「やる気不足」なのか「認知スキーマの問題」なのかーー予備校講師が見落とす「ノートを取れない生徒」の真実 ──

query_builder 2026/06/02
「やる気不足」なのか「認知スキーマの問題」なのかーー予備校講師が見落とす「ノートを取れない生徒」の真実 ──
「やる気不足」なのか「認知スキーマの問題」なのかーー予備校講師が見落とす「ノートを取れない生徒」の真実 ──
「やる気不足」なのか「認知スキーマの問題」なのかーー予備校講師が見落とす「ノートを取れない生徒」の真実 ──
「やる気不足」なのか「認知スキーマの問題」なのかーー予備校講師が見落とす「ノートを取れない生徒」の真実 ──

「やる気不足」なのか「認知スキーマの問題」なのかーー予備校講師が見落とす「ノートを取れない生徒」の真実 ──

ある有名な予備校の英語講師が、授業中に適切にノートを取らない(あるいは取れない)生徒たちを見て、「彼らはやる気がない、ダメな奴らだ」と切り捨いる文章を読んだことがあります。何十人、何百人もの生徒を一度に相手にする集団授業の講師の目から見れば、確かにそう映るのでしょう。

しかし、対面で生徒と向き合う私たち個別指導講師の視点は異なります。

ここで問われるべきは、彼らがノートを取らないの原因が「やる気不足」なのか、それとも「認知スキーマの問題」なのか、という視点です。

オンラインの個別指導とも異なり、対面式の個別指導では、生徒が教科書に書き込む内容を直接観察することができます。目の前で彼らの書き込みを観察していると、彼らが決して「やる気がない」わけではないことがはっきりと分かります。むしろ、主観的にはやる気があって元気なのです。

しかし、生徒が書き込むメモには、しばしば講師の意図が全く反映されていません。自分勝手な判断(曲解)で、講師の書いた板書を取捨選択し、一番大事な箇所を削除して書き写してしまうのです。それは彼らが不真面目だからではなく、誤った「認知のスキーマ(物事を認識・解釈する際の枠組み)」に囚われているからです

画面越しでは決して分からない手元のノートを直接覗き込める対面指導だからこそ、特にこうした認知のスキーマに問題を抱えている生徒の「躓きのサイン」を正確に見抜くことができます。私たち個別指導講師は、生徒のノートの端々から、彼らがどのようなスキーマを通して世界(=英文や文法ルール)を解釈しているのかを深く観察し、彼らが本当に克服すべきは「勉強に対する考え方そのもの」であると看破しているのです。

当塾(シリウス英語個別指導塾)で指導している、ある公立中高一貫校の高校一年生の例を通して、この「認知のスキーマ」の恐ろしさと、それを打ち破るための指導について書いてみたいと思います。

症状①:「ルールの丸暗記」が勉強だというスキーマ

彼は決して怠け者ではなく、むしろ真面目にある程度の努力ができる生徒です。英語の遅れを自覚した彼は、市販の分かりやすい参考書(『大岩のいちばんはじめの英文法』など)を読み込み、自分なりに勉強を進めていました。その結果、「形容詞は名詞を修飾する」といった文法的な命題については、即座にスラスラと言えるようになっていました。

ルールを暗記すること自体は基礎として必要であり、彼の努力は立派なものです。しかし困ったことに、彼は「こういう風にルールを丸暗記して即答できるようにすることが『お勉強』なのだ」という強固なスキーマを形成してしまっていたのです。

手に入れた「ルール」という道具は、文構造を具体的に紐解いていく現場でこそ活かさなくてはなりません。しかし彼は、ルールを即答できることが文法学習のゴールであると思い込み、その先の「考える」プロセスへ進む道を自ら閉ざしてしまっているようでした。


症状②:理解できないと「正解の丸暗記」に逃げ込む 

彼の思考の癖は、別の場面でも現れます。間違えた問題の復習をしているときのことです。彼は「Is that the star or the moon?」という英文で、the star を a star に直さなければならない理由が分かりませんでした。

私は、the star がなぜ間違っていて、the moon がなぜ正しいのかを丁寧に説明しました。しかし彼の自宅での復習は、「ここは a star が正解だから the star はダメなんだ、moon は the で良いんだ」という、単なる「正解の丸暗記」でした

私が求めていたのは、「star(星)に the をつけると、話し手と聞き手が共通の特定の星を見つめているという、どんな不自然な情景が生まれるか」「夜空にある月は一つしかないという共通認識があるから the moon で良いのだ」といった、言葉が持つ本来のイメージを頭の中に思い描くことでした。

しかし今になって思えば、おそらく彼にとって最大の問題は、「私のその説明(情景のイメージ)自体が、よく分からなかった」ということなのだと思います。

さらに深刻なのは、彼が「よく分かりません」と口に出せなかったこと、そして何より「自分が分かっていないこと」自体を自覚できていなかったことです。

なぜ自覚できないのでしょうか。それはおそらく、彼がこれまでの学習において、「なるほど、そういうことだったのか!」と心の底から「よく分かった」という経験をしたことがないからです。本当の「深い理解」を知らないからこそ、モヤモヤとした「よく分からない状態」が当たり前であり、それが「勉強というものだ」と思い込んでしまっているのです。

だからこそ彼は、私の説明が理解できない壁に直面したとき、戸惑うことも質問することもできず、とりあえず「the は×、a は〇」と正解だけを丸暗記することで、その場をやり過ごそうとしました。彼にとっての丸暗記は怠慢ではなく、「分からないのが当たり前の世界」を生き抜くための、彼なりの防衛本能だったのでしょう。


症状③:抽象的で難解な言葉に「戸惑う」ことができない

極めつけは、代名詞「ones」の解説をした時です。『シリウス発展編 vol.1』には「onesは、必ずtheや形容詞などの限定する語とともに用いられる」と書いてあります。


普通の中高生にとって「限定する語」という概念は完全には意味が分からないはずです。「難しいな」「どういう意味だろう?」と戸惑うのが、知的に誠実な人間の正しい反応です。ところが、彼は全く戸惑うことができず、この文章の意味が「わかる」と主張します

代わりに私は、

〇 little ones (限定語があるので〇)

×  ones   (限定語がないので×)


と良い例と悪い例を対比して示し、「限定する語」とは具体的にどういうことかを説明しました。限定する語がある例とない例を対比して初めて、そのイメージを理解できるからです。

しかし、どうやら彼には話が通じなかったようです。抽象的で分かりにくい文章を読んでも「よく意味が分からない」と感じられないため、具体例を与えられても腑に落ちる感覚が得られないのでしょう。

彼のノートには [ × ones 限定する語がない ] というところだけがメモされていました。具体的事例の対比(little ones vs. ones) で英文法を理解しようという発想(スキーマ)が、まだ彼の中には存在していないようです。


「思考する習慣のない人間」が「思考できる人間」へと変革することを促すのが真の個別指導である

誤解を恐れずに言えば、「ルールを丸暗記し、具体的な意味を考えずに英文の記号処理をする」という彼の今の勉強法でも、暗記と自動反射だけで通用する大学には合格できるかもしれません。しかし、首都圏国公立大(横浜市立大学!)やMARCH、あるいはそれ以上の難関大学を目指すのであれば、今のままでは絶対に無理です。

一流大学が求めているのは、覚えた原理原則という「道具」を、目の前の複雑な文脈に当てはめるのが適切か否かを丁寧に考える力です。普遍的で抽象的な原理原則を、具体的な現実と結びつける訓練です。

彼に求められているのは、「思考しない人間」から「思考できる人間」へと、認知のスキーマを根本から書き換える「内なる自己変革」です。これまで無意識に避けていた「思考のスイッチ」を入れる作業には、時間がかかります。それは決して安易な道ではありませんし、おそらくは一年以上はかかるでしょう。

生徒が壁にぶつかったとき、それを単なる「やる気不足」に還元して切り捨てることは簡単です。しかし、彼の認知構造にまで踏み込み、手元のノートから「認知スキーマの歪み」を読み取り、そこから脱出させようと粘り強く介入していく。これこそが、対面式・個別指導講師の真の存在意義だと信じています。

私たちは彼の未来に対して、大いなる希望を持っています。彼がいつかこの壁を越え、大変貌を遂げる日を、私たちは決して諦めることなく、ポジティヴな伴走者として見守り続けます。


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シリウス英語個別指導塾 by 東大式個別ゼミ

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