
英検準一級で求められるライティング
英検準一級のライティング部門は自由英作文ですが、難しい技巧は必要ありません。旧検定教科書(=2020年以前の教科書。現行教科書よりかなり易しい)の中学2年生レベルをしっかりと書けるならば、90%以上の高得点をとれるはずです。
なぜそんなことが可能なのか。実は英検の自由英作文(English Composition)では、いつも同じ形式の英文を書くことだけが求められるからです。まずはある命題が提示されますから、それに対して YesかNoかの立場をはっきり提示し、ついでその理由を挙げる、そしてもう少し具体的に肉付けする。そういう英文さえ書ければ良いのです。
たとえば、2021年度第3回の英検準一級の試験では、
“Should people use goods that are made from animals?”
(人間は動物から作られた製品を使うのを止めるべきか)
という命題が提示されました。これに対して受検者がYesの立場を取るならば、まずその旨を明示します。ついで設問のヒントにある“Animal rights””endangered species”([動物の権利]「絶滅危惧種」)という観点を用いて、Yesの理由を説明し、まとめます。あるいはNoの立場を取るならば、同様にまずは自分の立場を最初に明らかにし、ついで“Product quality”, “Tradition“ (「製品の質」「伝統」)といったポイントを利用して自分の意見の正当性を論じ、まとめることになります。
以上のような意見文の形式を学ぶのに、中学2年生用の旧検定教科書『New Horizon2』(2017年)は非常に有益です。写真は、この教科書の終わりの方にある”Let’s Read 3: Cooking with the Sun”の119頁です。これを詳しく解説していきましょう。
写真の英文を取り出し、最初から番号を打つと以下のようになります。
① A solar cooker is helpful to people in developing countries.
(太陽光調理器は開発途上国の人々にとって役に立つものである)
②Why? (なぜか)。
③ First, making a solar cooker does not cost much. ④ You can make one with only cardboard and aluminum foil.
⑤ Second, people in developing countries can get cleaner water by boiling it with a solar cooker. ⑥Drinking water from rivers and lakes is one of the biggest causes of disease.
⑦ Third, a solar cooker is safe because it does not make smoke. ⑧More than one third of the people in the world burn firewood indoors to cook. ⑨A lot of children die from its smoke.
①②でまず問題提起し(太陽光調理器は開発途上国でなぜ役立つのか)、太陽光調理器の利点として3点を挙げる形式で文を展開しています。それぞれFirst (③④)、Second(⑤⑥)、Third(⑦⑧⑨)という単語を、それぞれ文頭に置いています。
まずは③④のパラグラフから見てみましょう。文頭でFirst(一番目に)と記してありますが、これは第一の理由を述べることを予告します。そしてその後すぐに、 making a solar cooker does not cost much(制作費用が高くない)と理由を提示しています。このとき重要なのは、Firstと書いた後で④→③の順番で並べてはいけないということです。Why(何故か?)という問いに対してFirstと書いたからには、何が何でも端的に一番目の理由を書くのが英語の約束事だからです。
ついで⑤⑥のパラグラフを見てみます。⑤ではSecond(二番目に)と文を始め、“get cleaner water”(よりきれいな水を得る事が出来る)と、「なぜ?」の理由が端的に示されます。そして、その後の”by boiling it with a solar cooker”を読むと、「あ、そうか、太陽光調理器で生水を煮沸消毒できるからなんだね」と理解できます。さらに⑥では、開発途上国の飲料水事情にはかなり多くの悩みがあること、つまり上水道が整備されておらず、水質汚染のために病気になることが多いらしいこと、したがって「きれいな水」を入手する手段が痛切に求められているのだという背景が説明されています。
以下、同じように説明を続ける事が出来るわけです。ところで私の説明について、どのような感想を持ちますでしょうか。おそらく多くの方は、英文はとてもシンプルなのに、日本語の説明がぐちゃぐちゃして、ちょっと読むのが面倒くさいな~と思われたのではないでしょうか(笑)。しかしそれには実は理由があります。こういうシンプルな英文ではありますが、大半の日本人高校生にとって、このような英文を書くことは非常に困難だからです。難しいのは一つひとつ英語の表現を文法的・語法的に正確にすることより、英文を正しい順番で並べることなのです。もう少し説明しましょう。
ここで日本人の高校生に、「太陽熱調理器の有用性の理由」を説明する英文を書いてくださいという課題を出したとします。私たちの経験から多くの高校生は、以下のように発想します。
開発途上国というのは、日本とは異なって上水道が整備されていないらしい。井戸水とか場合によっては雨水や川の水を使うらしい。だから水が汚いので、赤ちゃんとかが毎年沢山死んだり、病気になる人が多いらしい。しかし、そういった水も、煮沸消毒すればきれいな飲水になるらしい。だから、太陽光調理器があれば、電気やガスがない場所であっても、汚い川の水をきれいに出来るので、とても便利なのだ。
大筋として正しい議論ですね。上記の議論の流れは次のようになります。
開発途上国の水事情(A)→水の煮沸消毒の必要性(B)→太陽光調理器の利点(C)
多くの日本人高校生は、(A)→(B)→(C)という思考の順番をそのまま英文に反映させようとします。(しかし、これでは絶対に論理的で筋の通った文にはなりません。
試しに上記の思考の順番で英文を書いてみましょう。(多くの高校生がたどるよくない英文例です。)
A solar cooker is helpful to people in developing countries.
(太陽光調理器は開発途上国の人々にとって役に立つものである)
Why? (なぜか)。
First, I hear that many people in developing countries have to drink water from lakes and rivers. It is so dirty that many babies die and many people get sick every year . That is why boiling water is very important.
(高校生が書きがちな英文例。)
この英文では、「開発途上国で太陽光調理器が役立つのは何故か?」の理由を述べる時に、「最初の理由は」という意味で First と始めています。ここまではOKです。問題は、その直後に(A)である「開発途上国の水事情が良くない」と書いてしまっています。これでは、文と文との間に決定的な脱線と飛躍が起きてしまいます。つまり、「太陽光調理器の利点をこれから語りますよ、第一の理由は○○○」と語り出したにもかかわらず、太陽光調理器の利点ではなくて開発途上国の諸事情=背景を語ってしまうことになるからです。
First(第一に)とか、because (○○○だから)と書き始めたら、何が何でもまずは理由を書かなければらないのです。この場合では、太陽光調理器の利点を語らなければならないのです。
『New Horiozn2』に戻れば、Firstと書き始めたら、④→③と書いてはいけない。つまり、「(④)太陽光調理器はダンボール紙とアルミホイルで作れます。(③)だから費用があまりかかりません」という順番で英文をかいてはいけないのです。同様に、⑥→⑤と書いてもいけない。つまり、「(⑥)途上国の病気の原因は、川や湖の水を飲むことから生じている。(⑤)だから、そういう生水を太陽光調理器を用いて煮沸消毒し、きれいな水を飲めるようにすることは、とても大事なことなのだ」としてもいけません。
具体的にはどういう風に書けばよいのか。たとえ、(途上国の水事情)(A)→(煮沸消毒の必要性)(B)→(電気ガスなしに加熱できる太陽光調理器)(C)という順番で思考したとしても、それを英文で書いて表現するときには、(A)→(B)→(C)を、(C)→(B)→(A)と並び替えなければなりません。それは(C)こそが理由の部分であり、また太陽光調理器の話題を継承しているからです。
とはいっても、多くの高校生は、日本語に典型的な議論の進め方(A→B→C)から自由になるのはかなり困難です。ほとんどの場合、どうしても背景事情から説明したくなり、結果的に文章が飛躍してしまうのです。そして、becauseのような言葉の意味だとか、文と文との間に自然な流れといったことを意識化するのが苦手です。以上のような問題点を克服するためにも、是非とも中学2年生の英語の教科書をよく味わって、読み直してもらいたいのです。なお、このテーマ(日本語的な議論のススメ方から自由になる)については、添削事例を通じてさらに紹介・説明していく予定があります。