バーバラ・オークレー『学び方の学び方』(←クリック)という本
バーバラ・オークレー『Learn Like A Proーー学び方の学び方』という本があります。アメリカ発祥で世界中で評判になった「学び方」を教える本です。Amazonのレビューを見ると、絶賛する人もいれば、このぐらいの事は私はすでに知ってるよ、みたいな反応もあります。
確かにオークレー先生のこの本は、他の学習方法論の本(例えば、ブラウン、ダニエル他『使える脳の鍛え方』)などとも、非常に共通したアドバイスがあります。だから唯一無二のユニークな本だと言えないでしょう。しかし、中高生に個別指導で英語を教えているプロ講師の私には、実に素晴らしい本だと思いました。
ところで世の中には、学習方法論について書いてある本は何冊もあるはずだ。しかし、それらの本に書かれているテクニックは、学校を卒業してしまった大人向けのものばかりであるような気がします。そんな風に思うのは私だけでしょうか。
実は、この本のNew York Timesの書評(“Learning to Learn: You, Too, Can Rewire Your Brain“「学び方を学ぶーーあなたも自分の脳を再構築できる」) を読むと、オークレー先生(Dr. Oakley) のオンライン受講生も「25歳から44歳」なのです。だが、学習本というのは、毎日勉強に追われているはずの中高生にこそ是非とも伝授されてしかるべきでだという気がします。
私はすでに述べたように、中高生に個別指導で英語を教えていますから、中高生にこの学習法の考え方やテクニックを伝承できないものだろうかと思いながら、この本を読んでいます。また、中高生に学習法のテクニックが教えられることが、今まであまりなかったのは、何故なのだろうか、そんな問題意識をもって本を読むわけです。そして私は、昨年(2024年)の秋に購入した本書を、最初からしっかりと読んでみようと、今年(2025年)の6月に本棚から取り出しました。
本論に入る前に、一つ告白をしなくてならないことがあります。 実を言えば、本書で紹介されている学習テクニックを、当塾の中学生にやらせてみようと試してみたら、大失敗となったのです。 私が試してみたのは、本書の一番最初に掲載されている「ポモドーロ・テクニック」で、アマゾンの読者レビューでも非常に高く評価されている学習テクニックでした。 どのような方法論か。まずはイラストを見てもらいたい。その肝は、タイマーを一定時間(標準時間は25分間となっている)に設定し、その時間だけは目の前のタスクに集中してみよう、というものだ。長い時間集中しようとすると、どうしても気が散ったり滅入ったりするが、25分間くらいに分割してしまえば、取り組みやすくなるという発想に基づいています。本書によれば、「たいていの人は25分の間、集中力を持続できるものだ」となっている。告白:「テクニック」だけを中学生に伝授することは出来ない
私は、このテクニックを、怠け癖があり、宿題を毎回50-70%しかやらない中学生に活用しようと考えました。とはいえ、25分間も集中力を持続させるのは、おそらく彼には酷だろうと考え、タイマーを15分に設定し、その間だけは集中してみるようにと指示を出しました。するとその結果、彼は即退塾を選択しました。「あんなこと(=15分間わき目も振らず、集中して勉強すること)をやらされては、生きていけない」と不満をもらしていたらしいです。
それまでの彼は、宿題はテキトーにしかやらないが、通塾はほとんどサボることはなく、ダラダラとではあるが半年ほどは頑張れた、私立中堅中高一貫校の中学2年生でした。ところが、100%の集中力を求める「ポモドーロ・テクニック」となると、「耐えられない苦痛」であり、二度と通塾したくないと、完全に拒絶したのでした。
おそらくは、ポモドーロ・テクニックの集中時間を10分間に縮めたとしても、うまくいかなかったでしょう。私は、ポモドーロ・テクニックの限界を痛感させられました。いや、そればかりではなく、学習法のテクニックそれ自体を、安易に伝授できるものではないと考えるようになりました。 その出来事から半年ほど経ち、私は「オークレー 『学び方の学び方』」を再び本棚から手に取ってみた。すると、この本のいちばん最初の「はじめに」に、本書の使用条件が提示されて見えることに気が付きました。 明示的に書かれているわけではない。だが、「はじめに」をちょっと丁寧に深読みしてみると、実に重要な命題が潜んでいることに気付きました。つまり、学習方法論を活用するプロの学習者であるためには、2つの条件を満たさねばらなないということです。学習法を中高生たちに伝授しにくいのは、若い学習者たちは本書が突きつける条件をクリアーできないからではないのでしょうか。 では、どんな条件が求められているのか 1つは、「いつも良い成績を取りたいと思っていたのにもかかわらず、どんなに一生懸命勉強しても、うまくいかなかった」という「勉強法の悩み」を持っていること。いつも勉強しなくては!とは思うのだけれど、ついつい退屈して嫌になってしまう、あるいは眠くなってしまうといった「悩み」を持っていること。 もし、そういう悩みがない人であれば、この本の学習者の資格がないがないというわけです。 そんな悩みを持つのはは当たり前ではないかと考える大人はたくさんいるかも知れません。しかし、若い生徒に個別指導で英語を教えているプロ講師の立場からすると、勉強上の悩みが無いのは、あり得ることなのです。このことについては、別の機会に詳しく述べたいと思います。 もう一つは、「はじめに」では出てこない言葉ですが、「メタ認知」ができるか否かです。(「メタ認知」という用語は、74−75ページ、80ページ、および第10章263−278ページで説明されている)。 メタ認知とは、自分の学習の仕方について、客観的に批判的に認識する視点を持つことです。本書では、「脳の外にある脳」とも表現されています。自分の脳がどのような活動をしているのか、自分の脳から距離を取ってみ観察し評価してみるこをいみしているのでしょう。 そして、メタ認知をできない学習者であれば、本書が提示する学習方法論を適切に活かせないということになります。 まとめましょう。『学び方の学び方』のエッセンスを、読者が理解しわが物とするために求められているのは、次の二つの条件です。① 燃えるような学習意欲を持ち、実際に勉強したのに、成績が思うように向上せず、悩んでいること。②自分自身がどのように学習しているのかを、批判的に冷静に認識してみよう、つまりメタ認知してみようと言う境地に立てること。 学習法を中高生に伝授しにくい理由は、次のような仮説を設けることができるでしょう。勉強がはかどらない若い学習者たちは、なかなか2つの条件をクリアーできない、だから、中高生に学習法のテクニックを伝授しにくいのだ、と。 しかし、逆にこう考えてみることもできないでしょうか。学習法を身につけるために、もし2つ条件しかないのであれば、むしろそこから突破口がら開けてこないでしょうか。私は、オークリー『学び方の学び方』を、そういう問題提起の書としても読めるのではないかと考えた次第です。 このテーマについては、別の機会にさらに具体的に述べていこうと思います。そして、二つの条件が、個別指導の現場でどのような意味を持つのか、具体的な意味を説明していくつもりです。どうぞお楽しみに。『学び方の学び方』は条件を突きつけている
二つの条件:「悩み」を持つことと「メタ認知」を持つこと
中高生が学習法を学ぶためには
目次
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