2026年・中学英語教育の危機とは?ーー前編:英語教科書の「過度な難化」の帰結
(1)英語教育改革で「英語教育の危機」が囁かれる逆説
今、日本の英語教育現場から、かつてないほど悲痛な叫びが聞こえてきます。「英語教育の解体」「中1英語の危機」「落ちこぼれの大量発生」等々。これらは決して、一部の過激な教育論者が放つ煽り文句ではありません。現場の教師と中学生が、肌で感じている切実な危機感の表れです。
それらの懸念を裏付けるように、冷酷な数字が次々と提示されています。文部科学省の調査によれば、中学3年生の英語学力は近年、目に見えて低下しているようです。
なかでも目を覆いたくなるのが、国が「グローバル人材育成」の目玉として能力向上をはかったはずのスピーキング能力の結果です。小学校から英語で「話す・聴く」を重視しているはずなのに、ある調査では「話す」テストの正答率は10%前後となっています。
なぜ、良かれと思ったであろうと実施された「改革」が、悲劇的結末に終わるのか。また、そもそも文科省などが目論む英語教育の改革とはどのようなものなのか?「使える英語」を目指し、小学校からの英語教育を導入し、4技能のバランスを強調したはずの改革。それがなぜ、しかも中一の1学期から大量の「英語嫌い」を生み出すことになってしまったのか。
その正体を探る手がかりは、教師と生徒たちが日々向き合っている検定教科書の過度な難化の中に隠されています。
中学英語の危機を伝える参考資料
Youtube
(2)「かつての中1英語教科書」と「今の中1英語教科書」は何が違うのか
新旧の英語教科書を徹底的に比較することで、現在の迷走、そしてその背後にある「残酷な選別」の正体を浮き彫りにしていきたいと思います。
まずは2019年発行の検定英語教科書『New Horizon1』と2026年発行の『New Horizon1』の目次の画像をアップしてみましょう。
我々英語を教えている者がこれを見ますと、英語入門者(中学一年生)にとって、二つの教科書がどんな違いをもっているのか、なぜ2020年代以降になると、中学1年生の1学期というきわめて早い段階で落ちこぼれが続出するのか、その理由も簡単に読み取れるのです。
2019年発行『New Horizon 1』
2026年発行『New Horizon1』
教科書の目次だけではポイントが分かり難いでしょうから、中学一年の1学期、それも動詞学習に絞って表にしてみました。以下のようになります。
【中学1年1学期の英語の「動詞」学習予定表のポイント】
学習時期
旧『New Horizon1』(2019年版)
新『New Horizon1』(2026年版)
4~5月
be動詞の肯定・否定・疑問文。(I am…; You are…とHe is…; This is…)
be動詞 と一般動詞という二種類の動詞を同時並行的に学び、判別を完成させる(=第一の関門)。助動詞can の疑問文。
6~7月
一般動詞の導入。(be動詞と一般動詞の「違い」を理解させ始める)
疑問詞(what, who, when, where, how)疑問文の導入。(昔の英語教育の観点から言えば、ほぼ中1の総決算の課題です。なお英検2級合格者の高校生でも、疑問詞疑問文が完全には理解できない者が多数存在する)。
英語のセンテンスの「絶対的ルール」とその習得の困難さ
中学1年生の英語教科書がどうして難化したと言われるのかを理解するために、英語入門段階で最も重要となる『絶対的ルール』について 簡潔に説明します。それは次の(i) と(ii)のようになります。
| 英語のセンテンスの「絶対的ルール」 |
(i) 英語のセンテンスは主語(S)と一つの動詞(V)から成り立つ。 (動詞の数が0や2ではダメ、主語なしはダメということ |
(ii) 動詞(V)には、「be動詞」と「一般動詞」の二種類があり、それぞれ異なる運用法がある。 (どちらの動詞か「判別」せよということ) |
これは非常に重要な決まりです。このことを理解しないと、英語学習を続けることが出来なくなるかもしれない、それくらい大事な決まりです。(現在のシリウス英語個別指導塾では、be動詞と一般動詞の区別不能の生徒さんは、基本的には指導対象とはしていません)。
さて一見すると、この決まりはシンプルなので、たいした問題ではなさそうに見えます。しかし実は、我が国の中高(=義務教育と準義務教育)の英語教育上の最大級の難問です。というのは、半分以上の中学生はこのルールを理解できないし、教師が努力しても習得させるのは難しかったからです。
すなわち、私の感覚では公立中学の70%以上の生徒は、次のような間違った英文を平気で書いてしまいます。もちろん、自分が変な英文を書いているかもしれないと、チラリとでも感じることすらできません。
実際、ほとんどの英語の先生や教育研究者は、この課題については事実上諦めてしまい、教育課題や研究課題ですらありません。
「絶対的ルール」を理解できない中高生の書く英文例 |
× Are you play the piano? [動詞二つのミス、be動詞と一般動詞の区別不能] × This pen (x) red. [動詞0のミス、英語の形容詞≠述語動詞を理解不能] × Do you happy? [動詞0のミス、be動詞と一般動詞の区別不能 ] |
この重大な決まりを、旧教科書では中一の1学期間をかけて丁寧に教えます。まずはbe動詞の使い方を2か月くらいかけて丁寧に教え、ついで一般動詞の使い方に移ります。1学期の最後には、二つの動詞の使い分けや判別ができるようにしようと意図されていると思われます。
「半分以上の中学生はこのルールを理解できないし、教師が努力しても習得させるのは難しい」と私は書きました。しかし、クラスの全員が習得不可能という訳ではありません。公立中学でも「最上位の生徒さん」や「まあ上位の生徒さん」、つまり将来的に進学高や準進学高に合格できる生徒さんであれば、少なくとも近い過去においては、習得できたはずです。40人のクラスならば、6~10人くらいの生徒さんならばクリアーできた課題なのです。(逆に言えば、進学高未満の高校に進学される生徒さんには、ほとんど不可能な課題なのです)。
平均的な日本人中学生にとって、このルールがなぜそんなに難しいかというと、一般動詞の練習をすればbe動詞のことは忘れてしまうし、be動詞の練習をすれば今度は一般動詞を忘れてしまう。同時並行的に学習すれば、何も覚えられないからなのです。
新しい教科書(=「激ムズ」英語教科書)で何が変わるのかーー【公立中学でまあ上位の生徒さん】【中堅私立(公立)一貫校】の苦境
しかし、ちょっと考えてみてください。本当にこの決まりは難しいですか?もう一度、再掲しますよ。
| 英語のセンテンスの「絶対的ルール」 |
(i) 英語のセンテンスは主語(S)と一つの動詞(V)から成り立つ。 |
(ii) 動詞(V)には「be動詞」と「一般動詞」の二種類があり、それぞれ異なる運用法がある。 |
丁寧にゆっくり作業するならば、ごくごく簡単な命題だとは思われませんか。「このセンテンスの動詞はbe動詞かな、それとも一般動詞かな」とちょっと自問自答するだけで正確な英文が書けるようになるはずではないでしょうか。本当のところ、新しい教科書はどのくらい難しいのでしょうか? (ここで種明かしをすれば、「自問自答」をすること自体が、平均的頭脳の中学生にとっては、超えられないほどの大きな障壁になるのです)。
そこでもう少し学力別に、このルールの習得の難しさを深掘りしてみましょう。
【公立中学で最上位の生徒さん】
私のみるところ、最上位の生徒さんにとって、つまり、将来は早慶や旧帝(東北大、名古屋大、大阪大等)を狙えるなという感触を得られるような生徒さんの場合は、英文法の基礎の基礎の決まりなどは超簡単!なのです。だって、「英語のセンテンスはSと一つのVからなる。Vは二種類ある」というだけの決まりなのですから。30分くらいの授業を一回するだけで、完璧に理解できるはずです。だからこの新しい教科書は、彼らにとっては、学習速度を加速させてくれるものとして朗報であり、大歓迎でしょう。
その理由は簡単でしょう。第一に、彼らは「日本語の主語・述語」の仕組みを完璧に理解できていること、第二に英単語の羅列をS(主語)とV(動詞)という概念によって「抽象化」し、「それらの記号を苦労なく運用」できるからです。
ただし、そういう優秀な生徒さんは、ほんの一握りの秀才くんだけなのです。つまり、全中学生の上位3%前後、公立中学の1クラス35-40人でいえば0〜2人しかいないでしょう。もし彼らに合せて授業を進めていけば、公立中学の授業は完全に崩壊してしまうでしょう。なにしろ、35人のクラスで34人はついていけなくなってしまうのですから。
【公立中学でまあ上位の生徒さん】
英語教科書の「激ムズ化」で今一番苦労しているのは、「公立中学でまあ上位の生徒さんたち」ではないでしょうか。
いままで4か月(一学期全部)かけて学んだ内容を2か月で仕上げなくてはならないのです。以前の教科書では時間をかけてbe動詞と一般動詞について別々に学んでいきました。そして、少なくとも一年生の夏までは学校でのメインテーマでした。さらに通塾して入試までに何度も復習して学ぶはずでした。
ところが新しい教科書では、be動詞と一般動詞の同時並行学習を強いられ、かつ中学生一年生の4-5月で、さらっと終わってしまいます。加えて、助動詞canを使った疑問文の作り方も学ばなければなりません。追い打ちをかけるように、6月7月となると、疑問詞(what、whenなど)疑問文を作るという相当難しい応用課題まで1年生の1学期の短い期間のうちに完成させねばならないのです。
疑問詞疑問文などは、中1の最後の仕上げの段階でなんとか完成させるのが目標だったのです。いや、中学卒業までに出来ていれば、公立中学では相当に優秀な生徒さんだとさえ言えたのです。2026年の英語の授業計画は、なんと無謀な加速と圧縮をしているのでしょうか。
「まあ上位の生徒さん」のかなり多くの人は、英語の教科書は訳が分からないと悲鳴をあげていると思われます。
彼らは学力的にいえば、公立中学ならば成績で上位15~20%前後の順位、あるいは35人クラスで上から5~8番目くらいの成績でしょうか。なんとか頑張って準進学高(公立高校で偏差値60前後、私立で偏差値66前後か)を目指している生徒さんです。当塾の近辺で言えば、県立麻溝台高校、県立座間高校、都立成瀬高校、私立で言えば、日大三高や桐蔭学園を目指す生徒さんたちです。
将来的には是非とも日本大学や東洋大学のような「中堅大学」(←実は一般試験で合格するのは相当難しい大学です)に合格してもらいたいと我々が願う中学生たちです。(実際、シリウス英語個別指導塾の過去の生徒さんで、大妻多摩高校から東洋大学、県立麻溝台高校から日本大学に合格の実績があります)。
【公立中で中下位の生徒さん】
英語教科書の難化の直接的影響は、幸か不幸かあまり感じられないことが予測されます。いずれにせよ、大事な規則を理解することはできないのですから、「悲鳴」もあがってこないかもしれません。(しかし、我が国の戦後英語教育の闇であることも、強調しておきたいです。なにしろ半分以上の中学生が英語の基本的事項をみにつけられないのに、事実上、「英語教育」から放置されてきたのですから)
【上位、準上位の私立一貫校の生徒さん】
私立中高一貫校の場合ですが、上位または準上位の進学校(たとえば、栄光、浅野、サレジオなど)の生徒さんの場合、そもそも検定教科書を用いていません。大半は検定外教科書の『TREASURE』を使っているからです。しかしいずれにせよ、「Sと一つのV」「Vは二種類」といったごく基礎的な文法的な決まりの理解で苦労するる生徒さんは、ほとんどいないでしょう。上位校や準上位校の生徒さんが英語で落ちこぼれるのは、もう少し別の理由なのです。
しかし、検定・英語教科書の急速な難化は、日本の英語教育政策の一つの側面に過ぎません。彼らもまた英語の難化の影響を受けています。このことについては、「後編」で説明いたします。
【中堅、下位の私立・公立の中高一貫校の生徒さん】
「中堅の私立一貫校の生徒さん」の場合は、英語教科書難化の直撃を受けていると予想されます。下位の私学一貫校の生徒さんはもちろんのことですが、中堅私学の生徒さんの場合も、英語の最重要の「決まり」(=(i) 英語のセンテンスはSと一つのVからなる、(ii) Vは二種類ある)を習得出来ない生徒さんは少なくないでしょう。
実際、神奈川県の某マンモス中堅私立中高一貫校の中学2年生に英語教科書について尋ねたところ、「英語の教科書は別に難しくない」ということでしたが、実はbe動詞と一般動詞の判別が全くできていませんでした。幸か不幸か、英語の基礎が全然理解できていないのに、そのことについて自覚がなかったのです。
英語学習において、中堅と中堅未満の中高一貫校にはさらに別の問題が生じています。
(i)高校受験がないので、のんびりとぬるま湯の中で過ごしてしまう。
(ii)同級生の英語力も低いため、学校での英語の成績も悪くなく、自分の英語力の低さを自覚できない。
中高一貫校に所属しているということは、その生徒さんの実力が進学校に相応しい学力を持っているということを証明しません。しかし残念ながら、早慶や医学部を狙えるのではないかと「大きな勘違い」をしてしまう生徒さんが、少なからず存在するようです。
(続く)
後編の「予告」
ここまで、2026年版教科書がもたらすリアルな状況を記述説明してきました。学習環境の看板と実情が乖離するなかで、今まさに求められている対策とは何でしょうか。続く後編では、この「難化の正体」をさらに深掘りし、保護者や指導者が明日から取り組める、サバイバルのための具体的な学習指針を提案します。
「2026年中学英語教育の危機とは?---後編:国家エリートの冷徹な判断と我々のサバイバル戦略」(←クリック)をよろしくお願いします。
シリウス英語個別指導塾 by 東大式個別ゼミ
住所:神奈川県相模原市
南区東林間4-13-3
電話番号:042-749-2404
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