2026年度東京科学大(旧東工大)の英語長文の著者パン博士の本『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』を読む。---最新科学へと誘うポピュラーサイエンス本

query_builder 2026/05/24
大学受験 東大英語 英語教材の検証 英語
2026年度東京科学大(旧東工大)の英語長文の著者パン博士の本『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』を読む。---最新科学へと誘うポピュラーサイエンス本
2026年度東京科学大(旧東工大)の英語長文の著者パン博士の本『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』を読む。---最新科学へと誘うポピュラーサイエンス本
2026年度東京科学大(旧東工大)の英語長文の著者パン博士の本『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』を読む。---最新科学へと誘うポピュラーサイエンス本
2026年度東京科学大(旧東工大)の英語長文の著者パン博士の本『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』を読む。---最新科学へと誘うポピュラーサイエンス本


’26年東京科学大 (旧東工大)の英語長文の作家の書いた本、カミラ・パン『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』(Explaining Humans)は、「自己啓発本」などではなく、最新科学へと誘うポピュラーサイエンスのエッセイでした。


1. 東京科学大(旧東京工業大学)で出題された英国人科学者のエッセイ本を購入してみた


2026年の東京科学大学(旧東工大理工系)の入試問題(英語)の大問I (Every scientific experiment every conducted....で始まる英語長文)で、イギリス人のカミラ・パン博士(Dr. Camilla Pang)の著書が取り上げられた。彼女は生物情報科学またはcomputational biologyの専門家であり、かつASD(自閉症スペクトラム障害 )の作家である。



なお、入試問題として用いられたDr. Camilla Pang, Breakthrough 英文の一部は、無料でもKindleの「サンプル」で読むことができる。下の画像は、サンプル部分から一部(目次等)をアップしてみた。










幸いカミラ・パン博士の本は一冊翻訳されており、Amazonで古本が安く売られていた。下の画像の『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』である。これは、入試でとりあげられた本とは異なるが、早速購入してみた。



日本語のタイトルが『博士が解いた人付き合いの「トリセツ」』(文響社、2023年)で、オリジナルのタイトルはExplaining Humans (Viking, 2020) である。この本は、イギリスの王立協会科学図書賞を史上最年少で受賞した作品だ。著者のパン博士は8歳の時にASD(自閉症スペクトラム障害)と診断されたということだ。





この本についての予備知識なしに読んでみると、あるいは出版社の情報を鵜呑みにして読み始めると、まったく予想外な内容にびっくりしてしまうだろう。おそらく半分以上の人が、「タイトルに騙された!」といって真面目に読まずに投げ出してしまっただろう。


だから最初に大事なことを書く。この本は、日本語のタイトル(『博士が解いた 人付き合いの「トリセツ」』)や、出版社(文響社)の案内から予想できるような内容の本では断じてない!


  [↑ 誤解をまねく、文響社の案内] 


つまり、「人間関係に関する悩みを解決したい 普通の人 」に向けて書かれた ビジネス本や自己啓発本の類ではないのだ。


では、どんな本なのか。一言でいえば、バリバリの理系のエッセイで、一種のポピュラー・サイエンス本なのである。つまり、最近の科学に詳しい人、『日経サイエンス』の読者、または最近の科学(「機械学習」「ゲームの理論」など)にちょっと(以上に)興味があります、という人だけに向けられた本なのでした。


それでは、どんな本なのか紹介してみましょう。




2. ASD(自閉症スペクトラム)が抱えている諸問題の解決法を、最新科学から学ぶという視点


ここで、ちょっと私からのお願いです。パン博士の本を読むと、いきなり「機械学習」のような専門用語が飛び出してきますが、その辺について読者は寛容であって欲しいのです。パン博士はASD(自閉症スペクトラム)の人なので、読み手をビックリさせるような書き方になってしまうのは、ある程度やむをえないのです。そして、科学の専門用語を持ち出すことは、必然的な理由があります。というのは、パン博士は我々のような普通の人と同じ日常を体験できませんし、普通人との「共通の日常言語」を持っていません。だからパン博士にとって親しみのある言語、つまり、「科学という共通言語(参照枠組み) で我々に語り掛けようとしているのです。文系の人にとっては迷惑な話かもしれませんが、そこのところはよろしくお願いしたいのです


実は、本書の「はじめに」を丁寧に読んでみると、その内容が予告されています。ちょっと書きぬいておきます。


「体内のタンパク質は、人間の関係性、相互作用についての新しい視点をもたらしてくれる。もっと整理された方法で意思決定を行いたければ、機械学習が助けになる。熱力学は、私たちの暮らしに秩序を生み出すための努力について説明してくれるし、ゲーム理論は礼儀作法の迷路を抜けるための道しるべになる」(6-7頁)





タンパク質の生物学的研究⇒人間の相互作用の研究 (第2章)


機械学習の考え方⇒⇒⇒意思決定の研究 (第1章)

熱力学の考え方⇒⇒暮らしの秩序の研究 (第3章)

ゲーム理論⇒⇒礼儀作法の研究     (第11章)


これだけでは、ASDの生物学者がいったい全体本書で何を試みているのか想像しにくいですね。ここでは黄ラインマーカーの箇所、「第一章 機械学習と意思決定---箱思考から抜け出して、型にはまらず考えるには」に絞って説明してみます。


「意思決定」の研究が求められてるのは、書き手のパン博士がASD(自閉症スペクトラム)だからです。普通の人間ならば、多くの場合、ほとんど何も考えず、直感的あるいは無意識に出来てしまう「意思決定」が、パン博士は簡単には実行できないのです。そして意思決定を迫られると、いつでもパニックに陥るかもしれません。なぜならば、「普通の人なら気づきもしないことに、私(=パン博士)は気を取られてしまう」からです。


「意思決定」の仕方をパン博士は、コンピュータから学ぼうと提唱する。パン博士はASDなので、どうにも「型にはまった考え方」をしてしまう。だから複雑な状況に遭遇すると、対処できなくなってパニックに陥ってしまうのだ。他方、コンピューターであれば、複雑さに対処できるからだ。このとき注目するのは、コンピューターの意思決定の方法である「機械学習」である


「機械学習」という概念が「人間の意思決定」に役に立つといわれたら、まあ、そんなものかなと思う人は多いだろう。例えば、僕たちが将棋を指しているとします。相手の人が歩兵を進め、味方の駒にぶつけてきたら、「そのコマ(=歩兵)を取るべきか、逃げるべきか、無視して別の手を指すべきか、どの手を指すのが最善手なのか」と意思決定に迷う局面が出てきます。こういう時に、AI将棋にどの手を指したら良いのか教えてもらいたいなあと思うわけですが、AI将棋の意思決定は、「機械学習」によって強くなった訳です。(なおAI将棋を例としてとりあげたのは、パン博士ではなく私です)。


「機械学習」には、「教師あり学習」と「教師なし学習」があると本書は続く。AI将棋の作成であれば、プロ棋士が、「これは正しい手だ」「これは正しくない手だ」と教えるのであれば「教師あり学習」に相応するのだろう。 実際、ほんの一昔前(2010年代半ば)までのAI将棋であれば、プロ棋士の過去の膨大な棋譜を読み込ませて『これが正しい手だ』と教え込む『教師あり学習』が主流でした。


しかし、パン博士が自身のサバイバル術として注目するのは、「教師なし学習」である。「答えありきで結論をおしつけるのではなく、データそのものに答えを出させたい」学習方法論である。人間の教師がいないのが幸いし、人間が思いつかないような天才的答えを導き出してくれるかもしれない。(ちなみに現在の最新将棋AIは『強化学習』というさらに別のアプローチを用いていますが、ここでは割愛します)


「箱思考」「木思考」は、作者が適当に思いついた比喩的表現などではない


教師あり学習」と「教師なし学習」という二つの学習法は、ついで「箱を使った考え方」と「木のような考え方」(24頁)という二項対立の概念に至る。「教師あり」が「箱思考」となり、「教師なし」が「木思考」となる。「箱思考」の傾向の強いパン博士は、「木思考」から大いに学ぼうとしとした。


しかしここで、私は言葉の意味がよく分からなくなった。いったい私は何を読んでいるのだろうか?「箱思考」と「木思考」などという訳の分からない言葉について、全く聞いたことがなかったのだ。


しかし、ここが大事なのだ。パン博士のエッセイの突拍子もなく見える様々な言葉や概念は、それら全部、彼女が適当に思いついた比喩的表現などではなく、科学の専門用語なのである。「教師なし学習」「教師あり学習」といった比較的馴染みのある専門用語と同様に、「箱思考」「木思考」も機械学習の専門用語なのである。


だから、もしそれらの不思議な言葉に出会ったら、読み飛ばしてはいけない。それどころか、Wikipediaなり百科事典なりで調べたり、あるいは生成AIに質問したりして言葉の理解に努めながら、本書を読み進まなくてはならない。


つまり、「箱思考」「木思考」「決定木」「特徴量の選択」「k平均法」といった専門用語を調べて理解しながら、それらの概念を駆使して日常生活の諸問題を解決方法を学ぼうとするパン博士の模索を味わっていくのだ。それ本書の正しい読み方なのである。




(注意)ただし、「箱思考」にも、日常生活用語の意味もあるようです。本書では、「箱を使った考え方」=「型にはまった考え方」となっていますが、” think outside of the box”(=「箱の外で考える」) とは、 「自由で独創的な考え方をする」ことを意味するからです。つまり、「箱を使って考える」のは型にはまった考え方をするということになっているようです。




3. 誰が読むべき本なのか?――知的好奇心と評価の難しさ

ここまで見てきたように、本書は「普通の人付き合いのノウハウ本」ではない。では、結局のところ誰に向けられた、どのような価値を持つ本なのだろうか。結論から言えば、読者の背景によって異なる読み方が可能だろう。


A)理系の知識を持つ読者にとっての「極上のエンターテインメント」 

すでにデータサイエンスや情報生物学などについて基礎知識を持っている人にとって、本書は知的なエッセイとして楽しめるのではないだろうか。「決定木」のような、普段は無機質な専門用語が、泥臭い人間関係の分析に鮮やかに転用されていくのだ。もちろん、ASD(自閉症スペクトラム)の人たちが抱えている問題を理解する手助けとなるであろう。


B)文系読者にとっての「新しい概念への挑戦の書」

 他方、文系の読者であっても、知的好奇心さえあれば本書は素晴らしい刺激になる。何しろ、我々には生成AIやWikipediaが手許にあるのだ。未知の専門用語に遭遇しても、それらについて学ぶ機会を得ることができるのだ。「箱思考」から「木の思考へ」といった道すじをに挑戦しながら、楽しんでいこうではないか。


C)批評的考察:本書の「限界」と「評価の難しさ」 

しかし手放しで絶賛できるかというと、いくつか留保が必要だ。

第一に、「科学の啓蒙書」として読むには中途半端で不親切であることだ。パン博士の目的はあくまで「自分がこの世界を生き抜くためのマニュアル(トリセツ)」を作ることにあるため、「読者に科学の基礎を体系的に分かりやすく教えよう」という教育的な配慮は希薄だ。もし純粋に「機械学習」や「ゲーム理論」をゼロから学びたいのであれば、それぞれの分野の適切な入門書を読んだ方がはるかに効率的だろう。

第二に、「本格的な知的探求」なのか「お気楽な個人的エッセイ」なのか、その立ち位置の曖昧さである。科学的アプローチの斬新さに驚かされる一方で、最終的な結論が「人間には思い込み(バイアス)がある」「失敗から学ぼう」といった、比較的ありきたりな教訓に着地してしまう章も散見される。学術的な深掘りを期待する読者にはやや物足りず、かといって気軽なエッセイとしては専門用語が重すぎる。このどっちつかずの姿勢が、本書の評価を難しくしている。


最後に 

この本は、万人受けする処方箋ではない。専門的科学の言葉で人間行動の本質を翻訳し理解しようという著者の悪戦苦闘のプロセスそのものです。文系のような私が楽しむには体力がいる。しかし、参考書に読解方法が載っていない野生の知性の探検を楽しむ場を与えてくれることは保証しよう。大学入試の長文読解でこの本が選ばれたのも、受験生に対して「既存の箱(枠組み)」にとらわれず、未知の事象に食らいつく知的な体力を求めているからではないだろうか。








----------------------------------------------------------------------

シリウス英語個別指導塾 by 東大式個別ゼミ

住所:神奈川県相模原市
南区東林間4-13-3

電話番号:042-749-2404

----------------------------------------------------------------------

NEW

VIEW MORE

CATEGORY

TAG

ARCHIVE