最近、小学生のお子さんを英検準一級に合格させたいという問い合わせを受けることが時々あります。たしかに英検準一級に合格することは、小学生や中学生のお子さんにとっては、かなりの勲章です。しかし当塾としては、早くから英検準一級を目指すことについては、あまり推奨している訳ではありません。
一つの理由は、英検準一級で取り扱われる英語、とくに英語長文は、高校生以上のためのトピックが中心であり、ほとんどの小学生のお子さんには理解しにくいものだからです。そういう大人向きの英文を、小学生に無理やり読ませることに何かメリットがあるのか疑問だからです。(但し、かなり早熟かつ優秀で文章の意味が理解できているようなお子さんならどんどんチャレンジしてよいとは思います。)
もちろん、英検準一級や英検一級に合格する小学生が毎年出てくるのは、事実です。そして、そういうお子さんたちに倣って、合格を勝ち取ろうとする人がいるのでしょう。しかし、合格したお子さんたちのほとんどは、英文の内容を理解して合格したのではなく、よく理解できなかったが、記号選択問題で答えを「当てる」コツを身に着けたにすぎないのではないでしょうか。私達が危惧するのは、意味が分からなくても記号選択で正答を「当てれ」ば良い、答えさえ合えばよいのだ、という大きな誤解を子どもたちに植え付けてしまうことです。そのような勉強法を最初から癖にしてしまうと、中高生になってから伸び悩む可能性大です。
英語学習というのは、かなりの長期戦です。英検準一級や英検一級なども、その一里塚に過ぎません。これからも英語学習は何十年も続くのです。だとしたら、内容を本当に分かり、英語の面白さを楽しむ勉強法をお子さんにしてもらいたいのです。そのためには、その年齢に相応しい英文を読ませたり、視聴させたりするのが、教育上非常に大事なことです。
もう一つの理由は、英検準一級よりももっと良い目標があると考えるからです。すでに別のブログでもある程度説明しましたが、英検準一級は易化し、今では上智・MARCHに楽して進学できる方法論になりました。また英検のリーディングは記号選択式問題のみ、ライティングはアルバイト採点者による激甘採点で構成が酷くても高得点が可能です。そのような簡易テストも使い道はあるでしょうが、目標とするにはちょっと残念です。
望ましいのは、大学教授のようなしっかりとしたプロが採点するテストで、適度な難易度の英文を読ませ、それを本当に理解したか否かを問うようなリーディング・テスト、また語彙・文法力だけでなく論理力・構成力と教養力を問うライティングのテストです。そのようなテストで合格点を取ることを目標にする方が良いのではないでしょうか。
理想的な英語の試験の一つとして、今回のブログのタイトルにも掲げましたが、慶應大学の経済学部、文学部、医学部の入試問題があります。いずれも、自分が専攻したい分野に関連のある、だがあまりに専門的すぎるわけではない長い長い英語長文を読むことになります。本人の知性と教養力が問われる英文を読むのだということです。
そして経済学部の入試問題では、その長文の内容を咀嚼したことを前提に、自分の立場を明確にする小エッセイのライティングが求められます。たとえば、「日本政府はもっと多くの観光客を呼び込むべきか」「日本政府は顔認証の技術を規制スべきか否か」といった問に対して、文献を引用しながら英語で答えなければなりません。つまり、慶應大学の経済学部に合格するためには、日本社会に関する見識を持っていないとダメですよ、小手先のクイズ・テクニックは通用しませんよと入試問題が語っているのです。
結論的に私が述べたいのは、小学生のうちに英検準一級に合格することなどよりも、高校生になって慶應の経済学部等の入試英語問題に対応できるように、もっと長期計画で、英語と「英語以外の勉強も」がんばって欲しいということなのです。
いや、どうしても今現在の目標が欲しいのだという人もいるかもしれません。その場合は仕方ない、ここでちょっと参考になる目標を二つそっと教えましょう。一つは慶應湘南藤沢中等部の英語の問題を解けるようにがんばってみることです。英検準一級とは異なって、リーディング(物語文と説明文、700~800ワード)とライティング(20分程度で書ける作文)の話題は小学生向きのモノです。なお帰国生が受験生の主体のようですから、時間制限は非常に厳しいようです。日本育ちのお子さんの場合は、時間制限を設けないで取り組むのが良いでしょう。もう一つは…やはりここで書くのはやめておきましょう(笑)機会がありましたら、またの機会に致します。
最後にもう一言。当塾では中学受験において、英語受験を奨励していません。特別な環境や資質に恵まれた者でない場合は、英語学習はほどほどで良いと考えています。
慶應湘南中等部の英語入試対策(その2)
日本育ちの小学生にとって、慶應義塾湘南藤沢中等部の英語入試(国語、算数、英語の三科目入試)はどのような難易度なのか、またどのような対策が求められるか、まとめてみましょう。
基本方針ーーー「読む」「語彙」重視から、「話す」「書く」重視へ
・従来の大学受験や英検対策に追従しないこと。従来の日本の学習方法論は読解と語彙力を優先しているからです。慶應大学付属中学を志すならば、発信<話す、書く>重視でいきましょう。
「読む」力
・英検準一級の長文問題をしっかりと読めなくてもOKだろうが、英検2級の長文読解問題はしっかりと抑えられるようにしておく。
英検準一級や一流大学を受験する高校生ならば、「読む」力をつけるために、英語ネイティヴの大人向きの新聞や雑誌(New York Times, National Geographic, Scientific Americanなど)の抜粋を読むのは有意義です。しかし、慶應義塾の付属中学を目指す小学生がそういった大人向きの英文を無理して読む必要はないでしょう。せいぜい Britannica(英米の義務教育終了レベルの英文だと言われています) が読めれば十分です。英検2級から準1級程度が想定されている訳ですが、「読む」力は英検2級プラスα程度でよろしいと解釈すべきでしょう。(ただし、英検2級の読解問題を正確に理解して高得点を取るのは、普通の中高生にとってはかなりハードルが高い課題です)。
「話す力」と「書く力」
・「話す」力は入試では問われないが、訓練する必要あり。
・「書く」力は英検準一級程度を目安にしよう。
「話す」力は、直接的には入学試験で問わないでしょう。もし「話す」力の試験が実施されれば、日本育ちの受験生は海外帰国組に到底太刀打ちできなくなるからです。そんな無意味な試験を慶應義塾がするはずはありません。断言しておきます。
しかし、「話す」ことが出来ないのは論外です。ネイティヴのように流暢に話せる必要はありませんが、理路整然とした英語を話せるのは当然といたします。
一つの理由として、子供の場合はとくにそうなのですが、「話す」力は「書く」ための前提だからです。話し言葉と書き言葉は、確かに多少は異なります。書き言葉では、用いられる語彙や表現が決まっていますし、文章を構成する規則や技術も学ぶ必要があります。しかし、どちらも英語を発信する能力という点で共通しています。まずは話すように書くことを学ぶのです。ですから全然話せない人は、全く書けない人なのです。英語を「書く」ためには、英語を「話す」機会を積極的に設けて練習する必要があるというわけです。
「書く」力は、間違いなく英検準一級程度の力が求められます。つまり、与えられた問に対して、自分の考えや体験を150字程度の自由英作文を「書く」能力が求められるでしょう。一つひとつの英文を正しく書くばかりでなく、理路整然としたまとまりのある文章を書けるようにしましょう。ただし、あまり大人びた問題は問われることはないでしょう。
対策
◎小学校低学年で英語に慣れ、小学校4・5年生から本格始動する
・小学校低学年くらいから英語を気軽に始めましょう。公文式教室などに通うのも悪くありません。日本に在住しているのですから、敢えて英語漬けにする必要はありません。
・算数や国語、読書、自然体験などをしっかりと欠かさないでください。バイリンガルの人は数学が弱いというデータすらありますが、算数と日本語では帰国生に負けないお子さんに育てておくことが最も大事な土台です。
・晩熟型だとか幼いタイプのお子さんで、英文法を駆使して言語を操るのがちょっと厳しそうな場合には、早期英語学習を強行するのは止めましょう。国語力がないタイプのお子さんも同様です。無理に頑張っても効果は薄いです。
◎四技能をバランスよく伸ばし、発信力(話す、書く)の育成を心がける。
・四技能(読む、話す、書く、聴く)をバランスよく伸ばしましょう。
・中学校の教科書を完全にマスターしていれば、発信力の土台はできあがりです。
中学英語といえば、一見簡単そうで、英検3級レベルじゃないかと考えてしまう人さえいます。しかし、中学英語は思った以上に奥が深いです。もし中学校の教科書程度の文章ならば、自由自在に書いたり話したり書いたりできるというのであれば、大学受験や英検準一級の英作文・面接にでも、かなりの程度対応できてしまいます。ちょっと信じられないかもしれないので、具体例を出します。
『英会話・ぜったい・音読(標準編)』(2000年)所収の中学校3年生用の検定英語教科書(Everyday English 3)では、Let’s Have a Debateという章があって、テーマが「動物園是非論」です。
この討論のテーマが、慶應大経済学部2013年の自由英作文の課題とぴったり同じものだったのです。動物園賛成論と反対論の文章を読み、次のテーマに答えるのです。中学校の検定教科書と慶應義塾大学の看板学部が同じテーマなのだから、面白いですね。
Should zoos in Japan be abolished? Why, or why not?
(日本の動物園は廃止されるべきか否か。また、どうしてそう思うのか)
もちろん慶應大学経済学部の入試問題のほうが総合的には難しい箇所もあります。しかし、受験生が書くひとつ一つの英文について言えば、中学三年生の教科書程度の英文(+α)を書ければ合格点がとれるのです。
◎和文英訳的な英作文・英会話を早く脱出する。
・高校生・大学生・社会人が英検準一級に合格する場合、頭の中で和文を英語に訳して英語を発信(書く、話す)している人が多いでしょう。しかし、小学生が英語の発信練習をする場合、なるべく早く和文英訳的方法論を脱出し、自分の考えや言いたいことを、日本語の媒介なしに直接英語にする訓練ーー英語脳の構築ーーを心がけたいものです。
・英作文も、最初から英語で書こう。
◎オーラル演習・Skype英会話・多読教材を活用する。
・オーラル演習中心で鍛えるべきでしょう。しかし、算数や国語の学習時間とのバランスを常に考える必要があります。
・ある程度基本例文を覚えたら、リーズナブルな価格のSkype英会話を併用して、積極的に英語で話す機会を設けましょう。
・Graded Booksや英米の子ども向き物語(当塾では、Louis SacharのMarvin Redpost君のシリーズ、ナルニア国のシリーズ、エルマーの冒険三部作、ダールの易しめの作品などを推薦しています。なお、エルマー君やマーヴィン君は小学校三年生の設定ですが、このくらいの年齢向けの本が読みやすいのです。主人公が中学一年生のハリー・ポッター君(『ハリーポッター第一巻』は読めなくても結構です)の多読もどんどんやりましょう。ただし、これも算数・国語とのバランスが大事です。数学音痴の私大文系卒の英語の先生の指導には安易に追従しないこと、くれぐれも英語の勉強のやり過ぎにはご注意ください。
慶應義塾湘南藤沢中等部が遂に英語を入試科目に採用!
すでに巷の話題になっていると思いますが、慶應湘南藤沢中等部 (←クリック)は、2019年度から一般受験生も英語で入学試験を受験できるようになるとアナウンスしています。
従来の試験制度では、帰国生のみが英語受験を選択できました。(この時、英語試験は英語による「作文」とされています)。 ところが、2019年からは、一般入試生か帰国生かに係わらず、(1)国語・社会・理科・算数の4科目受験か、(2)国語・英語・算数の3科目受験か、本人が選択できるようになったのです。つまり、一般受験生であっても、理科と社会の代わりに英語を選んで、中学受験に挑戦できるようになるわけです。
私立中学受験で英語受験できるのは、今まではあまり有名ではない中学校ばかりでしたから、たいした話題にもなりませんでした。しかし、来年度の2019年からは、慶應義塾大学の付属中学が英語受験に参加するわけですから、ちょっとした大事件だといえそうです。
では、どの程度の英語力が慶應義塾では求められているのでしょうか。案の定、他の私立中学よりもかなりレベルが高いようです。2016年9月段階の慶應湘南藤沢の案内 (←クリック)によれば、「英検2級~準1級程度」となっています。英語力で英検準一級程度といえば、日本育ちの小学生としては、ほとんど不可能と言って良い位の超高水準ではありませんか。
しかし、もう少し注意して調べてみますと、慶應義塾湘南藤沢中等はそれとは異なったメッセージも発していることが分かります。2018年までの英語参考テストについてですが、慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部のウェブサイトのQ & A(←クリック)が興味深いのです。「中等部入試における<英語参考テスト>とはどのようなものですか」という問いに、 「中等部入試において、英語に自信があり受験を希望する者を対象にしています。一般枠・ 帰国生枠いずれも受験可能ですが、同一問題です。レベルは英検2級程度で、 リスニングテストも含まれています」と解答しています。
英検準1級程度は、一般受験の小学校六年生には厳しすぎます。けれども、英検2級程度となると、日本育ちの小学生にも可能性が開かれているなという気がしてきます。 慶應が求めている英語力は、英検2級程度なのか、英検準1級程度なのか、それが大問題です。
あくまでも推測でしかありませんが、慶應側が求めている英語力をある程度予想することならば出来るでしょう。おそらくは、読解力(リーディング)と語彙力について言えば、英検準1級程度は小学生には難しすぎるという判断が慶應側にあるはずです。英検準一級で出題される英文は、『ナショナル・ジオグラフィック』とかWikipediaに出てくるような文章なのですが、小学生に積極的に読ませたい文章ばかりではありません。たいていのお子さんには、精神年齢がやや高すぎるのですね。 ですから、読解力と語彙力については、英検2級レベルを「本当に習得していれば」、十分余裕があるのではないでしょうか。
ただし誤解してもらっては困りますので、付け加えます。英検2級に合格と英検2級レベルの読解力があるというのは、全く別物です。というのは、英検2級合格者の多くは、英文の意味を正確には理解できなかったが、記号選択問題には正答できたというタイプだからです。英検2級の読解問題は高校生にとっても難解な英文なのです。したがって、英検2級レベルを「本当に習得」しているとしたら、小学生としてはかなり例外的に優秀だとみてください。
他方、書く(ライティング)については、英検2級程度では慶應側は少々物足りないはずです。というのは、我が国の英語教育事情を反映しているからなのでしょうが、英検の書く力の試験について言えば、ちょっと程度が低いからです。前述したように、慶應義塾湘南藤沢の従来の帰国生入試では、英語による本格的作文が求められていましたが、英検2級の英作文課題より遙かにレベルが高かったようにみえます。2019年度から慶應側が求める英作文力が英検2級レベルへと著しくダウンしてしまうとは考えにくいではありませんか。
したがって慶應側は、英検準1級程度の「まとまった文章」を書く力が欲しいなと考えているはずです。 ただし念のために付け加えれば、大人に求められる題材、たとえば、「同性結婚制度の是認についての見解を呼べよ」とか、「我が国の憲法を改正して大統領制の導入すべきか」といった課題を英語で論じられるようにすべきだという意味ではなく、あくまでも、子どもに相応しい題材について、「まとまった文章」を書く力を慶應は求めるはずです。 (このテーマについては、次回もう少し詳しく書きます)。
以上の推測をまとめましょう。慶應の附属中学の入試で求めらるだろう英語力というのは、読解力は英検2級程度が求められるだろうが、書く力は英検準一級に近い程度まで求められてるだろう。つまり、英検2級合格力に加えて書く力を養成すれば、慶應義塾の中学入試に合格する可能性も出てくるのではないか。
そして、<英検2級合格力+英検準一級程度の書く力>は、日本生まれ・日本育ちの小学校6年生にとっては非常に難しい課題ではありますが、全く不可能な課題ではないでしょう。週刊STの愛読者レベルに到達していない小学生であっても、なんとか挑戦できるレベルのではないでしょうか。
とはいえ、従来の英検2級対策あるいは準1級対策は全く通用しません。理由は簡単です。従来の日本の英検対策や英語学習法は、(1)小学生を念頭にいれていない、というだけでなく、(2)書く力(と話す力)を軽視した方法論に則っているからです。このことを踏まえ、次回は具体的な学習法について考察を加えてみましょう。
★慶應大学合格のためには、<英語と数学>あるいは<英語と小論文>を超得意にしておけ!
慶應大学に一般入試で外部から合格するには、どのくらい勉強したらよいのか。このあたりで、簡潔にまとめましょう。要するに、<英語と数学>あるいは<英語と小論文>(または<英語、数学、小論文>)を超得意にすれば、慶應大学に合格できます。
いずれも、東大受験生以上の実力か、競い合えるレベルが目安となります。国立大学と比べて科目数が遥かに少ないのですから、当然のことですね。
英語力の到達目標としては、理系であれば高3で英検準一級合格レベル、文系であれば高2から高3の段階で英検準一級合格レベルに到達していれば充分でしょう。英検準一級あるいは英検準一級 「+α」の実力で、青本などの過去問演習を積み上げていけば、慶應合格の切符を手に入れることができるでしょう。
★慶應大学の社会科学系学部を目指すならば、社会科学系の新書本を読んでおけ!
社会科学系学部、つまり、経済学部、法学部、商学部、総合政策学部、環境情報学部の小論文と英語の対策については、注意事項があります。
英語長文や小論文で取り扱われるのは、ほとんどいつも新聞・雑誌・書籍の社会科学的話題が中心です。これらの文章は、受験テクニックだけで読みこなすことは決して出来ません。
日本語で読んだことも聞いたこともない話題について、いきなり英語で読んでも訳がわからないし、小論文でも対応できないのは当たり前ですよね。例えば、次のような話題が出ると考えておいてください。
日本のエネルギー問題、ジェンダー論、グローバル化論、格差論、限界農村論、夫婦別姓論、経済成長戦略、ローマ・クラブ「成長の限界」論、沖縄基地問題、非正規雇用問題、就職市場における男女格差問題、ブラック企業、海外労働力導入の是非。
慶應の社会科学系学部の受験生は、様々な社会科学的話題について親しんでください。専門的な知識は必要ありませんが、社会科学的な内容の新書本をまずは10-20冊くらい読むことから始めましょう。
もちろん日々の新聞をしっかりと読むことも大事です。なかには『日本経済新聞』を読むという高校生もいるようですが、私どもは『日経』が面白いとは思えません。むしろ、『ニューズウィーク』『エコノミスト』のような週刊誌、『東洋経済』のようなビジネス誌のほうが良いでしょう。
なお、新聞・雑誌も新書本も読まないという場合は、慶應の英語と小論文は歯がたたないですね。我々は、慶應は潔く諦めるように指導しています。
★現在中学生ならば何を読むべきか?
当塾としては、まずは『朝日中高生新聞』『読売中高生新聞』等を勧めています。大人が読んでもかなり面白い新聞です。なお、新聞を全然読まないようであれば、慶應のことは忘れてください。お願いします。
★慶應大学の文学部を目指すならば?
文学部は、哲学、歴史、文学、行動科学(社会学、心理学など)と幅広い学問分野を含みます。志望者は専攻したい分野の本をすでに読んでいますよね!?
なお、本を読まないのに文学部に行こうなどとたわけたことを言う生徒さんが時々います。が、私どもとしては、そういう態度は非常に不愉快です。本を読まない人が文学部で何を学ぶのでしょうか?絶対に無理ですから、どの大学であれ、文学部は受けないでください。
慶應の小論文とは、いったいどういう問題なのでしょうか。ここでは代表的な学部として、経済学部、法学部、文学部、総合政策学部(SFC)、情報環境学部(SFC)の小論文問題がどのような問題なのか一瞥してみましょう。いずれの問題にも、やや長い課題文を読む必要がありますが、ここでは省きます。(商学部は慶應の小論文の問題としては本格的なものとはいえず、ここでは取り上げませんでした)。
経済学部 (2016年)
Aマイケル・サンデル(注、ハーバード大学の著名な政治哲学者で、彼の『正義論』は日本でもベストセラーになった。また、 NHK の「白熱教室」という番組では、日本人学生も含めて公開授業を何度もした。1953-)の『公共哲学』からその課題文を読み、「共和主義的政治理論の自由」とは何か、「リベラルの自由」の概念と対比しながら、300字以内で説明する。
B 地球温暖化防止対策のような、次世代のために現在の我々がコストを払うことは、我々の自由と矛盾しないかどうか、課題文を参考にしつつ意見を300字以内で論述する。
法学部(2016年)
(1)非常に影響力のあった歴史学者トインビー(1889-1975)の思想を解説した文章を読み、彼の思想とその根拠について400字以内でまとめる。
(2)トインビーによると、西洋文明の圧倒的優位という時代が終わり,それに代わる世界文明の時代が「来ようとしている」。これについて世界の現状に具体的に触れつつ、自分の見解を述べるという課題。(1000字以内程度か)
文学部(2016年)
現代日本の批評家である四方田犬彦のエッセイを読んで次の問に答える。四方田のエッセイは、実存主義者との論争でも著名で、一時代を築いたフランスの構造主義人類学者レヴィー=ストロース(1908-2009)の議論と、我が国の漫画家つげ義春(1937-) の漫画に言及したものである。
(1)その内容を300-360字で要約する。
(2)人間にとって「名付ける」とはどういうことなのか、課題文をふまえて320-400字で自分の考えを述べる。
総合政策学部 (SFC) (2016年)
所得や社会階層の「格差」について、「国際比較」「職業の世代間移動」「高齢化」という 3つの視 点による社会学的経済学的文章を読んで次の問いに答える。
(1) 2つの視点を選択し、それぞれ200字以内で要約する。
(2) (1)で要約した 2つの文章が、同じ視点 からの分析にもかかわらず違う結論になるか を300字以内で説明する。
(3) 2020 年の日本の「格差」について、調査・分 析の方法も述べつつ予想する問題。600字以内。
環境情報学部 (SFC) (2016年)
他の学部と比べると明らかに軽いノリを意識した問題で、学問的というよりはビジネスのプレゼンテーション的な問題設定である。ただし小論文の問題として易しいというわけでは決してない。
自分の身近なモノ(道具、例としてスマートフォン)やコト(サービス、例としてLineやTwitter)が、どのように登場してきたのか、そしてそれが、人間の意識や行動にどのような変化を与えていたのかを考える問題。A~ G までの資料を読んで次の問に答える。
資料は次の通り。 A は西岸良平の漫画「テレビが我家にやってきた!」 Bランガム「人は料理で進化した」C 関根 「ユニバーサルデザインの力」D西垣通「スローネット」Eグリーンズ編「ソーシャルデザイン」F横井「ゲームの神様」Gちきりん「社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう」
問1 それぞれの資料について一行で簡潔に答える。
問2自分の身近にあるモノやコトを一つ選び、それが、人の意識にどのような影響を与えたのか解答用紙の四つの枠を用い、採点者に説得的に述べる問題。
問3 問2で選んだモノやコトが、未来にどのように発展・進化を遂げていくか考え得る問題。880字以内。
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皆さん、慶應大学の小論文は如何でしたか? 慶應大学の受験生はこんなに面白い問題をやるのかと、興味を持たれた方もいるでしょう。あるいは、「げ、難しそう・・・出来るかな~」と不安に思われた方もいるでしょう。
親御さんも含めて、やり甲斐のある試験問題だなとか、この本すぐにでも読んでみたい ! といったような意欲が湧くようであれば、慶應大学とは相性がよいのです。ちょっと大変そうだなと思ったら、あまり向いていないのかもしれませんね。思うに、慶應大学にそんなに縛られる必要も必然性もないんじゃないかな~。他にもいろいろといい大学ありますよ!
受験生が小論文で高得点を取るためには、予備校等で様々な受験テクニック(=微調整)を身につけておいた方が良いのはもちろんです。しかし、小手先のテクニックで慶應大学の小論文をパスできるというものではないでしょう。慶應大学を受験する資格がある人ならば特別な対策を施さなくてもラクラクにパスできる、それが慶應の小論文なのですから。日頃から新聞・雑誌・新書本を楽しみながら読んだり、ニュースや教養的TV番組を見たりしながら、日常的に自分の思考を磨き続けてきた人ならばそれほど苦労なく書けてしまう試験だということなのですね。
最後に付け加えておきますと、受験資格のある受験生の争いの中で、慶應大学の文系諸学部(法学部、文学部、経済学部、SFCなど)に合格するには、最終的に英語力が決め手のようです。これは受験界では半ば常識となっています。