以前、受験生に対して安易に大矢復『大学入試英作文ハイパートレーニング 自由英作文編』(以下、『ハイパー自由英作文』略します)を薦めてはいけない。もし相手が誰であろうとお構いなしに、『ハイパー自由英作文』をやりなさいと薦めてしまう人がいたら、学習アドバイザーとしては失格だと書きました。
『ハイパー自由英作文』をやれば良いじゃないですかと気軽にアドバイスしてしまう人は、基本的に独りよがりで、個々の受験生が抱える問題を理解出来ていないようですね。
ちなみに『ハイパー自由英作文』をやるべき受験生は、首都圏であれば、東大・一橋・東外大・慶應(経済・医) ・早稲田(政経・法)志望者のみです。他の国公立大学志望者や、英検準1級やTEAPの受検者であれば、取り組む必要はありません。
さて、以上の見解については、ある程度以上の自信があるものの、自説を確かめるために、youtube上で [大矢、自由英作文]と検索してみました。すると一番上位に上がっていたのが、大学生(?)の人気Youtuberさんの英作文講座でした。
その人は実は、自由英作文をするのに「模範英文の暗唱は必ずしも必要ではない」という、ちょっと不適切なアドバイスをした人でしたので、私の仮説は間違っていなかったようです。(正しいアドバイスは、「難解な和文英訳の例文を暗唱する必要はないが、中学レベルの基本英文はある程度以上絶対に覚えなさい」です。そうしないと、英文を書けるようにはならないからです)。
さて、そうは言うものの、彼の英作文講座をちょっと見ていました。すると、明らかに間違った英語のレクチャーを始めたので、ちょっとビックリしてしまいました。
下の写真を見てください。
「きのうは雨でした」をそのまま日本語に直訳し、“Yesterday was rainy”. としてはいけません。と発言したのです。
” Yesterday was rainy.” は、「高3でも書くヤバい文章」だということになっています。また、「だいたい”Yesterday was” なんて表現、気持ち悪いね」とまで言い出す始末です。しかし、” Yesterday was rainy.”は、頻繁に使われる訳ではありませんが、決して間違った英語とは言えません。
「昨日は雨だった」の英語表現には、実に様々な表現があり、yesterdayやthe rainを主語にしても良いのです。下の文は全部正しい英文です。
- It was rainy yesterday.
- It rained yesterday.
- We had rain yesterday.
- Yesterday was rainy.
- The rain fell yesterday.
間違ったことを平気でドヤ顔で明言してしまうのは、教える側の人間としては本当に恥ずかしいことです。プロ講師とはとても呼べませんね。しかし、ここでこのyoutuberさんの失態をとりあげたのは、彼個人の問題点をあげつらいたいのではなく、英作文の指導や添削の現場において、とてもプロ講師(プロ添削者)とは言えない人たちが、同じような問題を起こしているだろうと推測できるからです。
まず、プロ講師と言えない英語教師が添削したり採点したりするとき、模範解答と異なるというだけで、その解答を簡単に❌にしてしまう事例が多いことが予想されます。
現に模試の採点なども、かなりいい加減なものが多いようです。
私も、本当は間違っていないのに×にされている英作文の答案をいくつも見たことがあります。例えば、as if S + V (現在形)で❌にされていました。
(as if S +V の場合は、Vを過去形(仮定法)にする場合が多いが、現在形(直説法)でも良いのです。辞書を見ればちゃんと書いてあります)。
次に、プロ講師でない英語講師は、生徒や受験生としての学習方法と、教師としての学び方は、少々異なっていることを理解していないのではないでしょうか。
受験生は多くの場合、一冊の参考書を徹底的にマスターすればそれでOKです。「昨日は雨だった」ならば、”It rained yesterday.” “It was rainy yesterday”. “We had rain yesterday.“ の三つぐらいを知っていれば、十分でしょう。
しかしプロ講師としては、三つの表現しか知らないのでは困ります。もちろんプロ講師だとしても、あらゆる表現に精通している訳ではありませんから、正しいか否かよく判らない英文にたびたび出くわすでしょう。だがそんな時には、徹底的に調べなくてはなりません。
しかしこのYouTuberさんは、「”Yesterday was rainy”は気持ち悪いね、間違いだね 」と決めつけてしまった。自分が知らない表現は間違いと即決してしまった。プロ講師としてはあり得ない事でした。
数学で言えば、「別解」で解いた答案を❌にしてしまうような愚行でしょう。
英語の場合は、別解として正しいのか否か、判定するのが難しい場合があります。しかし、現代の辞書やインターネットではかなりのことまで調べることができます。最大限の努力を払って、調べるべきでしょう。
例)”Today is raining.” は間違いか否か。
ーーー間違いとは断言はできないが、複数の辞典に一切それに似た表現はない。またインターネットで調べる限り、その表現を用いる人はほとんどいない事がわかる。だから使うべきではない、と判断できます。
最後に付け加えておきたいのは、英作文を教える者は、いつも辞書をフル活用しなくてはいけないということです。また、忙しい高校生・受験生も、たまには重要語について、辞書を精読してもらいたいと思います。
今回の場合であれば、辞書でyesterday (名詞)を調べてみれば、yesterday が主語で、wasが動詞の例文を、いくつも簡単に見つけることが出来たはずでした。例えば、
“Yesterday was my birthday.”
“Yesterday was Sunday.”
“Yesterday was my first wedding anniversary.”
“Yesterday was our day; Taro passed the bar examination.”
このくらい調べれば、” Yesterday was rainy.” は、ほぼ正しい表現だと推測出来たはずです。プロ講師の自覚がない人は、辞書を引く習慣がないのでしょうね。とても残念なことです。
ところで、エースクラウン英和辞典という高校初級用の辞書があります。この辞書でwant を調べると,
You (might) want to …
するほうがいいでしょう。
というのが出ています。こういう表現はご存知でしたか?実は『プログレス21』のBook 2 にも出てくる大事な表現なんですよ。(こういう表現を知らないと英会話をしているとき、相手の話が全然理解できない場合があります)。
今回はここまでとします。