生成AIの英文添削の弱点
2020年代は、日本人の英作文や英文ライティング学習にとって画期的な時代のはずです。何しろ、ChatGPTをはじめとする生成AIが、我々の書いた英文を丁寧に添削してくれる時代になったのですから。
そんな便利なはずの生成AIには、実は落とし穴があることをご存知でしょうか?
「日本人の英語学習者のために添削してね」と命令するだけでは、ダメなのです。必要に応じて適切なプロンプト(指示・命令)を加えてやらなくてはならない。さもないと、やたらに細々とした修正案を提案するだけで、どこが本当に問題なのか要領を得ない「アドバイス」に終始する可能性が高いのです。
下の英文を見てください。これは、オーパス英語学院さんのYoutubeでの英作文講義「【英検1級英作文】英作文でよく見る4大初歩的ミスとは?」 の6分前後のシーンをお借りしたものですが、要するにダメな英文例です。
”It’s important to be well-informed about food and nutrition, and I have three reasons.
First, supermarkets and convenience stores sell many unhealthy food products. For example, instant noodles and potato chips. Therefore, people buy them and eat them. As a result, some of them become obese and diabetic. I think the government should implement stricter regulations”.
本文を見てみましょう。この文章は、”It’s important to be well-informed about food and nutrition”(食品や栄養について、事情に通じていることが大事である)と、まずは書き手の見解を述べます。ついで、”I have three reasons.”(それには三つの理由があります)と、3つの理由を列挙すると予告します。
そして第一の理由として、”First, supermarkets and convenience stores sell many unhealthy food products”(第一の理由として、スーパーやコンビニ売られている食料品は不健康だ)と述べています。
この文章がどこに根本的問題があるというのでしょうか。
ここで、オーパス英語学院さんの講義を見ていきましょう。オーパス英語学院さんは、抽象的な主張から始め、それを具体的な事例で肉付けしていく展開が推奨されています。一方で、具体的な事例から始めて抽象的な主張へ移行する展開は、英検英作文では避けるべきとされています。だからこの学習者は英文の書き方を根本的に間違えていると指摘されてしまうのです。
⭕️ 正しい英文の展開の仕方 (オーパス英語学院による)
✖︎間違った英文の展開の仕方 (オーパス英語学院による)
我々が求めているのは、このようなアドバイスではないでしょうか。「細かい微調整ではなく、まずは抽象的な理由を述べなさい」という助言が必要なのです。
しかし、何の工夫もないプロンプトの生成AIの英文添削では、ポイントを突いた指導をしてくれません。一つひとつのセンテンスについて、ちょっとした修正案を細々と出してくれるだけです。だがそれでは、自分の書いた英文のどこが根本的に問題なのか、よく理解出来ないでしょう。
では、どうしたら良いのか。実は、かなり簡単に生成AIの添削力を向上させることが出来るはずです。例えば、プロンプトの中に「抽象から具体へ」と英文を書くように指導してください、と組み込めば良いのです。 あるいは、次のような英語のプロンプトを組み込んではどうでしょうか。
Prompt案
You are an English teacher who checks and gives feedback on writing by Japanese students.
Your main teaching goals are: Abstract-to-concrete reasoning: Students should start by presenting a general or abstract idea (such as a reason, principle, or opinion), and then support it with specific, concrete examples or details.
生成AIをフル活用して英文センテンスの展開方法を学ぶ
ーー石井『15の論理展開パターン』×生成AI
「抽象から具体へ」のようなテーマ、つまり、一つの英語のセンテンスからもう一つのセンテンスへと繋げていく英語の原則を、英語学習者がもっと体系的に学ぶにはどうしたら良いでしょうか。そんなことを考えてながら、最近X(旧Twitter)を覗いてみると、石井洋佑『15の論理展開パターンで攻略する英文ライティング』が絶賛されていましたので、購入してみました。すると予想以上に素晴らしい内容でした。この教材と生成AIをフル活用すれば、センテンスとセンテンスをつなぐ技術は大いに向上するはずです。
この本の一大テーマは、「センテンスを与えられたら、それにつなげる別のセンテンスを書けるようにする」です。センテンスをつなぐ15のパターンが提示されていますが、特に重要なのは英文のトピック展開の原則で、「抽象から具体へ(abstract to concrete)」、「一般から特定へ(general too specific)」、「知っていることから知らないことへ(known to new)」を学びます。また、日本人の受験生が間違いやすい「因果関係を示す表現」や「結論付ける表現」などを学べるのも、大変喜ばしいことです。
この本のもう一つの長所は、練習問題がたくさん付いていることです。1つの展開パターンにつき、10以上の練習問題があるわけですが、ここで生成AIを大いに活用できるという訳です。
下の画像は、「知っていることから、知らないことへ」の練習問題の1部です。
もちろん、自分なりの解答を作成しなければならないわけですが、2025年の今日、この練習問題をノートで解答し、その解答にふさわしいプロンプトを工夫して生成AIで添削・アドバイスしてもらうことが出来ます。 プロンプトの試案も作ってみました。
プロンプト試案 (「知っていることから知らないことへ」と英文を展開するための訓練をするための)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あなたは日本人高校生に英語のライティングを教えている先生です。
次の練習問題は、英文を書くにあたって、知っていること(known) から新しいこと(new)へと文を展開していく訓練するためのものです。 そのことを踏まえ、また次のことに注意を払いながら、添削したりアドバイスをしてください。
注意点
#1 センテンスとセンテンスが適切につながっているかに注意を払ってください。特に今回の課題は、from the known to the new と言う順番に並べられているかどうかです。しかしもし必要があれば、「抽象から具体へ」等のの観点からの指摘もしてください。
#2 貴方が添削し、アドバイスするのは、[...]で囲われた箇所です。それ以外は問題出題者が提示した文ですから、添削は不要です。
#3 文法や語法のミスは指摘して、修正案をだしてください。ただし、あまり細かいニュアンスの差異や、英語を母語とするものでも見解の相違のあるような些末な点を指摘することは避けてください。
ーーーーーーーーーーーーーーープロンプト試案終わりーーーーーーーーーーーーーーーーーー
注意点「#2」と「#3」について、少し説明しておきます。
「#2」の必要性・・・ 生成AIが添削すべき箇所を、[...]で限定します。これがないと、生成AIは、問題文の箇所までうるさく添削・修正しようとする場合があります。なお、アンダーラインや太文字等で限定箇所を示すより、[...]とか**...**等のほうが使いやすいはずです。
「#3」の必要性・・・ あまりにも微妙だったり些細な事柄について、添削は不要であると命令します。この命令がないと、やはり大変煩わしくなる場合があります。ここで我々は、文学的文章の推敲をしているのではないのです。
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こういった練習問題はキーボードとPCやiPhoneでも可能です。しかしやはり、ノートの上にペンで書いてみるのが、英語学習の定着にはより効果的ではないでしょうか。もちろん、手書きの文字も生成AIは読み取ってくれます。私は下記のように、ノートに万年筆で書いてみました。
今回は生成AIとして、Gemini Proを使ってアドバイスしてもらいました。字数が多くなってしまうので、ここでは1番の問題だけ掲載します。
ーーーーGemini Pro のアドバイスーーーー
1. Last summer, I met a [Canadian student]. He was [studying ethno-herbal medicine of some Indigenous Peoples]. * [Canadian student]
* 添削・アドバイス: ここは「知っていること(known)」として、とても適切です。具体的に「誰に会ったのか」が明確に示されていますね。
* Known to Newの観点: この文では、「私があるカナダ人学生に会った」という事実が「Known」であり、次の文でその学生が「何をしていたのか」という「New」な情報へと繋がっています。流れは非常に良いです。
* [studying ethno-herbal medicine of some Indigenous Peoples]
* 添削: studying ethno-herbal medicine of some Indigenous Peoples
* アドバイス: 「Indigenous Peoples」は、カナダの先住民を指す際に、最も適切で包括的な表現です。複数の先住民グループがいることを示す "Peoples" (複数形) を使うと、より正確になります。
* Known to Newの観点: この部分は、前の文で紹介された「カナダ人学生」が「何をしていたのか」という、読み手にとって新しい情報を提供しています。knownからnewへの移行がスムーズで、良い情報展開です。
* 抽象から具体へ: 「ethno-herbal medicine(民族植物医学)」という専門的な情報が出てきましたが、文の流れの中で、その学生が「何を勉強していたのか」という具体的な内容として示されているため、不自然さはありません。
全体的なフィードバック
皆さん、今回の課題もよくできていました!特に1番の文は、knownからnewへの情報の流れが非常にスムーズで、読み手がストレスなく理解できる良い例です。
ーーーーーーーーーーーーーーーー(Geminiのアドバイスは、ここまで)ーーー
いかがでしょうか。まだ実験段階ではありますが、この石井先生の英作文問題集が、生成AIの力によって、さらに魅力とやりがいのある問題集になるというのが、お分かりになるかと思います。もちろんプロンプトは、学習テーマに応じて変えていきます。
今回のブログは以上で終わりです。このブログが、皆さんの英文ライティング学習に役立つことを願っています。
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