
慶應湘南中等部の英語入試対策(その2)
日本育ちの小学生にとって、慶應義塾湘南藤沢中等部の英語入試(国語、算数、英語の三科目入試)はどのような難易度なのか、またどのような対策が求められるか、まとめてみましょう。
基本方針ーーー「読む」「語彙」重視から、「話す」「書く」重視へ
・従来の大学受験や英検対策に追従しないこと。従来の日本の学習方法論は読解と語彙力を優先しているからです。慶應大学付属中学を志すならば、発信<話す、書く>重視でいきましょう。
「読む」力
・英検準一級の長文問題をしっかりと読めなくてもOKだろうが、英検2級の長文読解問題はしっかりと抑えられるようにしておく。
英検準一級や一流大学を受験する高校生ならば、「読む」力をつけるために、英語ネイティヴの大人向きの新聞や雑誌(New York Times, National Geographic, Scientific Americanなど)の抜粋を読むのは有意義です。しかし、慶應義塾の付属中学を目指す小学生がそういった大人向きの英文を無理して読む必要はないでしょう。せいぜい Britannica(英米の義務教育終了レベルの英文だと言われています) が読めれば十分です。英検2級から準1級程度が想定されている訳ですが、「読む」力は英検2級プラスα程度でよろしいと解釈すべきでしょう。(ただし、英検2級の読解問題を正確に理解して高得点を取るのは、普通の中高生にとってはかなりハードルが高い課題です)。
「話す力」と「書く力」
・「話す」力は入試では問われないが、訓練する必要あり。
・「書く」力は英検準一級程度を目安にしよう。
「話す」力は、直接的には入学試験で問わないでしょう。もし「話す」力の試験が実施されれば、日本育ちの受験生は海外帰国組に到底太刀打ちできなくなるからです。そんな無意味な試験を慶應義塾がするはずはありません。断言しておきます。
しかし、「話す」ことが出来ないのは論外です。ネイティヴのように流暢に話せる必要はありませんが、理路整然とした英語を話せるのは当然といたします。
一つの理由として、子供の場合はとくにそうなのですが、「話す」力は「書く」ための前提だからです。話し言葉と書き言葉は、確かに多少は異なります。書き言葉では、用いられる語彙や表現が決まっていますし、文章を構成する規則や技術も学ぶ必要があります。しかし、どちらも英語を発信する能力という点で共通しています。まずは話すように書くことを学ぶのです。ですから全然話せない人は、全く書けない人なのです。英語を「書く」ためには、英語を「話す」機会を積極的に設けて練習する必要があるというわけです。
「書く」力は、間違いなく英検準一級程度の力が求められます。つまり、与えられた問に対して、自分の考えや体験を150字程度の自由英作文を「書く」能力が求められるでしょう。一つひとつの英文を正しく書くばかりでなく、理路整然としたまとまりのある文章を書けるようにしましょう。ただし、あまり大人びた問題は問われることはないでしょう。
対策
◎小学校低学年で英語に慣れ、小学校4・5年生から本格始動する
・小学校低学年くらいから英語を気軽に始めましょう。公文式教室などに通うのも悪くありません。日本に在住しているのですから、敢えて英語漬けにする必要はありません。
・算数や国語、読書、自然体験などをしっかりと欠かさないでください。バイリンガルの人は数学が弱いというデータすらありますが、算数と日本語では帰国生に負けないお子さんに育てておくことが最も大事な土台です。
・晩熟型だとか幼いタイプのお子さんで、英文法を駆使して言語を操るのがちょっと厳しそうな場合には、早期英語学習を強行するのは止めましょう。国語力がないタイプのお子さんも同様です。無理に頑張っても効果は薄いです。
◎四技能をバランスよく伸ばし、発信力(話す、書く)の育成を心がける。
・四技能(読む、話す、書く、聴く)をバランスよく伸ばしましょう。
・中学校の教科書を完全にマスターしていれば、発信力の土台はできあがりです。
中学英語といえば、一見簡単そうで、英検3級レベルじゃないかと考えてしまう人さえいます。しかし、中学英語は思った以上に奥が深いです。もし中学校の教科書程度の文章ならば、自由自在に書いたり話したり書いたりできるというのであれば、大学受験や英検準一級の英作文・面接にでも、かなりの程度対応できてしまいます。ちょっと信じられないかもしれないので、具体例を出します。
『英会話・ぜったい・音読(標準編)』(2000年)所収の中学校3年生用の検定英語教科書(Everyday English 3)では、Let’s Have a Debateという章があって、テーマが「動物園是非論」です。
この討論のテーマが、慶應大経済学部2013年の自由英作文の課題とぴったり同じものだったのです。動物園賛成論と反対論の文章を読み、次のテーマに答えるのです。中学校の検定教科書と慶應義塾大学の看板学部が同じテーマなのだから、面白いですね。
Should zoos in Japan be abolished? Why, or why not?
(日本の動物園は廃止されるべきか否か。また、どうしてそう思うのか)
もちろん慶應大学経済学部の入試問題のほうが総合的には難しい箇所もあります。しかし、受験生が書くひとつ一つの英文について言えば、中学三年生の教科書程度の英文(+α)を書ければ合格点がとれるのです。
◎和文英訳的な英作文・英会話を早く脱出する。
・高校生・大学生・社会人が英検準一級に合格する場合、頭の中で和文を英語に訳して英語を発信(書く、話す)している人が多いでしょう。しかし、小学生が英語の発信練習をする場合、なるべく早く和文英訳的方法論を脱出し、自分の考えや言いたいことを、日本語の媒介なしに直接英語にする訓練ーー英語脳の構築ーーを心がけたいものです。
・英作文も、最初から英語で書こう。
◎オーラル演習・Skype英会話・多読教材を活用する。
・オーラル演習中心で鍛えるべきでしょう。しかし、算数や国語の学習時間とのバランスを常に考える必要があります。
・ある程度基本例文を覚えたら、リーズナブルな価格のSkype英会話を併用して、積極的に英語で話す機会を設けましょう。
・Graded Booksや英米の子ども向き物語(当塾では、Louis SacharのMarvin Redpost君のシリーズ、ナルニア国のシリーズ、エルマーの冒険三部作、ダールの易しめの作品などを推薦しています。なお、エルマー君やマーヴィン君は小学校三年生の設定ですが、このくらいの年齢向けの本が読みやすいのです。主人公が中学一年生のハリー・ポッター君(『ハリーポッター第一巻』は読めなくても結構です)の多読もどんどんやりましょう。ただし、これも算数・国語とのバランスが大事です。数学音痴の私大文系卒の英語の先生の指導には安易に追従しないこと、くれぐれも英語の勉強のやり過ぎにはご注意ください。
慶應義塾湘南藤沢中等部が遂に英語を入試科目に採用!
すでに巷の話題になっていると思いますが、慶應湘南藤沢中等部 (←クリック)は、2019年度から一般受験生も英語で入学試験を受験できるようになるとアナウンスしています。
従来の試験制度では、帰国生のみが英語受験を選択できました。(この時、英語試験は英語による「作文」とされています)。 ところが、2019年からは、一般入試生か帰国生かに係わらず、(1)国語・社会・理科・算数の4科目受験か、(2)国語・英語・算数の3科目受験か、本人が選択できるようになったのです。つまり、一般受験生であっても、理科と社会の代わりに英語を選んで、中学受験に挑戦できるようになるわけです。
私立中学受験で英語受験できるのは、今まではあまり有名ではない中学校ばかりでしたから、たいした話題にもなりませんでした。しかし、来年度の2019年からは、慶應義塾大学の付属中学が英語受験に参加するわけですから、ちょっとした大事件だといえそうです。
では、どの程度の英語力が慶應義塾では求められているのでしょうか。案の定、他の私立中学よりもかなりレベルが高いようです。2016年9月段階の慶應湘南藤沢の案内 (←クリック)によれば、「英検2級~準1級程度」となっています。英語力で英検準一級程度といえば、日本育ちの小学生としては、ほとんど不可能と言って良い位の超高水準ではありませんか。
しかし、もう少し注意して調べてみますと、慶應義塾湘南藤沢中等はそれとは異なったメッセージも発していることが分かります。2018年までの英語参考テストについてですが、慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部のウェブサイトのQ & A(←クリック)が興味深いのです。「中等部入試における<英語参考テスト>とはどのようなものですか」という問いに、 「中等部入試において、英語に自信があり受験を希望する者を対象にしています。一般枠・ 帰国生枠いずれも受験可能ですが、同一問題です。レベルは英検2級程度で、 リスニングテストも含まれています」と解答しています。
英検準1級程度は、一般受験の小学校六年生には厳しすぎます。けれども、英検2級程度となると、日本育ちの小学生にも可能性が開かれているなという気がしてきます。 慶應が求めている英語力は、英検2級程度なのか、英検準1級程度なのか、それが大問題です。
あくまでも推測でしかありませんが、慶應側が求めている英語力をある程度予想することならば出来るでしょう。おそらくは、読解力(リーディング)と語彙力について言えば、英検準1級程度は小学生には難しすぎるという判断が慶應側にあるはずです。英検準一級で出題される英文は、『ナショナル・ジオグラフィック』とかWikipediaに出てくるような文章なのですが、小学生に積極的に読ませたい文章ばかりではありません。たいていのお子さんには、精神年齢がやや高すぎるのですね。 ですから、読解力と語彙力については、英検2級レベルを「本当に習得していれば」、十分余裕があるのではないでしょうか。
ただし誤解してもらっては困りますので、付け加えます。英検2級に合格と英検2級レベルの読解力があるというのは、全く別物です。というのは、英検2級合格者の多くは、英文の意味を正確には理解できなかったが、記号選択問題には正答できたというタイプだからです。英検2級の読解問題は高校生にとっても難解な英文なのです。したがって、英検2級レベルを「本当に習得」しているとしたら、小学生としてはかなり例外的に優秀だとみてください。
他方、書く(ライティング)については、英検2級程度では慶應側は少々物足りないはずです。というのは、我が国の英語教育事情を反映しているからなのでしょうが、英検の書く力の試験について言えば、ちょっと程度が低いからです。前述したように、慶應義塾湘南藤沢の従来の帰国生入試では、英語による本格的作文が求められていましたが、英検2級の英作文課題より遙かにレベルが高かったようにみえます。2019年度から慶應側が求める英作文力が英検2級レベルへと著しくダウンしてしまうとは考えにくいではありませんか。
したがって慶應側は、英検準1級程度の「まとまった文章」を書く力が欲しいなと考えているはずです。 ただし念のために付け加えれば、大人に求められる題材、たとえば、「同性結婚制度の是認についての見解を呼べよ」とか、「我が国の憲法を改正して大統領制の導入すべきか」といった課題を英語で論じられるようにすべきだという意味ではなく、あくまでも、子どもに相応しい題材について、「まとまった文章」を書く力を慶應は求めるはずです。 (このテーマについては、次回もう少し詳しく書きます)。
以上の推測をまとめましょう。慶應の附属中学の入試で求めらるだろう英語力というのは、読解力は英検2級程度が求められるだろうが、書く力は英検準一級に近い程度まで求められてるだろう。つまり、英検2級合格力に加えて書く力を養成すれば、慶應義塾の中学入試に合格する可能性も出てくるのではないか。
そして、<英検2級合格力+英検準一級程度の書く力>は、日本生まれ・日本育ちの小学校6年生にとっては非常に難しい課題ではありますが、全く不可能な課題ではないでしょう。週刊STの愛読者レベルに到達していない小学生であっても、なんとか挑戦できるレベルのではないでしょうか。
とはいえ、従来の英検2級対策あるいは準1級対策は全く通用しません。理由は簡単です。従来の日本の英検対策や英語学習法は、(1)小学生を念頭にいれていない、というだけでなく、(2)書く力(と話す力)を軽視した方法論に則っているからです。このことを踏まえ、次回は具体的な学習法について考察を加えてみましょう。