2026年中学英語教育の危機とは?(後編:国家エリートの冷徹な判断と我々のサバイバル戦略)

query_builder 2026/05/14
中高一貫校 大学受験 東大英語 英語教材の検証
2026年中学英語教育の危機とは?(後編:国家エリートの冷徹な判断と我々のサバイバル戦略)


2026年中学英語教育の危機とは?--後編:国家エリートの冷徹な判断と我々のサバイバル戦略




2026年、日本の中学英語教育が直面している未曾有の危機。前回の記事 2026年・中学英語教育の危機とは?ーー前編:英語教科書の「過度な難化」の帰結 」(←クリック)では、新旧教科書の比較を通じて、その「牙」の正体を浮き彫りにしました。本編(後編)は、その続きです。




(3)英語講師の考察ーー「英語教科書の過度な難化」の正体は、日本国のエリートの冷徹な政策判断である



ほとんど誰もついていけない中1英語の背後の意図は?ーーエリートの論理



2020年代に始まった英語教科書やNHK基礎英語等の英語教材の著しい難化を、我々英語を教える者はどのように捉えたらよいでしょうか。


私はと言えば、だいぶ前に書いたのですが、NHK基礎英語の難化については「非常にケシカラン!」という趣旨のことを書きました。なにしろ「基礎英語1」「基礎英語2」では猛スピードで進み、3年目の「中高生の基礎英語 in English」では、なんと「オール・イングリッシュ」の授業になってしまうのですから。昔の基礎英語とは全然違うじゃないか!と怒ったものでした。


このような英語教材の難化について、英語教育の現場を無視した暴挙であると批判的に考えていることは、今でも全く変わりません。しかしながら、日本の英語教育の水準を一挙に高度に引き上げておきたいと考える人たちがいることも理解できない訳ではありません。


全面的な賛同は決してできませんが、要するに、政府(文科省?内閣府?)や財界は、「グローバル人材」として活躍できる英語が堪能な日本人を育成するために、旧帝や早慶以上に将来的には進学するであろう中学生だけをもっぱら念頭に置きながら、中学校段階で前よりもずっと高度な英語を学べるように「政策的配慮」をしたかったのです。


この際、最上位の中学生未満の平均的生徒については「切り捨て」となるでしょう。つまり、35人の1クラスのうち、34人または35人はおちこぼれてしまうかもしれない。また中学生の英語力の「平均値」が下がることになるかもしれません。


しかし、そういう問題については、国家エリートたちは深刻な懸念を抱いたりはしないのです。国家エリートの観点から言えば、有益な人材ではない生徒たちの「中途半端」で「平均的な」英語力を向上させるよりも、グローバルな領域で活躍できる「選抜されたエリート」の「英語人材」を育成し確保することが、彼らの最大の使命だからです。



エリートの論理:優秀な生徒が20分で仕上がる「超基礎」に3ヶ月も時間をかけられる?


今回の英語改革を推し進めた国家エリートの観点に立って、「難化した教科書」について考えてみましょう。彼らの目には、現在のカオスはどのように映っているのでしょうか。

まず最初に述べなくてはならないのですが、新しい英語検定教科書は、最上位の中学1年生にとって、決して「激ムズ」ではないということです。

「英文は S(主語)と 一つのV(動詞)からなる」「V には2種類ある」といった決まりは、大半の生徒には難しいことかもしれませんが、頭の良い子供たちにとっては造作もないことなのです。彼らがこの概念の理解に必要な時間は、せいぜい10分か20分もあれば十分なのです。

学習速度の学力による差異は、様々な科目にあてはまる。例えば、三角関数の一番最初の時間で、「三角関数のsinθ=y / r (=単位円) である、sin45°、sin 135°はそれぞれいくつか」という課題を高校生に取り組ませるとしたら、一流高校ならば10分くらいで十分だろう。他方、中堅進学高の授業ならば、たっぷり50~60分くらいはかかるだろう。学力差による時間的密度の違いは、かくも大きいのである

とすれば、この簡単すぎる決まりの理解に、まるまる一学期(3〜4ヶ月)も時間を割いてしまうのは、日本のグローバル人材育成の観点から見たら、嘆かわしい時間の無駄使いとして映るだろう。

要するに、エリートの観点から見れば、グローバル人材の育成のためには、今までの易しすぎる検定教科書では、不都合なのです他方、できるだけ多くの生徒の英語力を向上させようとする観点からすれば、クラスでたった一人しかいない優秀な生徒のためだけに、検定教科書の難易度を上げて良いのかと、現行の英語教育の加速化に納得できないのです。「グローバルな英語人材育成」の観点と「国民全体の英語力育成」の観点のせめぎあっている訳です。


ここでエリートのために一つ弁明しておきたいことがあります。それは、たとえ将来の東大生となる優秀な頭脳だとしても、英語をマスターするのは容易ではなく、大変な労力と時間を要するのだということです。彼らは日本国内での英語力競争ではトップだったかもしれません。しかし、東大ーハーバード大学大学院で研鑽したトップ・エリートでも、国際的な基準からいえば、たいした英語力ではないのです。だから、日本では最上位の優秀な中学生であっても、英語力に関していえば、全く余裕などないのです。国家エリートの教育政策の判断はあまりに冷酷に映りますが、彼らにも苦しい事情があるのです。


それでは次に、様々な学力層の生徒さんは、どのように英語教育の激動に対応をしていけばよいのか、述べてみたいと思います。

(4)2026年・英語教育の激流を生き抜くサバイバル戦略


国家による冷徹な選別が加速するなか、生徒たちはこの「無理ゲー」(あるいは「超簡単教科書」)にどう立ち向かえばよいのでしょうか。今の立ち位置によって、取るべき戦略が異なってきます。


【最上位層の生徒さんへ】


①「英語教育加速化計画」のターゲットは君たちだ


全生徒のトップ3%前後以上に位置する最上位の優秀な生徒さんにとって、検定教科書の難化それ自体は大した「脅威」ではないでしょう。また、中高一貫校に通っていれば、そもそも検定教科書(『New Horizon』『New Crown』など)を使っていないかもしれません。

しかし、「英語教科書の難化」とは、国策として目論まれている「英語教育の加速化計画」の中の一つの事例にすぎません。事実、2020年代においては、「英語検定教科書」「NHK基礎英語」ばかりでなく、共通テスト東大入試の英語のテストも相当に難化しました。また東京大学では、オール英語講義のUTokyo College of Designという新学部さえ2027年に開設されることになりました。東大では実に約70年ぶりの新学部の開設です。

これらの英語加速化計画は、日本の全生徒の90%以上については相手にせず、最上位の生徒さん、つまり将来的に東大、京大、旧東工大、一橋大、早慶などに進学するはずの優秀な生徒さんだけをターゲットに定め、今まで以上の英語力の研鑽に励みなさいと、強く突き付けているのです。「検定教科書の難化」は、実はそういった生徒のため、そして日本国の発展のためににつきつけた計画なのです。

その厳しさを表層的に述べれば、次のようになるでしょう。

  • 従来の東大合格ルートは過去のものとなる:先輩たちが築いた従来の「東大合格ルート」では、もはや東大には合格できないかもしれないと理解してもらいたいのです。

  • 「逆転合格」は過去のものとなる: かつては「中学でちょっとサボり惚けても、高1・高2から本気を出して東大へ滑り込む」という「逆転合格」のモデルがありました。しかし、もうこのモデルは崩壊しつつあります。分かり易く言えば、中学校時代にサボってしまえば、もう受験的には取り返すことができないかもしれません。

  • 高1で「英検準一級」には合格しておきたい。


②「最上位層の生徒さんへの警告」--- 英語入門時の「強み」が最大の「足枷」になる

将来の難関大候補であるあなたたちにとって、中学英語の入門時のスタートダッシュは、非常に簡単だったはずです。その理由はすでに「前編」で説明しましたが、もう一度簡単に述べます。

日本語力に基づく言語のメタ認知力日本語という母語のフィルターを通して、「言語のメタ認知能力」が優れている。日本語で「主語・述語」や「修飾語・被修飾語」あるいは「助詞」「助動詞」という概念をよく理解できるので、英語の「主語+動詞」「修飾語・被修飾語」あるいは「前置詞+名詞」について理解するのも容易です。

ロジカルな記号操作能力抽象化」や「ロジカル」な能力が発達している。だから、「S」や「V」といった抽象的な記号を、簡単な数学の問題を解くときのように、いともたやすく理解し、操作することができる。


この二つの能力は入門時には有利に働きました。しかし次の段階では、それらから脱皮すること、忘れることが求められています。次のステージに行くためには、ぜひとも必要な試練なのです。

「日本語スキーマ」からの脱却

あなたは今、高度な「日本語力」を活用して、英語・英文法を理解しているでしょう。日本語力があるからこそ、英語入門が容易になったのです。しかし、いったん日本語力に依存しながらある程度の英語力を身に付けたならば、今度はそれを「忘れ (unlearn)」、英語によって英語を身に付ける、つまり、「英語スキーマ」をそだてあげなくてはなりません。

認知科学者の今井むつみも指摘するように、言語にはそれぞれ特有の「スキーマ(無意識の認知の枠組み)」が存在します。 日本語の枠組みを通して英語を理解しているうちは、「英語のスキーマ(英語脳)」は育ちません。時には、日本語の影響を受けた変な英文(たとえば、極端な例であるが、今井むつみが例に挙げた”Getting letter is happy.”といった英文です。「手紙をもらうと嬉しい」という日本語をそのまま直訳しまったものでしょう )を書いてしまうかもしれません。

「日本語力による英語入門」から「脱・日本語スキーマ」へと脱皮し成長しなくてはならないのです。それがいかに難しいのかについては、今井むつみの本を読んでみることをお勧めします。


「ロジカルな記号操作」から「身体的無意識的反応」へ

あなたは英文を論理的なパズルや数式として読み解くのが得意かもしれません。しかし、英語力を身に付けるということは、頭を使って論理的に「考える」能力を身に付けるというだけでなく、「身体的なレベルで、無意識に反応できる」能力を習得することなのです。

数学や算数の勉強のように、「理屈が分れば解ける」という学習方法論に固執してしまうと、英語学習は破綻してしまいます。圧倒的な量の情報処理をするためには、「頭を使わないで身体で英語に反応」できるようにしなければならないのです。

そのためには、小学生のとき九九を覚えた時のように、様々なフレーズや語句の塊をたくさん覚えてもらう必要があります。ちょっと退屈ですが、是非とも必要な作業をがんばってください。


【まあまあ成績上位、または中堅上位層の生徒さんへ】ーー「切り捨て」の現実を直視しよう。


日東駒専や地方国立大学を目指す「まあまあ上位」の生徒たち。あなたたちが今、最も危機的な状況に置かれていることを自覚してください。

  • 政府の教育政策からは無視された存在 非情な言い方ですが、現在の教育改革において、あなたたちは「救済の対象」ではありません。教科書の劇的難化だけでなく、共通テストの長文化・難化、さらには地方国立大学の再編。これらは全て上位3%未満の層を「切り捨てる」ための装置となっています。たとえば、2026年の共通テストは最上位の秀才くんたちには比較的容易な試験なのですが、君たち中堅エリート候補生にとっては難しすぎる場合が多いのです。日本政府やエリート主義者の意向に沿った者にとっては、地方国立大学や日東駒専卒業の人は、「有益な人材」ではないのかもしれません。

  • 高校生になったら、すぐに「中学英文法」を最初から徹底的にやり直すこと中学生の時には「退屈な丸暗記」にしか見えなかった 英語のロジックやルールが、知的に成熟した高校生になれば、今度は鮮明に理解できるはずです。また、中学英語を復習することにより、英語を話したり、書いたりできるようになるはずです。「急がば回れ」です。

  • なお老婆心から一言アドバイスすると、関正生先生の英語の参考書には、実力がつかない段階では手を出さないでください。関先生は、旧帝や早慶以上に合格できる準備が整っている、最優秀の中高生しか相手にしていません。ですからある程度以上実力がつくまでは(河合塾の全統模試で偏差値65程度が目安)、関先生の問題集は購入しないほうが良いのです。

  • 東大・医学部・早慶といった学歴的頂点は難しいかもしれません。しかし、壊された土台を自分の意志で再構築した者には、必ず別の道が切り拓かれるはずです。国が用意した「絶壁」を無謀にも挑戦し登坂しようとするのではなく、自分の中に揺るぎない「知の階段」を作りあげていきましょう。



【成績中間層、またはそれ以下の生徒さんへ】---英語よりも数学と日本語が大事です。


英語よりもはるかに重要なのが、日本語と数学の力です。英語学習の観点からいえば、とくに日本語の「主語と述語」「修飾語と被修飾語」の理解が重要です。ここでは、認知工学さんの次の二冊問題集を紹介しておきます。Amazon等で入手して取り組んでください。


文の組み立て特訓 修飾・被修飾専科』文の組み立て特訓 主語・述語専科』 


最後にーーー『朝日中高生新聞』を読んでみよう

今の時代だからこそ、あえて「新聞」を手に取って読んでほしい。YouTubeもいいけれど、活字もね。**『朝日中高生新聞』**などの「週刊新聞」で良いのです。

世の中がどう動き、どんな言葉で語られているのか。動画のスピードに流されるのではなく、自分のペースで文字を追い、情報を確認する。そんな時間があなたの頭脳のOSをよりアップデートするはずです。

加速化する教育改革に、自分の知性まで飲み込まれてはいけません。時には立ち止まり、活字という「確かな土台」の上で、自分の思考を深めていってください。

このブログはここまで。最後までお読みいただき、ありがとうございました。




----------------------------------------------------------------------

シリウス英語個別指導塾 by 東大式個別ゼミ

住所:神奈川県相模原市
南区東林間4-13-3

電話番号:042-749-2404

----------------------------------------------------------------------

NEW

VIEW MORE

CATEGORY

TAG

ARCHIVE