なので、whatを目的語にする訳にはいかない。かといって主語や補語だというのも奇妙すぎます。真主語が先頭にくるのは不自然ですし、matter は補語を取る動詞のとは考えにくい。
こんな時に生成AIに質問するとどうなるのか?。結論的に言えば、英文法について、ほとんどの生成AIはデタラメな回答をしてきます。全く使い物になりません。
具体的に言えば、Chat GPT、Claude、Geminiなどの主だった生成AIは、いずれもデタラメ回答をよこしてきます。「Whatは目的語です」「Whatは関係代名詞です」「Whatは主語です」等々と、間違った回答を自信満々で返してきます。(ここでは、その例を挙げません。よろしければ、読者の皆様が質問してみてください)。
では、生成AIはどれも全く役に立たないのかというと、そうではありません。現状(2025年1月)では、いくつかの生成AIのうちPerplexity(パープレキシティ、パープレ) だけは、使い方さえ間違いなければちょっと頼りになります。
Perplexityの特徴は、回答の根拠となる情報のオンライン・アドレスを提示してくれることにあります。(ただし、根拠を提示しない場合もあるので注意してください)。だから、情報元のオンライン文献を読んで、我々は判断出来るのです。その情報源またはその内容が信頼・信用できそうであれば、Perplexityの回答は大いに参考すれば良いのです。
もっともGoogleを使っても、ある程度は検索可能な情報が多いですが、Perplexityを使えば、Google検索よりも遥かに迅速に、適当な文献に巡り合うことが出来るのです。具体例を提示しましょう。Perplexityへの私の質問とその回答の画像を貼っておきますから、見てください。
画像をテキスト化すると、以下のようになります。
<<Question > >
what does it matter how old I am ? のwhat の役割と意味を教えてください。これは主語ですか?目的語ですか?それとも補語ですか?あるいは形容詞副詞のような修飾語ですか?
<<Perplexityの答 > >
「What does it matter how old I am?」における「what」の役割は、副詞です。
この文では、「what」が動詞「matter」を修飾し、「どれほど」「どの程度」という意味で使われています。つまり、「それがどれほど重要なのか」というニュアンスを表しています。「matter」は自動詞であり、「what」は目的語ではなく、動詞の程度を問う副詞的な働きをしています。
正解は以下のようにまとめる事もできるでしょう。(it=仮主語、 how old I am=真主語は私が補いました)
What does it matter how old I am?
副詞 仮主 自動詞 真主語(名詞節)
日本語訳としては、「私が何歳だろうと、そんなことはどうでも良いことだ」となるでしょう。
さてここでポイントとなるなのは、Perplexityが、(1)そもそも情報源を提示しているか、(2)その情報源とその内容が信頼のおけるものか、です。今回は幸いにも情報源が提示されています。そこで、(2)情報源とその内容のチェックをします。
一つの情報源は、English Language & Usage でした。私は利用したり参照したりしたことはないのですが、非常に信用できるサイトに思われました。そしてその中の“Ask Question” が引用され、What does it matter のwhatは代名詞ではなく、副詞であると説明されております。(写真を参照してのこと)
もう一つはWordReference Forums と言うサイトでした。私は本サイトについても詳しく知りませんでしたが、英語の文法や語法についてサイトがまがい物であるとは考えられません。このサイトの答えは大いに参考になると考えて良いでしょう。
上の画像を見てください。
Fort Lee さんという韓国人の英語学習者が、”What does it matter”について質問を投げかけ、これに対して英語ネイティヴのイギリス・ロンドンのHermione Golightlyさんという方ーーおそらくは高齢者ヴォランティアのネィティヴ先生ーーが、回答をしています。ここでのやり取りも大変参考になります。
ところで、こんなふうに情報源のチェックをするのであれば、わざわざPerplexityなんかを使わずに、いくつかの英文法関連のフォーラムで調べたり、Google検索で調べてみたら良いではないか、という意見も出てきそうです。たしかにそういう考え方も一理あります。しかし、Googleで調べても、適当なサイトを探し当てるのは結構時間がかかります。
試しにGoogle先生に質問をしてみましょう。「What does it matterのwhatの文法的説明」と入れてみました。すると出てくるのは、次のような画面です。
今回は、比較的早い段階で、Yahoo知恵袋で正解が出てきました。しかし、このサイトはちょっと信頼しにくいのが欠点です。また、英語専門とみられるサイトも沢山出てきましたが、いずれもwhatの正体については情報をあたえてくれるものではありませんでした。
また、WordReference Forums等の英語関係のサイトを巡回してチェックすれば良いではないか、という意見もありそうですね。これも正論です。しかし結論を先取りすれば、「Perplexityで検索するほうが、手っ取り早い」です。
実は私も、WordReference Forumsで”what does it matter” とタイプして検索したのです。すると、what does it matter の ”what”とは何物かと質問する非英語国の学習者がかなり多いのです。
例えば、あるロシア人学習者は、whatの正体は一体何なのだと執拗に質問するのですが、英語ネイティヴの先生たちは、非ネイティヴの疑問をあまり理解できないようです。要するに、「(あんまり気にするなよ。)そんな風に表現するのだよ」みたいな、非常に残念な回答で済まそうとします。
実際、英米の英英辞典でも、そういう説明をするのが普通です。たとえば、ロングマンの英英辞典を引けば、
what does it matter? =spoken used to say that something is not important
という意味の説明があるだけです。whatの文法的側面についての説明は一切ありません。(ただしitが仮主語であるという説明についてならば、Oxford Advanced Learner’s Dictionaryなどには掲載されています)。
何を言いたいかというと、「what does it matter の what は副詞で、howみたいな意味なんだよ」というピンポイントに沿う説明に出会うのは、決して容易ではないのだということです。
そんなわけですから、英文法の疑問を持つとき、Perplexityに疑問を投げかけるのは、それなりに有効だとの結論を再度訴えておきます。
しかし、大いに注意が必要です。Perplexityならば、英文法のことについて、いつでも確かな情報を提供してもらえるかもしれないと、甘い考えを持っては絶対にいけません。
先ほどは、What does it matter how old I am? のwhatの役割や品質についてPerplexityに問い、的確な情報と答えを返してもらいました。そこで今度は、ちょっと文章を変え、What does it matter if it is rainy today? について同じ質問をしてみました。”how old I am”を” if it is rainy today”に変えてみたのです。すると、今度は情報源を一切提示せず、次のようなデタラメ回答をしてきたのです。
画像をテキスト化すると、
私の質問
what does it matter if it is rainy today ? のwhat の役割と意味を教えてください。これは主語ですか?目的語ですか?それとも補語ですか?あるいは形容詞副詞のような修飾語ですか?
Perplexityの答
「What does it matter if it is rainy today?」における **what** の役割は、**目的語** です。(←誤答です。念のため)。
### 分析
この文を分解すると次のようになります:
- 主節:「What does it matter」
– 「matter」は自動詞として「重要である」という意味を持ちますが、この場合、「what」がその内容を尋ねる疑問詞として使われています。
– 「what」は「何が」「どれほど」といった意味で、「何が重要なのか」を問う役割を果たしています。
– ここで「what」は動詞「matter」の目的語です。
- 従属節:「if it is rainy today」
– この部分は「if節」として、主節の文全体に補足情報を加えています。「今日雨であることが、何の重要性があるのか?」という意味になります。
### 結論
この文では「what」は動詞「matter」の**目的語**として機能し、「何が(どれほど)重要なのか」という疑問を表しています。(←もちろん誤答です)
Perplexityの誤答を図式化すると以下のようになります。
What does it matter if it is rainy today?
目的語 主語 動詞 従属節(もし・・ならば)
↑
誤答です。
なお正解は以下の通りです。
What does it matter [if it is rainy today]?
副詞 仮主 自動詞 真主語(=名詞節、SVかどうか)
(日本語訳)「今日が雨模様だとして、それがどうしたというのだ」
どうでしょうか。情報源を提示しないとき、Perplexityは信用してはいけないのです。
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最後に
生成AI(ChatGPT, Claude, Geminiなど)は英文法的な質問をしてもその回答は信頼できないこと、しかし生成AIのPerplexityを使えば、有益な情報を迅速に入手できる場合があるということが、今回のブログで伝わりましたでしょうか。
なお、今回の英文What does it matter ? に関して言えば、今回一番頼りになったのは、おそらく日本の辞書、つまり英和辞典でした。下の画像は、『ライトハウス英和辞典』で、whatを調べたものです。(英英辞典は、Oxford, Cobuild, Collins, Longmanにあたってみましたが、あまり参考にはなりませんでした)。