東大英語”Nollywood”ー何が難しい(2)

query_builder 2024/05/28
東大英語
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『東大英語リーディング』への道ーー “Nollywood”を読む

はじめに『東大英語リーディング』(⇐クリックするとアマゾンに飛びます)とは、東大出版から出版されている東大教養課程の学生の読解テキストです。そのテキストの中でNollywood(=ナイジェリアの映画)について論じたエッセイを取り上げているのが、このブログです。


目次

0)はじめにーー『東大英語リーディング』は通過儀礼だ (⇐クリック)

1)”Nollywood”の難しさ(1)ーーrepresentations of the pastとは?(⇐クリック)

2)”Nollywood”の難しさ(2)occlusion of republicanismとは?[今回の記事]


主な論点

抽象語(hegemony, illegitimacy, representationなど)がどんな具体的現実を示唆しているのか分かり難い

従来の「常識」を覆す議論がさりげなく出てくる(Igbo society is direct democracy in action, republicanism and village democracy as political forms)

客観的な事実の羅列からなる歴史記述ではない


3)どのような方法で読んでいくのか

 

A

◎固有名詞について整理する(民族・人物一覧表、年表、地図作りなど)

◎キーワードへの注目

 

B
◎紙やアプリの辞典・事典(大辞典、文法書、百科事典等)の活用

◎オンラインの辞典(Wiktionary, OneLookなど)、百科事典(wikipediaなど) 、YouTube、ネット検索等を活用し、背景となる知識イメージや関連文献を調べる

◎生成AIを活用するーー概要、語彙・登場人物・地名リストなど、キーワードの質問

 

 

 

これは、前回のNollywoodー何が難しいのか(1)(⇐クリック)の続きです。前回は、次の文の(A)の箇所を扱いました。

 

 

As (A)representations of the Igbo past, the most surprising feature of the cultural epics is the complete (B)occlusion of republicanism and village democracy as political forms. In the Movies, there is always an igwe surrounded by a council of elders. Kingship was not unknown among the Igbos, but generally the Igbos did not have kings and did not want them.

 

今回は(B)の箇所 the complete occlusion of republicanism and village democracy as political forms を読んでいきます。



(B-1) occlusionの意味するものは?

<分かり難い理由>
抽象語の意味が分かりにくい 

②今までの常識を覆す概念が、さりげなく提示されている

客観的な事実の羅列からなる歴史記述ではない

 


まずはocclusionという単語が難しい。いくつかの辞書を調べると、「閉塞」「遮(さえぎ)ること」といった語義が英和辞典に載っています。よく分かりませんね。

 

こういう時は、英英辞典にあたってみるのが普通で、動詞形(occlude)を調べますと、“occlude something to cover or block something “ (Oxford Advanced Learners) とあります。残念ながら、この説明では役には立たないようです。

 


結局、「政体としての共和主義や村落民主主義を完全に閉め出すこと」とでも訳すしかないでしょう。しかし、具体的にどのような事態を論じているのか、非常にイメージしにくいはずです。しかし実を言えば、人類学や歴史学にある程度親しんでいる読者であれば、書き手が何を言わんとしているのか、容易に見当をつけられるのです。


 

歴史学者・人類学者として著名なエリック・ホブズボームという学者がいたのですが、彼の提起した the invention of tradition (「伝統の創造」「伝統の捏造」)という概念が大変重要です。つまり、「伝統」として一般に信じられているもの、実際には比較的最近になって、特定の目的(国民形成など)のために意図的に作り出されたものであるという考え方です。

例をあげると、スコットランドのタータンチェックやキルトは、古くからスコットランドに存在した民族衣装のように思われていますが、実際には18世紀以降に、軍隊や観光のために広められた要素が大きいとされています。


ナリウッド論の文脈でいえば、ナイジェリアのイボ人の伝統社会は、民主政・共和政だったはずなのに、ナリウッド映画の力によって、植民地以前は王政だったかのような常識が定着してしまう現象を指します。


(なおWikipediaの説明は、invented tradition (Wikipedia) (←クリック)を参照してください。


 

つまり、ホブズボームの読者ならば、


the complete occlusion of republicanism and village democracy as political forms



という箇所を読めば、「ははーん、『伝統の創造』のような事態があるのだな、と解釈できます。
 英文の意味を言葉を補って和訳してみれば、

 

 

「[現実にはかつて存在していた] 共和主義や村落主義という政治形態が、[ナリウッド映画の中では] 完全に無いことにされ、[植民地以前の伝統的イボ社会の国家は君主制であり、王様が統治していたことにされた]」

 

 

   [ ] の部分は私の加筆です。

 

 

 

 となるでしょう。

 

 

さて「伝統の創造(捏造)」という視点を得たならば、23−25行目(次の頁の最初の3行)にある次の文にある、“traditional rulers“の意味も容易に理解できるはずです。“traditional rulers“もまた、「創作された伝統(=王政)」の意味だと見当がつく訳です

 

 

Under successive structures of colonial and postcolonial governance, “traditional rulers” were certified or invented in order to play a mediating role between local communities and higher levels of government.

 


この部分を試訳してみると、次のようになります。

 

植民地時代およびポスト植民地時代の統治機構のもとでは、「伝統的統治者」が認定されたり創られたりした。彼らは、地域社会と政府上層部との媒介役(=かいらい役)を担ったのだ。

 

“traditional rulers”(「伝統的統治者」)のように“…”がついている理由は、イボ人の社会には、「伝統的統治者(=王様)」なるものは存在しなかったが、間接統治を企てるイギリス植民地政権の都合や、独立後の新興政権の都合によって、あたかも伝統的に存在した由緒正しい王様が存在したことにされたからです。全然伝統的ではないのに伝統を捏造しているので、“…”がついているという訳ですね。

 

ホブズボームのような議論を聞いたこともない、普通の東大1年生には、ちょっと難しいかもしれませんね。しかし、ホブズボームを知らないだけが原因ではないでしょう。

 

高校生まで、歴史学習とは客観的な事実の羅列を覚えることでした。異なる解釈はあるにしても、一つひとつの概念は、しっかりとした客観性を備えていました。しかし、大学生になると、単純な客観的事実が「在る」という訳にはいかなくなります。このテキストでも、文化的次元の事実(=映画や小説の中の話)と客観的事実が複雑に絡み合ってきます。

 

 

映画の中で存在している王と王国と、歴史上存在していた政治形態とが交錯してしまいます。それを英文で書かれると、しかもアフリカの諸事情に関することですから、ほとんどの学生は容易に混乱してしまうでしょう。(ちなみに伝統的なヨルバ人社会には王は存在していたと思われます)。

 

実は、さらに読者の混乱を誘う事柄があります。それは本書で言及されているイボ人の大作家アチェべの小説(Achebe, Things Fall Apart、翻訳は『崩れゆく絆』(光文社新訳文庫)ですが、この作品も明らかに representations of the Igbo past (イボ人の過去を描いた作品)なのですが、ここでは歴史的な客観的事実を記述するものとして引用されています。



客観的事実と政治的文化的次元での事実がごちゃごちゃして、丁寧に整理して読まないと、読者はかなり混乱しそうですね。塾や予備校の講師であれば、客観的事実と政治的文化的事実とを色分けしましょうと提案するかもしれません。しかし、このテキストには、そういう指示はありません。また、おそらく東大の英語の講師先生たちも、そこまで親切ではないことが予想されます。大学一年生は、自らの手で切り開く力が求められているのです。

 

 

 

(Bー2)republicanism and village democracyとは?

 

<分かり難い理由>
②今までの常識を覆す概念が、さりげなく提示されている

 

the complete occlusion of republicanism and village democracy as political formsのrepublicanism and village democracyの後半部に注目してみます。

 

 

もう一つのちょっと驚くべき話題が、さりげなく言及されていたことに、気が付いたでしょか。republicanism and village democracy、すなわち、植民地以前のアフリカに、共和主義と村落民主主義があったというのです。

 

 

従来の旧い常識では、共和主義や民主主義のような政治形態は、古代ギリシャに由来するか、近代化に伴ってもたらされるものでした。ところがこの英文によると、植民地以前のアフリカのイボ社会においても、共和主義と村落民主主義であったというのです。つまり、これまで私たちが慣れ親しんできた民主主義や共和主義の「常識」とは異なり、前近代・前植民地時代のイボ社会に存在していたというのです。

 

この東大生向けの教科書に、もう少し詳しい注釈があればなあと、とても残念に思います。しっかりとした指導者がいる教室であれば、植民地以前のアフリカの共和主義と民主主義について、調べもの学習が始まっているかもしれませんが、ちょっと不親切です。従来の西欧中心主義的な民主主義、あるいは文明観を突き崩すラディカルな議論なのでしょうから。

 


ネット検索してみますと、この英文の話題とぴったりの本が、昨年(2023年)にみすず書房から出版されていることが分かりました。なにしろ、植民地以前のイボ社会をEarly Democracy (初期民主主義)として取り上げているのですから。 

 

デイヴィッド・スタサヴェージ『民主主義の人類史』(みすず書房、2023年)(←クリック)

 

です。原題は、David Stasavage, The Decline and Rise of Democracy: A Global History from Antiquity to Today, 2020 (⇐クリック)です。

 

 

本書の紹介文を引用します。

 

In the book, Stasavage argues that democracy has been more common throughout history than is often assumed, and he provides examples of democratic practices in various ancient and pre-modern societies around the world, including in Africa.

 

 

Specifically, he discusses the political systems of the Igbo people in present-day Nigeria and the Tswana people in present-day Botswana. He argues that these societies had elements of democracy, such as checks on leaders’ power and forms of popular participation in decision-making.

 

 

全訳はしませんが、簡単にまとめると、



 「初期デモクラシーは、古代アテネ以外にも世界中に広範に存在した。特にイボ人社会には民主主義の要素があり、権力に対するチェック・アンド・バランスがあったり、意思決定にあたって参加民主主義の仕組みがあった。」


なるほどと思います。ノリウッド映画論にあるさりげない語句でしたが、人類史な視野を持つ民主主義論にもつながっていたようです。『東大英語リーディング』は大変奥が深いことを実感させられます。

 

今回はこれまでです。『東大英語リーディング』の読解の難しさを少しでも伝える事ができたでしょうか。次回は、Nollywoodのような難解な英文をどうやって読み解けばよいのか、その方法について考えます。

 

 

 

 (2025年5月19日に修正)

 

 

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