入試で出題される現代英語を読むためには、教養が不可欠です。教養があるとは、ある程度広範囲の語彙を持っている事だと定義しても良いでしょう。
つまり、現代を理解するのに必要な語彙を持っていないと、英文を読めないのです。
実は、たったのワン・センテンスを読むのでさえ、教養力が大きく作用してきます。教養があれば読めるが、無いと読めない文があります。あるいは、一つの文だけで、教養の有無を判定できてしまいます。
当塾(シリウス英語個別指導塾)の塾生に対し、次のような教養力テストの質問をしてみました。
(1)”The world is getting smaller and smaller”(「世界はますます小さくなっていく」)とは、どういう意味なのか。 [(注)英文和訳を求めているのではありません]
(2)”animal kingdom”や”plant kingdom”という言葉があるが、どういう意味か想像してみよ。(大阪大学2022年の問題より)
ウチの高校生の正答率は、どの程度だったと思いますか。
中堅進学校から一流進学校の生徒さんがいますが、新高1は全滅でした。どちらの問題も、全く解答出来なかったのです。「世界は小さくなった」というフレーズはよく聞くのですが、「小さくなる」とはどのような現象を指すのか説明出来なかったのです。
しかし、新高校2・3年生は、ちょっと違いました。中堅進学校の文系志望の生徒さんたちでしたが、(1)の意味を答え、その意味を説明することが出来ました。文系の受験生が文系的な話題を知っているのは、ちょっと安心です。
一方、理系受験生はですが、(2)の意味を適切に推測してくれました。理系受験生は、文系的問題は出来なかったかもしれませんが、理系的問題ならば、見事に正確な推測をすることが出来たのでした。もちろん、kingdomの意味を習ったことはないはずです。
事例はごく限られたものですが、高校生として1-2年間でもそれなりに教養を積んだ結果、背景知識を必要とする英文の意味を推測できるようになったと言っても良いのではないでしょうか。
最後に、二つの問いについて、簡潔に見てみます。
(1)”The world is getting smaller and smaller”(「世界はますます小さくなっていく」)は、交通機関とコミュニケーションの発達、さらには近年のインターネットなどの登場により、世界の諸地域・国家がより緊密に結びつくようになったことを示す、一種の決まり文句です。近年では、グローバル化を論じる際の枕詞的フレーズとなっています。
ある程度の教養がある生徒であれば、何を論じようとしているのか瞬時に理解できるはずです。
(2)“animal kingdom”や”plant kingdom”は、実際に大阪大学の和訳問題で出題された箇所からの出題です。英語的には少々難しいですが、阪大の受験生は、animal kingdomとplant kingdomを訳出しなければなりません。
kingdomとは、animal(動物)とplant(植物)という広範囲な事物と結びつく、非常に抽象的な名詞でなければなりません。それは一体何を指しているのか、考えてみる必要がありますね。
実は、自然の分類法に関わる「界」という意味なのです。animal kingdomは「動物界」、plant kingdomは「植物界」となります。古典的な学説として、生物を大きく動物と植物との二つに分けるられるのですが、このときにkingdomという言葉を使うという訳です。
少し難しいですね。
文系受験生と新高1生は、「サファリかな?」と答えました。アフリカのサファリ・パークは、「動物の王国」というタイトルでテレビ番組化されますからね、気持ちは分からなくはありません。しかし、動物は世界中に存在するものであり、アフリカの草原に限定される概念ではありません。また、植物は地球のほとんどどこにも存在する訳ですから、サファリ地帯では、不味いですね。残念ながら、ちょっと短絡的な解答でした。
教養力を身につけるには、どうしたら良いのか。高校生には是非とも新書本をどんどん読んでもらいたい。とくに、国立難関大(東大、一橋大)や早慶上位学部(早大政経学部、法学部、慶應大経済学部、法学部)の場合には、そのことを強く訴えたい。
しかし、何か数冊を推薦するとなると、大変難しいですね。当塾ではとりあえず、『朝日中高生新聞』を読むことから始めてくださいと、面接時に皆さんに申し上げています。『中高生新聞』といっても、1週間に一回発行される週刊誌ですから、手軽に読むことが出来ますので、ご安心ください。
大学入試レベルならば、中高生新聞を読むだけで、英語、国語、社会(とくに地理など)等で、大きく得をするに違いありません。
そして、それ以上となると、何が良いでしょうか。いつもは新書本を読めと言っていますが、具体的なタイトルを挙げないと、不親切かもしれませんね。
大いに迷いますが、文系に興味があるのであれば、三省堂大図鑑シリーズはどうでしょうか。経済学、経営学、政治学、哲学、世界文学、宗教学、心理学、世界史、社会学、西洋音楽史等があり、大学での専攻を決めるのに役立つので、お勧めしましょう。調べてみたところ、相模原市、町田市、横浜市、川崎市、大和市等の公立図書館で、読んだり借りたりできるようです。
理系では、Newtonの大図鑑シリーズが実に充実しているようです。生物、太陽系、地球、数学、化学、鉱物、AI,人類学等々。多すぎて数え切れません。もちろん、ほとんどの市の図書館で読むことが出来ます。機会がありましたら、『AI大図鑑』や『人類学大図鑑』のレポートもしたいです。
今日はこれまで。
せっかく名門の中高一貫校に合格出来たのに、英語で伸び悩んでしまう生徒さんというのは、残念ながら非常に多いですね。しかし、英語が出来ないと言っても、幾つかのタイプに分かれているように見えます。ここでは、そのうちの主要タイプである(1)怠け者タイプ、(2)言語への無関心タイプの二つに分けて、感想を述べておきたい。
名門一貫校の英語落ちこぼれタイプの圧倒的多数派は、怠け者タイプでしょう。要するに、英語は退屈で覚えなくてはいけないし、面倒臭いので、やりたくないのでしょう。
私見では、どうもこのタイプのお子さんの場合、お父さんにその原因の一つがあるような気がします。つまり、例えば、子供に対して非常に甘いとか、あるいは、子供の教育に無関心でお母様に丸投げしているのではないでしょうか。このことについて、責任をもって断定はできません。あくまで、単なる個人の一つの感想に過ぎません。
名門校の生徒さんで、それなりに英文法を学んだのに、そして英単語の意味も説明しているのに、まとまった意味のある英文をさっぱり読めなかったり、頭に入ってこないというタイプの生徒さんがいます。
もちろんそういうタイプの人は、英語力向上で伸び悩むことになります。
ちょっと不思議な症候群です。英文の意味を文法的に解読できないとか、和訳できないとかいうのとは、少々異なります。日本語であれ、英語であれ、文章をよく読めない。あるいは文章に限らず、映画や漫画などの作品をあまり読めないタイプがいるのです。
この生徒たちの特徴を列挙すると、次のようになります。
これらの生徒さんたちも、試験というゲームとして文を読むならば、答えを探す事はある程度は出来るようです。しかし、本当に文を理解していると言えるのかどうか不明です。
こういうタイプの生徒さんについて、断定的な事は書けないのですが、それでも推論を小中学生時代に大きな原因があるように思われて仕方ありません。つまり、読書習慣を持たないうちに、中学受験勉強の特訓を始めたために、文章や物語を読む喜び楽しみを知らないし、興味も持てなくなってしまったのではないか。
ところで、ある塾の先生の説(水島 醉『「受験国語」害悪論』)によるならば、中学受験国語の勉強の中には、文章読解の習慣を身に着けるのに悪影響を与える性質のものがあるのだそうです。つまり、与えられた問題(「それ」はなにを指すか抜き出しなさい)に答えるために、本文中から答えの箇所を探し出すゲームに熱中してしまうと、文章読解から得られる本来の楽しさを、子供たちが見失ってしまうようになるのだそうです。私は中学受験国語に詳しくはありませんが、十分に有りうることでしょう。
まとめましょう。中学受験のための国語(日本語)の勉強をした子供たちの中には、おそらくその受験勉強のために、本来の人間の生活様式を著しく痛めてしまい、本来の文化的遺産の享受をできないようになっている人たちがいると、水島さんは言いたいし、告発したいのでしょう。そして、我々が直面している、英語の文章が読めなくなっている生徒さんと、かなり共通点があるように思われるのです。
どのようにすれば、彼ら・彼女らを救済できるのか。このテーマについては、改めて論じる予定です。