### 1. 導入:生成AIは「受験英語の最高峰」を攻略できたのか
2026年1月、共通テストが終わり、受験生がいよいよ二次試験に向けてラストスパートをかける時期がやってきました。
当塾が近年注目してきたテーマがあります。それは**「生成AIは、東大入試の英語要約問題を完璧に解けるのか?」**という問いです。
東大の要約問題は、単なる英語長文読解力ではなく、文脈の裏にある「意図」や「皮肉」を読み取れるのか、そして、非常に短い「字数制限」で、簡潔にまとめあげることができるのかという、まさに人間知性の試金石となっているからです。
かつて2024年3月の調査では、当時の最高峰AI(ChatGPT-4。なお2026年1月現在、最新モデルはGPT-5.2となっています)をもってしても、また他の生成AIにしても、いくつかの「致命的な壁」に突き当たりました。それから2年経ちました。2026年1月現在の最新モデルである**Gemini-3(思考モード)**は、どこまで進化したのでしょうか。
「AIに使われるのではなく、AIを使いこなす人間を育てる」という当塾の理念のもと、その実力を徹底検証します。
### 2. 2024年3月の回顧。生成AIが敗北した「2つの壁」
まずは、2年前(2024年3月時点)の調査結果を振り返っておきましょう。当時の生成AIには、大きく分けて2つの欠陥がありました。
**「字数カウント」の致命的な弱さ**
東大の要約は「70〜80字以内」という非常にタイトな制約が課されます。しかし、当時の生成AIは、自分が書き出した文章の文字数を正確に把握できず、常に字数オーバーをしてしまいました。無理に字数を削らせると、今度は大事な論点を切り捨てて字数不足になってしまいました。
**「皮肉」と「文章の転換」への鈍感さ**
文章の表面的な意味は追えても、書き手が込めた「皮肉(アイロニー)」や、起承転結的な話の展開における「転」の部分を読み飛ばす傾向がありました。結果として、急進的リベラリスト(絶対自由主義者)の主張を保守系の議論と取り違えるといった、読解上のミスを犯していたのです。
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### 3. 検証①(基礎編):2020年東大英語「高齢者に優しい町づくりの失敗」の論理展開を読み解く
最初の検証は、2020年の東大の英語要約問題問です。元の英文は、「高齢者に優しい(age-friendly)」町づくり運動を展開するにあたって「理論と実践のギャップ」が生じてしまい、結果的にうまくいかなかった経緯を述べ、そこから新たな知見が生まれきた話です。この英文をどのように簡潔に要約したらよいのか。
#### 2024年のAI(ChatGPT-4)の限界
当時の生成AI(ChatGPT-4 Plus)に字数制限を守らせようとすると、以下のような要約を出しました。
> 「多世代が共生する高齢者に優しい町作り運動では、若者からのフィードバックも集め、全ての年代が快適に暮らせる環境が求められています」(64字)
一見まとまっているようですが、この文章のエッセンスとでも言うべき要素が抜け落ちて、詰まらないスローガンになり果てました。
理論上は「老人に優しい町づくりには、全世代の視点を取り入れること」が大事だと論じながら、実際の実践では、「全世代のためになるということは、要するに、高齢者の視点を取り込めばよいのだ」という独善的な思い込みに陥り、運動が挫折していく訳です。
この**「理論と実践の間に生じた決定的な乖離(かいり)」**こそ、東大が読み取らせたかった物語の骨組みです。このプロセスを省略した要約は、単なる事象の羅列に過ぎず、筆者の意図を伝えたことにはなりません。
詳細解説 (ここから先は少し専門的な解説になります)
東大2020年の要約問題(高齢者に優しい町づくり)
1(A)以下の英文は、高齢者にやさしい(age-friendly)町づくりを促進するための世界的な取り組みについて論じたものである。この文章の内容を70~80字の日本語で要約せよ。句読点も字数に含める。
① The age-friendly community movement has emerged as a powerful response to the rapidly growing aging population. Although definitions of “age-friendly community” vary…(中略)highlight the importance of strengthening social ties and promote a vision that takes into account all ages. (中略)
②(省略)
➂In practice, however, the age-friendly community movement has focused primarily upon the needs and interests of older adultsand their caregivers and service providers. In doing so, it has failed to gather enough data from youthand families…(中略)
④What accounts for this gap between vision and practice? One answer may lie in the common assumption of the age-friendly community movement that what is good for older adults is good for everyone. (中略) These studies suggest that in order to fully understand what constitutes a city that is friendly to people at different stages of the aging process, it is critical to gather data from multiple generations about what makes a city good for both growing up and growing older.
なお、要約問題の英語全文をお読みになりたい方は、当塾の以前のブログ記事をクリックしてください。「2020年東京大学英語第一問(A)」(←クリック)
段落別構成の説明
①・②:理論的には、「高齢者にやさしい(age-friendly)」町作りとは、老いも若きも全世代の視点を大事にすることだと提案された。
③:現実の実践では、全世代の視点を取り入れるというのは、老人の利害を大事にすることだよね、と解釈された。だが、若い人の観点を配慮出来ていないので、運動は失敗した。
④ 老人に優しいと、全世代にも優しくなるのだというという思い込みに、問題があった。
### 2026年1月:Gemini-3(思考モード)が2020年東大英語要約問題を解く
同じ問題に対し、最新のGemini-3(思考モード)は自ら思考プロセスを経て、以下の解答を提示しました。
**Gemini-3(思考モード)の解答:**
町づくりでは全世代の共生が理想とされるが、実態は高齢者重視に留まる。真の実現には、多世代への調査を通じて世代間のニーズの差異を把握し反映させることが不可欠だ。(79文字)
#### 【講師の視点】ここが劇的に進化した!
検証結果は一目瞭然です。
1. **完璧な字数コントロール:** 制限ギリギリの79文字に収めてきました。
2. **文章展開の把握:** 理論(老人に優しくは、全世代に優しくあるべきだ)」→「実践におけるバイアス(全世代に優しくとは、要するに、老人に優しくすれば良いんだよね)」→「解決策(老人の視点に偏ればうまくいかなかったので、やはり全世代の意見を集めよう)」という、文章展開の趣旨をうまく汲み取っています。
2020年の問題(基本編)に関しては、**「最新AIのGemini-3(思考モード)は一応の合格点に到達した**と言ってよいでしょう。
###4. 検証②(応用編):2024年東大英語「PR、プロパガンダ、民主主義」ーー最新AIは、英文中の「皮肉」を見抜けるか?
2026年のGemini-3(思考モード)は、字数制限という「形式の壁」を突破しました。しかし、真の勝負はその先にあります。文章の裏に隠された**「皮肉(アイロニー)」や「反語」**を見抜けるかどうかです。
結論:2026年1月最新生成AI(Gemini-3(思考モード))の性能
★Gemini-3(思考モード)の初答でも やや誤読していました。文章中の「皮肉」をあまりよく理解できていなかったのです。
★ただし その誤読は、赤本(教学社)や駿台予備校といった「受験のプロ」たちが間違えてしまったくらいの超難問でした。
★私が「ある一言」を投げかけた瞬間、AIは自らのミスに気づき、完璧な解答へと辿り着きました。
詳細解説
まずは、2024年の東大英語の要約文の問題を提示しておきます。ただし、本文中のアンダーラインや①から④の数字は、私が付けたものです。今回も全文は引用はいたしませんが、全文をお読みしたい方は、リンクを後ろに貼っておきます。
以下の英文を読み、 その内容を70~80字の日本語で要約せよ。 句読点も 字数に含める。
① There is no doubt that one of the major issues of contemporary U.S. history is corporate propaganda.(中略) ② Its goal from the very beginning, perfectly openly and consciously, was to “control the public mind,” (中略) ③ The leading figure of the public relations industry is a highly regarded liberal, Edward Bernays. (中略)His book is called Propaganda. ④ Bernays’s Propaganda opens by pointing out that the conscious manipulation of the organized habits and opinions of the masses is the central feature of a democratic society. (中略) ⑤ (注略) the term propaganda was used, quite openly and freely. Its image got pretty bad during the war because of Hitler, so the term was dropped.(中略)
なお、要約問題の英語全文をお読みになりたい方は、このブログ記事の最後に画像をアップしておきます。
2024年東大英文要約問題:読解上の焦点
2024年の東大入試の英文要約の文章に関しては、すでに何回も当ブログで論じてきましたので、ここでは改めて詳しく解説する必要はないとは思います。しかし一つだけ「皮肉」に関連して、簡単な復習=説明をしておきたいと思います。
議論のポイントとなるのは、アンダーラインの箇所”the conscious manipulation of the organized habits and opinions of the masses is the central feature of a democratic society” (「大衆の習慣や考えを意図的にコントロールすることこそが、民主主義社会の根幹をなす特徴である」)をどう解釈するかです。
東大入試の時間的に切迫した状況において、この問いに答えるのは非常に厳しい。しかし、政治的メッセージの込められた文章を要約するならば、書き手が権威主義者か、それともあるいはリベラリストなのか、要約者は判定して提示しなければならないでしょう。なにしろ、文意が劇的に変わってしまうのですから
| 書き手の正体は? | どちらのメッセージか? |
| 権威主義者(権威主義的民主主義論) | 「プロパガンダは民主主義に必要だ」と肯定している |
| リベラリスト (皮肉的に論じている) | 「彼らは民主主義と称しているが、プロパガンダで大衆を操っているにすぎない」と批判的に捉えている。 |
結論的に言えば、さまざまな証拠から、英文のメッセージはリベラルな意図があり、バーネイズの主張(「プロパガンダは民主主義の本質的特徴である」)は、「皮肉」の対象として取り上げているに過ぎません。
実は、英文の書き手は、ノーム・チョムスキーであることも判明しています。彼は20世紀後半から現代に至るまで天才中の天才学者(言語学)であり、同時にアメリカを代表する左翼的あるいはアナキスト的自由主義の知識人でもあります。後者の彼の著作から照らし合わせれば、プロパガンダや大衆の意識操作などを認めるずがないのです。
各社の模範解答との比較
ここで、2024年当時のAIと、受験界の権威たちの解答を振り返ってみましょう。
赤本(教学社)
プロパガンダは暴力に代わる大衆心理操作の手段であり、民主主義の本質的特徴である。第二次大戦中のイメージの悪化で、現在は呼び名を変えて世界中に広まっている。(70~80字)
駿台
企業のプロパガンダは暴力に頼らない大衆心理の操作を目的としており、民主主義の本質的特性だが、この用語自体は第二次大戦中の悪印象のため、現在は使われていない。(78字)
これらは、書き手(チョムスキー)の意図を180度読み違えた「最悪の誤読」と言わざるを得ません。なにしろ、プロパガンダが民主主義の本質的要素だと記されてしまっているのですから。まるでチョムスキーが、権威主義的保守主義者みたいではないですか。
**駿台や赤本も間違えた、2024年の東大の英文要約の超難問の「皮肉」に立ち向かうGemini−3(2026年1月)。こちらの「一言」が生成AIを覚醒させる**
*最初のGemini−3(思考モード)解答(東大2024年英語要約問題)
米国で暴力による抑圧に代わり企業の宣伝による大衆心理の操作が発達した。これを民主主義の核心と論ずる者もいたが既存の権力構造を維持する手段として機能している。(79字)
**英語講師の評価と、生成AIとの対話**
まずは「最初のGemini‐3(思考モード)の解答」から見ていきましょう。率直に言ってこれも、なかなか悪くない案です。実際の入学試験ならば、これくらい書くことが出来れば、かなりの高得点を期待できます。
しかし、アンダーラインの部分「これを民主主義の核心と論ずる者もいたが」と曖昧な表現が使われています。これでは、元の文の書き手は、その論者(=バーネイズ、権威主義的民主主義論)に賛成なのか反対なのか、はっきりしません。そこで私は、そこで次のような質問を生成AIにしてみたのです。
私:「この文章の書き手は、企業の宣伝による大衆心理の操作を、民主主義の核心と信じているでしょうか」
すると、Gemini-3(思考モード)は次のように即答しました。
Gemini-3(思考モード):「いいえ、この文章の書き手自身は、それを民主主義の核心だとは信じていません。(中略)前の要約にあった「~とされる」という受け身の表現では、それが「一般的な真理」なのか「バーネイズ(PR産業)の主張」なのかが曖昧になり、書き手自身がそれを肯定しているような誤解を与えてしまいます。(中略)この「書き手の批判的な視点」と「バーネイズの主張の引用」を明確に区別し、主体をはっきりさせた修正案を提示します」。
こうして生まれたのが、以下のほぼパーフェクトな解答です。
米国では暴力に代わる統制手段として企業による大衆操作が発達した。PR産業はこれを民主主義の核心と説くが、実際は既存の権力構造を維持する装置として機能している。(79字)
**Gemini-3修正版への講評
この要約文を読むと、「大衆操作は民主主義の核心だ」という思想は、PR産業の側の考え方なのであり、書き手の思想ではないことが明らかになっています。ついで、「実際は」という逆説のつなぎ言葉を用いながら、PR産業の主張は虚偽であると示しています。
これだけの内容を79字ギリギリの字数で収めるのは、人間の解答者では至難の技ですね。「プロパガンダ」という字数の多い単語を使わなかったのも、適切な判断だったでしょう。
生成AI(Gemini−3)は、適切な「ツッコミ」さえあれば、人間以上の要約文作成能力を身につけたとも言えます。
***5.結論:生成AIにどのような問いかけをすれば、生産的な要約文を産出してくれるのか
生成AIに要約文の作成を「丸投げ」すれば、間違えてしまうかもしれません。今回の例でいえば、左翼的あるいはリベラル的文献を、右翼的あるいは権威主義的と解釈してしまうかもしれません。
しかし、要約文をしっかりと読み込む力がある人間が、「ナビゲーター」として伴走し、適切な問いかけを投げかければ、人間だけでは到達できない精度に辿り着ける可能性があるようです。
ではいったい生成AIにどのような「問いかけ」や「プロンプト」を、我々はしてやれば良いのでしょうか。残念ながら、どこにでも通用する便利で万能なプロンプト術のようなものは、存在しないでしょう。
だって考えてみてください。今回の課題は「皮肉」を読み取れるか、あるいは政治的メッセージは権威主義なのかリベラルなのかを察することでしたが、実際にはどのような課題が潜んでいるのか、我々には想像できないのですから。
今回の場合に求められていた我々の応答能力は、「企業の宣伝による大衆心理の操作が発達した。これを民主主義の核心」だとする要約文について、「え、どういう意味?これは反民主主義派のパンフレットなの?」と即座に反応し、Gemini-3(思考モード)にその意味を問いかける力、これがまさに最重要ポイントでした。おそらく求められているのは、幅広い教養を含む文脈を読み取る力なのでしょう。それを養うことを怠ると、駿台や赤本の「模範解答」のような勘違いをしでかしてしまうのです。
現代人に求められているのは、このような「AIを使いこなす力ではないでしょうか。当塾では、AIに使われるのではなく、AIの出力に疑問をもつことができる、 本質的な読解力と教養力を養うことを目標としていきたいと思います。
<付録> 2024年の東大英語、1(A)、要約問題
シリウス英語個別指導塾 by 東大式個別ゼミ
住所:神奈川県相模原市
南区東林間4-13-3
電話番号:042-749-2404
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