しっかりと勉強したはずなのに、模試や学校の成績が伸び悩む生徒には、いくつかの決定的な共通点がある。もっとも典型的なのは、「勉強方法」に問題がある場合だ。(我々のようなプロ個別指導講師は、個々の生徒の勉強の仕方について、学校や予備校の講師などよりはるかに深く知り得る立場にあるのだ)。 とくに我々が重要だと考えるのは、「未来の自分」に配慮しようとする姿勢が欠如している生徒たちが多数いることである。逆に言えば、「未来の自分」に優しい配慮が出来るようになりさえすれば、学力は急上昇する。 我々は「今・ここ」で習ったことを、しばらく経つと忘れてしまう。天才的才能の持ち主でないかぎり、習ったことを全部覚えていられないのだ。しかし、「未来の自分」に対して「ヒント(置き手紙)」を残すことは出来る。 ヒント(置き手紙)の分かりやすい例は、「名著」と呼ばれる参考書にある。数学の『チャート式』の「指針」や寺田の『鉄則』、英語では関正生の『The Rules』や富田一彦の『100の原則』である。これらは単なる解答の羅列ではなく、「この形が来たら、こうアプローチせよ」という汎用的なルールを読者に提示している。(全く余談だが、私が大学受験で使った数学の参考書は、寺田先生の『鉄則シリーズ』だった。本番の試験では80点満点中60〜70点と高得点をとれたはずなので、現役合格することが出来た)。 優秀な先生と生徒は、これら名著の著者がやっているのと同じことを、自分の頭の中やノート上で行っている。「答え」を丸暗記するのではなく、「未来の自分」が初見の問題を解くときに使える、自分なりのルールを探し求めているのだ。 だが私がここで取り上げる「ヒント(置き手紙)」や「配慮」は、「鉄則」のような高度な武器ではない。もっと数段素朴だが、デキる人はごく当然と実行している、「未来の自分への配慮」である。 ――「今、ここ」の自分だけが満足しようとする生徒の例 まずは、「配慮」ができない生徒の例から始めよう。次の日本文の英訳が課題だとする。ただし、英文とその和訳は、前回の授業で既習済みである。 「彼女は帰りがけに店に寄った」(和文英訳課題) ある生徒(某名門校在籍)は、「帰りがけに」を英語で何と言って良いか分からず、困っているとする。そこで、「帰りがけに」は “on her way home” であることを確認させた上で、私は「『帰りがけに』は英語で何と言うの?」と問う。 すると彼女は、“She stopped at the store on her way home.” と答える。 「いや、(文全体ではなくて)『帰りがけに』には?」と私がもう一度促しても、彼女は再び ”She stopped at the store on her way home.” と、答えを「丸ごと」口から発して終わりである。 「帰りがけに」= ”on her way home” だと再確認させたり、”on her way home, on her way home, on her way home” と何度か発音させて口に馴染ませたいのだが、言うことをきいてくれない。 この短いやり取りの中に、できない生徒が抱える致命的な欠陥が凝縮されている。彼らは、自分ができなかったピンポイントの箇所(”on her way home”)に焦点を当てられないのだ。とにかく正解の一文を口にしてしまい、この場を無事に終わらせたいだけなのである。 出来なかった箇所をマーキングしなさいと命令しても、こちらの指示に真面目に耳を貸そうとしない。 【ダメなマーキング例】She stopped at the store on her way home. (丸ごと塗りつぶしてしまう) 【適切なマーキング例】 She stopped at the store on her way home. (ピンポイントで焦点を当てる) 出来なかったフレーズをピンポイントで確認し、次は完全に出来るようにするという発想が、そもそもないのだろう。極端な事例のように見えるかもしれないが、準上位の中高一貫の進学校の生徒でも、このような学習態度の生徒は残念ながら少なくない。 彼女は、なぜ on her way home が「帰りがけに」という日本語訳になるのか、その理屈を再度説明してもらっても、それをインプットしようとしない。 ここでの home は「家への」という意味の副詞であり、前の名詞 way を後ろから修飾して「家へ向かう道」という概念を作っている。それに前置詞 on がついて、「家へ向かう途中で(帰りがけに)」になる。そして、「家へ向かう道」が「帰りがけに」という別の日本語で表現されているのだ。 しかし、大半の生徒はこの home という単語が果たしている「後置修飾」の役割について考えることを放棄し、on her way home という一つの巨大な記号として、単純な丸暗記でその場しのぎで済ませようとしている。 「短期記憶」の中にさっき見たばかりの正解の残像があり、とりあえずそれをそのまま吐き出せば、その場の問題は解けた気になれる。しかし、言葉の役割や構造を無視した丸暗記の知識には、二つの弊害がある。 応用が利かないこと the way home をよく理解して覚えれば、the trip abroad(海外への旅行)、the man there(そこにいる男)、the meeting yesterday(昨日の会議)と類似した表現へと広げられるはずである。副詞が前の名詞を修飾している形だ。 長期的記憶につながりにくいこと 丸暗記してそれを吐き出すような勉強法は、「長期的記憶」には結びつかない。要するに、「今、ここ」をやり過ごすための勉強法では、「未来の自分」にはほとんど助けにならないのである。 学習法のバージョン・アップをぜひとも目指そう。それは、数日も経てば、自分は必ずこの問題の解き方を忘れて途方に暮れるだろうという前提に立ち、「未来の自分」に向けて強力なヒント(置き手紙)をしていこうとする学習法である。 ここでも具体的事例を取り上げてみよう。 「その貧しい家族には住む家がありませんでした」 という英作文の問題があるとする。 低レベルな勉強法では、 The poor family had no house to live in. という解答を丸暗記して終わりだ。なにしろ、そのワン・センテンスを言うのが正解だからである。 一方、高いレベルの勉強法では、正解に至るまでの「思考プロセス」を残そうとする。「思考プロセス」は直接の答えではないが、答えを導くヒント(置き手紙)になる。たとえば、こんな風に考える。 【和文英訳を導く思考プロセス】 「ない」は「ある」の否定形だから、“There is ~” か “have” を用いてそれを否定すれば良いのだな。“have”を動詞に選ぶ場合、主語は「貧しい家族」(=the poor family)で良いな。”There is”構文を使うならば、”there is no house” で良いだろう。 和文では「住む」が名詞の「家」を前から修飾している。(後置修飾)。これを英訳すると、「家」つまり ”a house” の後ろの方から「住む」”live”という意味の句や節をもってくれば良いのだろう。今回は不定詞の学習だから、不定詞 (to live) の形容詞的用法を使えば良い。あるいは形容詞節だとしたら、形容詞節=関係詞節だから、”which they live” を a house の後ろに置けばよいのかな。 いや、よく考えたら、元の順番に戻してチェックしたとき、”live a house”(「家住む」)ではおかしいな。”live”は自動詞だから、「家に住む」の形にするためには ”live in a house” と前置詞をいれないといけない。それに不定詞の形容詞的用法や形容詞節(=関係詞節)では、目的語など、何かが欠けているのが特徴だった。”something to write with” とか習ったな。だからこれは “a house to live in” や ”a house which they live in” にすれば良いな。こうすれば、前置詞 in の目的語が欠けているので、ぴったりだ。 あと気を付けるのは、過去形であり、否定文だということだ。そうすると、 The poor family had no house to live in.(これはOKだな) There was no house to live in. (あれ?よく見ると「貧しい家族」という語句がなくなっている。to 不定詞の意味上の主語は for A to do だったから、There was no house for the poor family to live in. だな) ここでの最大の「ヒント(置き手紙)」は、和文では「住む」という動詞が前から名詞の「家」を修飾しているというシンプルな事に注目することである。それさえ気づけば、この和文を英語に転換するならば後置修飾を使えばよいと方針を立てられる。以上のような思考方法を覚えてもらいたいものである。 「『このレベルのヒント』なんて、いたって簡単ではないか」と思う人もいるだろう。しかし、『このレベルのヒント』を初級段階の中高生に実践させるのは、しばしば至難の業である。個別指導の現場において、最大の障壁がここにあるのかもしれない。 生徒は常に「目の前の問題で正解を出すこと」に夢中である。ヒントを与えて自力で正解が出た瞬間、彼らは安心してしまい、そこに至るまでの理屈やプロセスをすべて頭から捨て去ってしまう。「今、ここ」の正解だけで満足してしまうのだ。 たとえば、最近の生徒(東大合格者5〜10名レベルの中高一貫の準進学校)の事例をあげてみよう。彼には、「住む家」は「住む」が「家」を修飾しているのだ、「書く物(筆記具)」は「書く」が「物」を修飾しているのだと、声に出して説明しながら英訳してみるように指示している。 しかし、毎回、毎回、毎回、声に出して説明することを忘れてしまった。なにしろ、「今、ここ」でならば和文英訳で解答できそうなので、正解だけを求めてしまうからだ。彼は何も考えないで答えを出したがるので、次のようなミスを犯す。 「今日の午後は、やることがたくさんある」を英訳せよという問題に対し、(×) There is a lot of to do this afternoon. と口に出す。不定詞の名詞的用法の意味は「〜すること」と単純に覚えているからだ。 a lot of のあとに不定詞が来るのは間違っている。また、「することがある」を英訳しようとして、(×) There is to do や (×) I have to do のような英文を作ってしまったら、ちょっと変なセンテンスだと思えるセンスをもつことも極めて大事である。 なお彼にとって、この問題は初見ではない。暗唱例文としてすでに次のセンテンス ―― (〇) There are a lot of things to do this afternoon. ―― は学んだはずなのだ。しかし、しっかりと理解を重視した復習をせず、意味を乱暴に捉えながら丸暗記的に暗唱したのだろう。だから変な英文が口から出てくる。 いくら「考え方が大事なんだよ」「思考プロセスを残せ」と指導しても、新しい単元に入れば、またすぐに元の「正解至上主義(結果の丸暗記)」へと逆戻りしてしまう。 本物のプロ個別指導講師は、そのことを熟知している。なぜ私が知っているのか。ここで初めて種明かしをしよう。学習方法に問題がある生徒たちは、いくら「考え方」や「ポイント」をホワイトボードに丁寧に板書しても、それらをメモしようとはしないのだ。 不真面目だからならばまだ良い。彼らがホンネで大事だと思っているのは、「考え方」ではなく結果や結論だということが問題なのだ。 一言でいえば、間違った勉強法に囚われている生徒の学習方法をバージョン・アップさせることは、容易ではない。これは数ヶ月、あるいは1年以上におよぶ根比べとなる。 論理的思考力を鍛える「ふくしま式国語」の福嶋先生は、生徒の思考の癖を直し、正しいメソッドを定着させるには「2年はかかる」とYoutubeで述べている。1年では、ほとんど目に見える効果はないそうだ。やはり国語の場合は、その位の期間は必要なのだなと思う。 英語教育の場合は、その生徒の国語力と算数・数学力によって、かかる年数は大いに左右される。ゼロから始めてわずか3年間で東大京大や早慶レベルに到達する生徒もいた。しかし、国語力や算数・数学力がなかったりすると、半年程度ではなかなか成果にはつながらない。 「今、ここ」の正解だけを求めるような姿勢から脱却させ、未来の自分を救える学習法へと根本からバージョン・アップさせること。それこそが、個別指導における最も重要で、かつ最も困難な課題である。「今・ここの自分中心」を脱して「未来の自分」に配慮しよう
「未来の自分」への配慮とは?
「未来の自分」への配慮がない勉強法
言葉の役割を無視する「丸暗記」の罠
「半分忘れてしまう未来の自分」にヒントを残す学習法
立ちはだかる「今、ここ」の罠
正解至上主義と無思考・丸暗記を超えるには
シリウス英語個別指導塾 by 東大式個別ゼミ
住所:神奈川県相模原市
南区東林間4-13-3
電話番号:042-749-2404
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